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新米幽霊頑張る (2)

 もう何をしたらいいか思いつかない。

 どうしよう、久我ちゃん。真面目でいいやつなのに、幽霊仲間になっちゃうかも。


「そこ、何しているんだ?」


 突然、路地の入口側から声をかけられて振り返ったら、警官がふたり立っていた。


「やばい、サツだ」


 おまわりさーーーん。こいつら捕まえてください!

 暴行に窃盗ですよ!!

 四人がかりでひとりを虐めてましたよ!!


 だけど加害者四人に対して警官ふたり。全員捕まえるのは無理がある。

 せめてふたりくらい捕まえてくれればと思っていたら、


「おい、どうした」

「応援呼んでくれ!」

「逃がすか!」


 お巡りさんが二名追加されました。

 え? こんな奇跡的な偶然ある?


 そこからはもう状況が一気に加速した。

 警官と見るからに悪そうな男達が揉み合っていれば、野次馬もやってくる。

 中には動画を撮っているやつもいるけど、警察に電話してくれるやつもいる。

 近くの交番に駆け込んでくれた人もいるみたい。

 おかげで四人とも無事に捕獲されて、久我ちゃんのために救急車も到着した。


「どうしてこっちに来たんだ? 巡回ルートじゃないだろう」

「なんでだったかな」

「なんか、行かなくちゃいけない気になったんだよね」


 救急車に運ばれる久我ちゃんを見守っていたら、警官達の言葉が聞こえてきた。

 どういうことだろう。

 誰かが警官を寄越してくれたってこと?


「なにをやってんだよ」

「うわあ」


 突然すぐ横から声が聞こえて、反射的に声が出た。

 びくっとしたりドキドキはしないけど、驚きはするのか。


「死神? あ、まさか」

「あまりに涙ぐましい努力をしていたからな。今回は特別だぞ」


 大勢の人間がいる場所で見ると、更に違和感がひどいCG顔だけど、得意げに言う様子は可愛かった。


「ありがとう。おかげで久我ちゃんは大丈夫そう」

「知り合いだったのか」

「まあね。あ」


 そういえば、あの幽霊が教えてくれたんだった。

 もう消えちゃった?


「どうした?」

「あ、いたいた。あの幽霊が教えてくれたの」


 少し離れた歩道の端で、物陰に隠れるようにしてさっきの幽霊は立っていた。

 ちょっとほっとしているように見えるのは、気のせいかな。


「お礼を言ってくる」

「おい」


 ぱたぱたと走って彼に近付いて、ここは警戒されないように笑顔でご挨拶よ。

 私が近付いてきたことで、無表情だった彼は少しだけ目を見開いていた。


「教えてくれてありがとう。あそこで襲われていたの、私の知り合いだったの。おかげで助けてもらえました」

「あ……」

「お、あなた話せる?」

「会社に行かなくちゃいけなくて……」

「ん?」

「助けないで素通りしてしまった」


 なんの話?

 過去にそういうことがあったってこと?


「仕事、しないと。でも……わからない」


 抑揚のない口調で話す内容を繋げると、彼は今でも仕事をしなくちゃいけないと思っていて、会社に行こうとしているんだけど、場所がわからなくなっているみたい。

 疲れて遅刻しそうで、でも体が動いてくれなくて、たぶん過労で倒れたんだろう。

 そしてそのまま……。


「迷惑かけてしまう。会社……」

「リーダー!」


 甘さを含んだ高い声が聞こえてすぐ、社畜くんの背後に女性がポンっと出現した。

 うわ、またCGが出た。

 少し目尻が下がった優しそうな眼の色っぽい女性で、薄茶色の髪を後ろで三つ編みにしてリボンをつけている。なにより目立っているのが胸の大きさだ。

 二十三年生きてきて、今まで見た中で一番胸がデカい。

 しかも服が胸に張り付いている。引力を無視しているわ。


「みんな待ってますよ。そろそろ一緒に行ってくれません?」

「でも仕事が……」

「リーダーは死んじゃっているから、もうあの世に行かないといけないんですよ。ちゃんと私が一緒に行ってあげますよ~ 大丈夫ですよ~」 


 うわあ。死神も大変だな。

 でもキャラになり切ろうとして、方向性が間違ってない?


「死神って性別あるの?」


 小さい声で隣にいた私担当の死神に聞いたら、彼が答えるより早く、巨乳のピチピチ制服を着た女性が、むっとした顔で近付いてきた。


「ちょっと! 私は亜由美っていうの!」

「あー、ごめんなさい」


 なんの制服なんだろう。

 上下とも紺色で、胸にぴったり張り付いて今にもボタンがはじけそうな上着と、お尻が見えそうなタイトスカートにブーツを履いている。

 スマホやPCのデータをちゃんと整理していても、こういう形で性癖が暴露される危険があるのね。

 この社畜の会社員は、甘えさせてくれそうな年上の色っぽい巨乳好きか。

 そんなこと知りたくもなかったわ。


「この子はなんなの? ずいぶんはっきり話すのね」

「死にたてなんだ」


 出来たてみたいに言うな。


「私って変わってます?」

「さっきパタパタ走っていたでしょ。幽霊が走るのを初めてみたわ」

「じゃあ普通はどうするの?」

「瞬間移動」

「わーい。カコイイ」


 確かに病院からここに来るときは一瞬だったわ。

 短い距離でも、あれが普通の移動の仕方なのか。


「まだ生きていた頃のくせが出ちゃうのね。でもラップ音をたてたり、ポルターガイストは出来たわよ」

「えらいわねー」


 頭を撫でるんじゃない。

 死神の寿命は知らないけど、彼らから見たら私は子供みたいなものなのかな。


「ん?」


 視線を感じて社畜氏を見たら、羨ましそうな顔でこちらを見ていた。


「さあ、リーダー」

「名前」

「え?」

「そこは名前で呼んであげてよ」


 ゲームで操るキャラの名前を声優が呼ばないのは大人の事情でしょ。

 名前を知っているなら、推しキャラに名前を呼んでもらえたら嬉しいはずよ。


「あ……康太くん。そろそろ行こう?」


 ぼんやりと私達を見ていた社畜……いや、康太さんは、何度か瞬きをしてから亜由美を見た。

 ほらー、反応あるじゃない。


「でも……仕事……」

「うーーん。仕事って言ってもね……」


 幽霊と死神とで、向かい合って黙り込まないで。

 すっごく居心地の悪い沈黙だわ。


「康太さんは有給使ったことある?」


 私に話しかけられると思っていなかったのか、ぼんやりと暫く私を見つめた後、彼は首をゆっくりと横に動かした。


「そっかー。会社の休みは?」

「日曜日」

「残業いっぱいしてたでしょ」

「……毎日」

「うは。やめたいと思わなかったの?」

「他所では……僕なんて、雇ってもらえないって」

「あー、それはパワハラ上司の決まり文句だから」


 ネットでそういう話は何度も見かけた。

 日本人は頑張りすぎよ。


「本当に役に立たないなら、嫌がらせして辞表書かせるわよ」

「……あ」


 理解したのかどうかはわからないけど、私と話す気はあるみたい。

 仕事の話なら反応するのかな?


「有休もとらないで、毎日残業したんだ。体調悪くても頑張っちゃったんじゃない?」

「……迷惑、なる」

「疲れててさ、休みたくても迷惑かけないように頑張ったんだ」


 康太さんは黙って頷いた。


「えらいねー」

「え?」

「康太さんはえらい! 逃げ出したくなっても頑張ったんでしょ? 責任感も強いしやさしい! おかげで久我ちゃんも助かった。あなたはえらいよ!」

「……」

「でもさ、もうちょっと自分にも優しくていいんじゃないかな。もうそろそろ、ゆっくりしてもいいんじゃない?」

「でも……迷惑」

「康太さんだって、休みの人の仕事を代わってあげたでしょ? たまには他の人にも頑張ってもらおうよ。今まで頑張ったんだもん。大丈夫だよ」

「がんば……がんばった」

「うんうん」

「辛くて……眠れなくて……」

「康太くん」


 今にも泣きそうな顔をした康太さんを、亜由美が優しく抱きしめた。


「えらかったね。ひとりで大変だったね」


 さっき私にしたみたいに頭を撫でて、優しい声で語りかける。

 康太さんの顔が巨乳に埋もれちゃってるけど、もう息していないから大丈夫だろう。


「向こうに行って、しばらくのんびりしよう。いくらだって寝ててもいいんだよ」


 亜由美に抱きしめられたまま、康太さんの体は淡い光を纏って輝き始めた。


「うん。もう行く。ありがとう」


 巨乳から顔をあげて私に向けてくれた微笑は、憑き物が取れたみたいに明るかった。


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