祟りを女神から受けまくった転生者の冒険って、こんなのだと思う
不定期連載です。
ざまぁ展開は、書く予定は今のところ無いです。
何回も改稿するかもしれません。
よろしくお願いします。
※プロローグです。
「死にたくねぇっ!!」
膨れ上がった紐付きリュックを背負っているポニーテールの少女が、山の坂を全速力で登りながら、背後から迫りくる脅威に絶叫した。
逃げる彼女をよそ見もせず追うのは、涎を垂れ流している巨躯な狼の群れ・毒々しい配色を持つ蜂の大群・鎧みたいな殻を全身に纏う化け物熊・人間を丸呑みできそうな大蛇・牙を持つ怪しげな馬・牛の背を超える二頭の大鷲・複数のオーガ・蔦を伸ばす食人植物・鼻息を荒らしているゴブリン、オーク達・無骨な盗賊団・殺意を剥き出しにしている魔族・フードを被り梟の紋章を胸に掲げた国直属の暗殺部隊・異様な進行に何事かと集まってくる野次馬等々だ。
「あんの女神めぇっ!! とんでもない祟りをこれでもかとかけやがって、ちくしょぉおおおおおおっ!!」
少女の名前は、ヤマネ。
実は彼女は、この世に生を受ける前に、タンポポみたいな花の髪飾りを付けている女神から、加護という名の祟りを、複数掛けられているのだ。
天賦の才も天から与えられず、人並外れた魔力を持っていないヤマネの息は、長時間ぶっ通しで山道を駆け抜けているにも関わらず、あまり乱れていない。
まずヤマネに接近したのは、彼女の頭上で旋回している一頭の大鷲だ。
空から彼女の元まで一気に降下する。
鋭い風切り音を聞き取った彼女は、すぐにベルトに提げてる鞘から黒く鋭利な石を取り出した。
「鳥刺しにすんぞてめぇえええっ!」
それは、黒曜石のナイフだ。
屈んで見上げたヤマネは、そのまま至近距離にいる大鷲の首筋を狙って切り裂いた。
熱い鮮血が、彼女の体と雑草にかかる。
攻撃するために立ち止まったことで、ヤマネと彼女を狙う集団の距離が、一気に縮まった。
すぐにヤマネは、ナイフをしまい、翼を微かに動かしている瀕死の大鷲を両手で抱え、蜂の群れに向かっておもいっきり投げた。
羽ばたいている大鷲に追突した蜂の群れは混乱しては拡散し、盗賊達や化け熊やオーガらの視界を遮るよう暴れだしたのだ。
盗賊達が怯んでいるのをよそに、大蛇がヤマネめがけて飛翔する。
「フォレトスタイパン・・・・・・てめぇの習性は、とっくにわかってんだよボケッ!」
しかしヤマネは、まるで蛇の動きを予測するかのように鮮やかにそいつの頭を両手で掴んだ。
ずっしりした重さだ。全長も余裕で彼女の背を超える。
大蛇は、尻尾は動かせるが、顎は彼女に握られているせいで封じられている。
そのままヤマネは、掴んでいる大蛇の尻尾を鞭のように扱う。
こん棒や折れた短剣を得物にしているゴブリン達を、横薙ぎで豪快に振り払い、木の枝上に立つ暗殺部隊からの射出された矢の雨を、回転するよう振り回しなんとか対処。
しかし、矢の全てを彼女が捌ききれなかったのか、彼女の頬に一つの鏃が掠ったのだ。
「ああ痛ってぇえええええぇえええっ!! てめぇ・・・・・・乙女の顔に何傷つけとんじゃこらっ!! こちとら金属アレルギーなんやぞっ!!」
と、ヤンキー顔負けの険しい表情をしたヤマネは、こちらに迫りくるでっかいハエトリソウの口に傷だらけの大蛇を投げ込み、至近距離にいるオーガの股間めがけて飛び蹴りし、牙を持つ馬の前足をナイフで切り裂き、後ろに振り返った後再び遁走を始める。
彼女の全身の肌が、少しだけかぶれだす。
「かゆいかゆいくそっ! ・・・・・・なんだ? なんかいきなり寒気が・・・・・・?」
顔だけ後ろを振り向いたヤマネの全身の毛が、逆立つ。
そう、冷気を纏う雹の塊が、急接近してきているからだ。
氷の魔術・・・・・・背中からコウモリの翼を生やしている魔族の一人が、彼女に狙いを定め放ったのだ。
「詠唱も無しに魔術使えるなんて、羨ましすぎるだろ!」
地面に横転して、雹の攻撃を紙一重で回避するヤマネ。
射出された氷の魔術は、射線先にある太い幹を持つ木々を十数本ほど容易く突き破り、地面に着弾した際には、広範囲を凍てつかせた。
「やべぇ・・・・・・掠っただけでも確実に死んでたぞ・・・・・・って、呆然としてる場合じゃねぇっ!」
すぐに立ち上がるヤマネは、滑る危険を考慮して氷漬けになった山道を諦め、近くに転がってる拳大の雹の欠片を拾い、茂みと雑木林がぼうぼう生えてある獣道を進むことに決めた。
茂みの枝に足をからめとられながらも、怯まず走るヤマネに、もう一頭の大鷲が彼女を襲う。
それに対しヤマネは、足を止めず、先程拾った雹を上空に投げる。飛来した拳大の鈍器は、的確に大鷲の片目を突いたのだ。
「よしヒットっ! おっと、さっきから見かけないと思ったら・・・・・」
喜びもつかの間、ヤマネの進む先に、巨躯な狼の群れが立ち塞がる。
どうやら先回りし、茂みの陰に潜んでいたらしい。後続と自分らで彼女を挟み撃ちにするつもりだ。
しかしヤマネは、足を竦むことなく、傍にある大木を猿みたいに軽やかに登り始めた。
「このタイプの狼は、木登りが苦手だろ!」
ヤマネに群がる狼らは、彼女を引きずり降ろそうと飛び掛かるのだが、彼女の方は、噛みつこうとする猛獣の鼻頭を足蹴にし、振り落とす。
遂には狼達は、魔族から放たれた灼熱の炎魔法の巻き添えを喰らって一体残らず火に包まれた。
ヤマネの方はというと。
「氷の次は、炎かよっ!」
急いで大木の枝から飛び降り、難を逃れていた。
それから少しの間獣道を進んだヤマネは、平野を見渡せる見晴らしが良い場所までたどり着いた。
彼女の足が止まる。
そう・・・・・・彼女は崖の淵に追い込まれてしまったのだ。
見下ろせば、足場なんて見当たらない急勾配の坂、もとい壁のみ。落ちれば魔術でも使わない限り助からないだろう。
「追い詰めたぜ・・・・・・」
盗賊の一人が息を乱しながら呟く。
ヤマネを狙う奴らが、彼女の逃げ場を塞ぐよう集まった。
しかしヤマネは、気に掛けることなく、何かを早口で唱えていた。
『風の象徴であるシルフよ 我は命ずる 天にも昇る大風を起こせ
方位は緑月の元 威力は平 精霊の猛威を我の前に示せっ!!』
「おい誰か早くあいつを生け捕りにしろっ!」
「賊がしゃしゃり出るなっ! 真っ先に始末しろっ!!」
ヤマネを生かすか殺すかで人達は揉め始め、怪物共は、危険を察知したのか後退りしている。
時間の猶予を掴んだ彼女の詠唱は、終えた。
「風属性魔術『竜巻』っ!!」
人智の域を超える現象・・・・・・魔術が炸裂した。
ヤマネが術名を唱えた次の瞬間に、彼女の足元から魔力でできた上昇気流が広範囲に起きたのだ。
「あばよっ間抜け共!」
暴風で怯んでいる敵達をしり目に、ヤマネは背負っているカバンにぶら下がってる紐を引っ張り、崖際から地面の無い崖の先まで飛び降りた。
いきなりのことで、盗賊達が崖際まで走り出し、見下ろす。
唖然とする奴らの視線の先には、少女がいた。
転落した死体・・・・・ではなく。
「達者でなっ!」
背負っているカバンの上部から展開された絹製のブーメラン型の傘・・・・・・もといパラシュートで滑空し親指を立てるヤマネが。
彼女が繰り出した竜巻の魔術は、実は敵達を吹き飛ばすための物ではなく、パラシュートに浮力と操作性を与えるためのものだったのだ。
「ああ落とせっ落とすのだ!!」
宙を舞うヤマネは、魔族の掌から射出された氷の塊や、暗殺部隊が射る矢の雨を蛇行飛行でなんとか回避し、遂には敵達の手が届かない安全圏まで到達する。
「ああ、つっかれたっ。うまくパラシュート開けて良かったぜ。
本当にこんな祟りが無ければ・・・・・・無ければ・・・・・・」
辺りを見渡したヤマネの瞳から、微かに熱い雫が零れた。
「幻想・・・・・・的な景色だ・・・・・・」
今にも沈みそうな夕日に照らされ影を落としている渓谷。オレンジ色の霧の海に呑まれてる森。遥か先にそびえる赤紫の峰々。鏡みたいに透明な湖。優雅に空を飛ぶ美麗な渡り鳥ら。野に駆ける歪な角をかぶっている大ヤギの群れ。地球では見られないような緑の光を放つ月。
「地球に二度と帰れず、女神から祟られ、危険な目に沢山遭い、散々だったんだけど・・・・・・なんだかんだいって、この国は、この世界は・・・・・・俺、じゃないあたしが、焦がれて求めていた新天地なんだね」
感動したヤマネは、近くの小さな丘まで無事に着陸した。
「さて、今日はここら辺で休むか・・・・・・。」
とりあえず彼女は座り、使ったパラシュートを畳んでリュックに収納し、革製の水筒と消毒液の瓶を取り出す。
星空を仰いでいるヤマネは、まず頬にある傷を消毒し、水筒に口をつけ、水を豪快に一気飲みする・・・・・・が、派手に足元まで吐いてしまった。
どうやらヤマネを見守る女神は、そう簡単に彼女を休ませる気はないようだ。
ヤマネの視線の先には、背丈が近くの山々を超える巨人が欠伸をしながら起き上がり、翼をはためかせてる天使が舞い降り、『ターゲットヲ排除スル』と合成音で発している重装備のゴーレム達がこちらまで進撃し、挙句の果てに・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・どうも・・・・・・お背中お借りしています」
現在進行形でヤマネが座っている小さな丘の正体は、人を容易く丸呑みにできそうなドラゴンの背中だったのだ。
ヤマネと頭を上げたドラゴンは、しばらくの間見つめ合い、そして・・・・・・。
ドラゴンが、常軌を逸する音の圧を持つ咆哮を繰り出した。
すぐにヤマネは、ドラゴンの背から遁走する。
「っざっけんじゃねぇええええええぇぇえええええええっ!
あのドエスヒステリック女神めっ!!
こんなめったっくそな祟りをこれでもかとかけやがってぇえええぇえええええええっ!!」
※場面は変わり、ヤマネが狼共から逃げた山道へと戻ります。
ヤマネに首を斬られた大鷲の死体が、地べたに転がっていた。
それは、深夜時にひとりでに起き上がる・・・・・・生き返ったのだ。それも完治した状態で。
もちろん大鷲の首の傷は塞がっている・・・・・・どころか、全身の筋肉が、蘇生される前よりも膨れ上がり、生気が満ち溢れだしたのだ。
大鷲は、生き返ってすぐに起き上がり、辺りを見渡し、そして意気揚々と夜空へと飛び立った。
自分を殺した彼女に報復するため。
ご覧下さりありがとうございます。