7 The New and Normal Day《それでもって、普通の日》
「かんぱーい!」
「乾杯」
「…………カンパイ」
翌日の昼食はなぜか屋上で宴会になった。ただし、乾杯は先輩がこっそり持ち込んだコーラで。
先輩はほんと好きだよな、こういうイベント。
「あー、まずはお疲れさま。それでカンちゃん、酷い目にあったらしいね?」
「それなりには。永久のおかげで無傷ですけど」
「いえ、わたしこそ久朗様のおかげで助かりました」
永久と二人でお互いに頭を下げあう。
いつもなら茶化すところなのに、先輩は渋い顔でこっちを見ていた。
「先輩?」
「あー、うん、ごめん。ちょっと情報が甘かったみたいだね。まさか黒い服の方々とも繋がりがあるとは思わんかった」
「不正するくらいですからね。頭と腕を使い分けないといけないってことでしょう」
なんだろうな。そういう頭は別のことに使えばいいのに。どうもこう、みんなそっちに行っちゃうのはなんでなんだろう?
とかこの世の無情を口に出そうとして、
「とにかく、ヤツらは地獄の果てまで追い込みかけとくから。カンちゃんと永久ポンは顔バレについては安心していいよ」
にっこりと笑う先輩に何も言えなくなる。
いつもなら「ニヤリ」とかそういう感じなのに、今日に限って何その読みにくい真っ白な笑顔。
(…………追い込みってなんだろうな?)
(…………わ、わかりません)
そんなやりとりをアイコンタクトだけでやる。
つーか、俺より先輩の方が権力大きいのかひょっとして。
いや、大きいだろうな。先輩の方が確実に情報を持ってるだろうし、こんな小出しのだけじゃなくてそれこそ足とか尻尾だけ残して消滅させられそうだ。
ただ面倒なことに、そうなると社会というのは機能しなくなる。不正を切り捨てるのは必要なことではあるけれど、頭が消えることで組織自体が立ち行かなくなることが多々あるのも事実だ。企業の場合だと後々の株価下落が起こったりとか、そもそも組織的に体制が瓦解したりだとか。
さらに面倒なことに、世の中が複雑化しているせいで共倒れが起こったりもする。笑えやしない。
「あーもうカンちゃんってば。そういうめんどいことは清水寺から投げ捨てて今は騒ごうぜい」
「…………そうですね」
そうだな。その辺りのことは今俺が気にすることじゃない。
ただ、今回わかったことが一つある。それは、やっぱり俺は当分NPLの捜査官――――正義の味方をやめられないだろうってこと。
危険中毒ってわけじゃない。俺に誰かが護れるのなら、そうある限りは護り続けたいってだけだ。
世界には、ささやかな幸福と共に落とし穴のような不幸が溢れてる。それは富とか名声を失うことだけじゃない。進むべき道に進めない人がいたり、知らずに踏みつけられている人がいたりして、たいていの場合それに気付いていないってこととか。今回それが半分くらいまで理解できてしまった。
俺なんかじゃまだその指針にはなれないし、気付かせることもできないだろう。だとしても、何かができるのならもう少しだけ正義の味方でいるべきなんじゃないかって、そう思ったんだ。
「どうぞ久朗様。佐伯先輩も」
「うっひゃー、永久ポンの手料理! いっただっきまー!」
「あーもう、重箱を荒らさないでくださいよ先輩」
そう。こんな生活を続けるためにも、他のみんながこんな生活を送れるようになるためにも。
走ることのできる限りは走り続けよう。俺を信じて一緒にいてくれる永久のためにも。
End