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天上界へ   (2)

本日投稿二話目です。

 この建物は全体的にサイズが大きすぎる。

 廊下の幅やホールの広さも、そしてこの部屋に置かれたインテリアも、部屋にいる人まで大きかった。

 ほとんどの人達が、模様は違うが門番と同じように顔の前に布を垂らしていて、部屋の中で顔が見えているのは、立派な椅子に座ったふたりだけだ。

 そのふたりも顔を隠している人達も、椅子に座っているというのに見上げないといけないほど大きい。

 私の身長の三倍以上はあるんじゃないかな。


「やっと来たか。その娘が田所理沙か。見た感じは普通の人間だな」

「そんなに大勢で来なくても、何が言いたいかはわかっている」


 ふたりともあまりに見た目がいいために、思わずまじまじと眺めてしまって、話の内容があまり頭に入ってこなかった。

 さすが天上人。年齢性別不祥の美人だ。

 東洋人を究極に美しくしたらこういう顔になるのか。すごいな。

 色気はないのよ。いっさい。

 というか、あまりに綺麗過ぎて実際に存在しているのか疑うレベルよ。


「まずは田所理沙の今後についてだが」

「……え? は、はい」

「どうした。我らがこわいか」

「いいえ? 綺麗過ぎてこわいというのはあるかもしれませんけど」

「綺麗?」

「ほお。おまえには我らが綺麗に見えるのか」


 ここでも人によって見た目が違う法則が発動されているのか。

 いいけど。

 異常なほどの美人を見る機会なんて、たぶんもう二度とないでしょう。


 中央の人は艶やかな髪を肩の下あたりで切り揃え、額に金色の飾りをつけている。

 後光がさして見えるのは幻覚じゃないよな。

 右側の人は短く髪を切り、中央の人よりは幾分地味目な服装で、紐で束ねた書類かな、資料かな?

 それをいくつも周囲に浮かせて、必要に応じて中央の人に渡しているみたいだ。


「ずいぶんたくさんの幽霊を成仏させたようだな」

「二十一人です」


 浮いていた紙の束のひとつが、中央の人の手元に滑るように着地した。


「え? そんなには多くなかったはずです」

「街で成仏させた霊がひとり。宮川幸奈。おまえ達が訪れた家にいた十二人と、あの山を彷徨っていて一緒に成仏した霊が七人」


 いつのまにそんなに増えているのよ?!

 みんなで成仏するみたいだから、どさくさに紛れて俺達も成仏しちゃおうぜーってノリか?

 

「それに生霊を体に戻し、生きる目的を与えたそうだな」


 中央にいる人が偉い人で、右側にいる人が補佐をしているようだから、中央の人に答えればいいのね。


「これだけの善行を積む幽霊は珍しい。成仏した人間の担当だった死神達も大いに感謝している」

「半分以上はアッシュの功績です」

「ふむ。それはその死神の違反行為の罪を軽くするために、自分の善行ポイントを譲るということか?」

「梨沙」


 止めようとするアッシュを手で制して、私は一歩前に歩み出した。

 落ち着け自分。

 感情的にならないで、はきはきと喋るのよ。

 

「いいえ。もともとアッシュの功績なんです。あの場でアッシュが罪を認めるように彼らに脅し……話してくれたから、先輩は安心して成仏出来たんです。洋子さんだって、彼らが罪を免れる可能性が高かったら、裁判にかけるより呪い殺す方を選んだでしょう。あの場にいた幽霊達も、アッシュの行動を見たからこそ、死神を信じて成仏しようと思ったんじゃないでしょうか」

「一理あるな。だが違反行為はいかん。どんな理由があってもだ」

「例外は認めないんですか」

「認めない。なにかしらの罰は受けなくてはならない」

「ならば軽い罰にしてくれるようお願いします」

「「「お願いします!」」」


 後ろにいた死神達が声を揃え、いっせいに頭を下げた。


「……おまえ達」


 整い過ぎて冷たく見える美形が、けだるげに額に手を当ててため息をついたのよ。

 今の仕草だけで、道を誤る人間が何人もいてもおかしくないわよ。

 もしかして布を垂らして顔を隠している人が多いのは、人間や妖が魅入られないためなんじゃないの?


「確かに昨今、成仏しない幽霊が増えていることは問題になっていたが……田所理沙。おまえは幽霊になって、どのように感じたのだ?」

「このやり方では、今の人間はあの世に行こうとは思わないなと思いました」

「駄目か」

「駄目です」


 人間だった時のイメージと違って、天界人の上下関係は緩い。

 たぶん力に差がありすぎて、偉そうにする必要がないんだろう。

 かなり地位の高い人達だろうに、死神達が押し掛けて来ても特に気分を害した様子がない。

 いい意味でも悪い意味でも神様はおおらかで細かいことは気にしない。

 ただ怒らせちゃ駄目だ。

 私なんて、蚊を潰すみたいに消されてしまうかも。


「以前は、生まれた時から親に従い、目上の者や上官に従うことを教え込まれていましたから、死んだら成仏してあの世に行くんだと言われれば、疑問を感じずに成仏する人が多かったんでしょう。でも今は、どんなところか知らない場所より、ひとまず現状維持したいという人が大半だと思います」

「ほお、ではどうしたらいいと思う?」

「あの世がどんな場所か説明した方がいいです。プロモを見せるのが一番ですけど、無理なら和風ファンタジーの世界ですと話すとわかりやすいかもしれません」

「和風ファンタジー……」

「ある程度善行の溜まっている人は、異世界風の街で暮らせるようにしたら、成仏する人が増えるかもしれないですよ」

「異世界風……」


 転生しなくても異世界風の階層で生活出来るなら、成仏したいって思う人はきっといるでしょ。


「おまえもそういう場所に行きたいのか?」

「私は死神の手助けがしたいです」

「梨沙?」


 アッシュに驚かれたのがかなり意外なんだけど。

 死神の彼と会えるようにするには、死神の仕事を手伝うのが一番でしょ。

 それにあの家にいた幽霊達のようにぼんやりとした姿になっていても、成仏する時に元の自分を取り戻せる人もいるなら、ほっとけないよ。

 やれるって気付いちゃったんだから。


「人間のことを理解出来るのは、元人間だと思いませんか? 好きなキャラでも家族でも、いざふたりだけになったら照れ臭かったりコミュ障で、まともに話せない人もいるんです。死んだばかりで動転していたらなおさらです。そうして距離が出来た相手に、成仏したいから助けてくれって言い出す勇気がない人だって、たくさんいるんじゃないですか? だからどさくさに紛れて成仏する幽霊がたくさんいたんですよ」

「なるほど。参考になるな」

「死神の中にも、手助けしてほしい人がいるって聞きました」

「ああ、わかっている」


 美形のたぶん神様はひらひらと手を振って、私の背後にいた死神達が何か言いたそうにしているのを止めた。

 

「前例ではほぼ間違いなく悪霊になっていた宮川幸奈が成仏し、守護霊になったというのは驚くべきことだ。私を驚かせるとは面白い。いいだろう。やってみるがよい」

「ありがとうございます。……あの、アッシュは」

「その者は、しばらく死神の職から解く。様々な場所を調査し、今回の家のように幽霊が群れている場所を見つけて報告するように。あくまで報告だけだ。死神ではなくなるのだから、おまえは手出ししてはいけない」

「……はっ」


 これはもう決定なのかな。

 死神なのに、調査しか出来ないなんて。


「期間は百年ほど」

「百年?!」


 つい叫んでしまって、慌てて両手で口を覆った。


「そのように驚くようなことか?」

「驚きます。百年も経ったら孫の代になっています」

「そうだったな。人間は短命だ」

「仕事で結果を出せば早く死神に戻れるぞ。十年くらいで済むかもしれぬ」


 十分の一になるの?! おおらかというよりいい加減だな。


「幽霊が群れている場所が見つかったら、田所理沙が説得等に当たり、そこに並んでいる死神達の中で、手の空いている者が成仏させる」

「え?」

「その時には、おまえは田所理沙の護衛係だ。彼女は死神とは違う。成仏しているから危険は少ないが、悪霊や危険な妖に狙われる可能性はある」

「はい」


 アッシュが私の護衛?

 うわ。こんな好待遇でいいの?

 これって処罰になっているのかな。私はむしろラッキーなんだけど。


「以上だ」

「ありがとうございます!」


 深々と頭を下げてから顔をあげたら、アッシュも他の死神達も同じように頭を下げていた。


「田所理沙は本来行くべき階層と同じ状態になる。感情や感覚が戻るため、しばらく不安定になるやもしれん。くわしくは係官に聞け」


 説明しながら中央にいた人が、机に置かれていた書類らしきものに、大きな印鑑をべしっと押し付けた。


「あ……」


 その途端、微かに甘い香りに気付いた。


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