三人目の男 (4)
サスペンスドラマになりつつある気がします。
よっぽどひとりになりたくなかったのか、三人はその店で二時間ほど飲んだ後、先日も飲みに行ったアメリカンバーに向かった。
奥の壁際の席に座り、ぼそぼそ話しながら暗い顔で飲んでいる野郎が三人。辛気臭いったらありゃしない。
でもその隣の席に座っている私達美女三人組だって、負けずに辛気臭いはずだ。幽霊と生霊だからね。
シロはメニューしか置かれていないテーブルの中心で、のんびりと寝そべっている。
猫の姿とはいえ、死神が癒しになっているってどうなの。
「よく飲むわね。見ているこっちが気持ち悪くなりそう」
「気付いている? 川戸はあまり飲んでいないのよ。勧めるのは上手いから、岩渕と桐生はかなり飲んでいるのにね」
洋子さんに言われて改めて三人に目を向けてみると、確かに川戸は食べる方に専念しているようだ。男を酔わしても彼の得にはならないと思うんだけど。
「営業に向いていますねえ」
「井上さん。いつのまに」
「おひさしぶりです。娘は妻のいる実家に帰っているので、こっちに来ました」
「だったら余計に傍にいたいんじゃないの? 普段は奥さんとは会っていないんでしょ?」
「すぐに帰りますよ。皆さんがどうしているかなと思いまして」
気にしてくれる人がいるっていいね。
こんなことがあったよと報告はしていたので、犯人が全員見つかったと知って、井上さんとしても今後の展開が気になっていたようだ。
たぶんまた、何日も何か月も持久戦だと思うのよ。
新しいマンションに引っ越したのにまた怪奇現象が起これば、部屋じゃなくて自分に憑いていることを桐生も理解するでしょう。
岩淵にも事務所で怖い思いをしてもらわないといけない。
そして体調が悪くなっている川戸も、今後は精神的にも弱ってもらわないとね。
自首を一番しそうなのは岩淵だよな。
それをわかっているから、桐生は岩淵を見張るために仕事に誘ったんじゃないかな。
「……そういえばこの店で」
「やめろ」
岩淵が思い出したように話し出すとすぐ、川戸がきつい調子で遮った。
「なんだよ」
「たいしたことじゃない」
「どうしたんだよ川戸。地震があったって話をしようとしただけだよ」
「なんだ、地震かよ」
興味をなくした桐生が、手でチーズをつまんで口に放り込んだ。
「川戸、イライラすんのは体調が悪いからか? それとも最近、女と遊んでないのかよ」
「地震なんてなかった」
「あ?」
「この店はかなり揺れて、グラスや皿が床に落ちたのに地震なんてなかったんだよ」
「そうなんだよね。ここって、前の道をトラックが通ると揺れたっけ? それとも近くで工事していたか?」
夜になってから、周囲が揺れるような工事をするわけがないでしょう。
酔っているせいで呂律が怪しい話し方で、へらへらしている岩淵を横目で睨みつけ、川戸はそっと首の傷に服の上から手を置いた。
「俺のすぐ近くにナイフが落ちていた」
「ナイフ?! なんでそんな物が」
「メシを食う時に肉を切るナイフだろ。大袈裟だなあ。はははは」
ご機嫌な岩淵の言葉を聞いても、川戸と桐生の顔つきは険しいままだ。
「そのうち、あいつぶん殴られるんじゃない?」
就職が決まって安心して、ひとりだけうまい酒を飲んでいる岩淵を見て洋子さんが言った。
テーブルに肘をついて足を組んで座る姿は、なかなかにいい女っぽいんだけど、顔色の悪さで台無しだ。
あと目付きがやばい。
白目が血走っているせいで青白くて、肌も血の気がなくて白いせいで唇の赤さが異様に目立つ状態で、ぎょろっと川戸を睨む様子は、私より幽霊らしい。
店にはそこそこ客がいるのに私達のテーブルに誰も座らないのは、なんとなく違和感みたいなものがあるのだとしたら、威圧感を放っているのは洋子さんだ。
桐生と川戸も、ときどきちらっとこっちに視線を向けるのよね。
「あれは無意識かな」
「気配はするのかもしれませんよ」
井上さんはいつものにこやかな笑顔で立ち上がり、テーブルに置かれていた桐生のグラスの上に手をかざした。
「娘も妻も、あまりお酒を仏壇に供えてくれないんですよ」
だからって、桐生なんかの酒をもらったら駄目よ。
それか、アルコール分を全部吸い取って水にしてやって。
「これからどうする?」
「うーーん」
川戸に聞かれても岩淵はもうかなり眠そうで、まともに答えない。
椅子に座っていても、体がふらふらと揺れている。
桐生は強いのか、見た目的には素面の時と変わらない。
「まだ飲み足りないな」
なんだって?!
「じゃあ俺のうちに行くか? 車で来ているから、途中でいろいろ買い込めばいい」
「それじゃつまらないだろ。どこかいい店はないのか」
「そうだなあ。女がいる店がいいんだろ? どっちにしろ車を置いていきたくないし……俺の知っている店に行くか」
お巡りさん! 飲酒運転しようとしているやつがいますよ。
ここで捕まえて、余罪も全部洗いざらい白状させてください!
「ついていくんですか?」
ふらふらしている岩淵に桐生が肩を貸して、川戸がふたりの前を歩いて店を出て行く後ろを、私達も遅れないようについていく。
「はい。井上さんは家族の元に戻ってください。守護霊なんだから」
「そうなんですけど、もうすこしご一緒させてください。気になって落ち着かないですよ」
「あり……がと」
「いえいえ」
シロを抱っこして歩く先輩と井上さんは、並んでいると親子みたいだ。
私は洋子さんと肩を並べて、男共の会話が聞こえる位置まで急いで距離を詰めた。
「これで事故って死なれたりしたら困る。こいつらは捕まってもらわないと」
「呪っているのに、守らないといけないってムカつくけど仕方ないわね」
駅近くの駐車場に車を停めているようで、大通りを進んでいくために人通りが多い。
終電までにはまだ時間があるみたいだけど、駅に向かう人の流れの中で、酔っている三人は歩くのが遅いのに堂々と歩道の真ん中を歩いていく。
他にも酔っている会社員の集団がいるし、どう見てもカタギじゃなさそうな川戸や桐生に文句を言うやつはいないんだろうな。
「なんで独身男なのにミニバン?」
駐車場に停められていた車を見て、思わず聞いてしまった。
車は詳しくないけど、ミニバンって仕事で使うか子供のいる家族が買うイメージだ。
「あ、それともキャンプ用かも?」
「川戸がキャンプ?」
似合わないよね。
川戸に似合う使い方って考えると、白のミニバンって犯罪に使われるイメージあるのは私だけ?
どこに停めても違和感のない車だよね。
「新車なのね」
誰よりも早く車に乗り込んだ洋子さんが、車内をうろうろしながら物色している。
三列目の席には荷物が山ほど置かれているのに、バックドアとシートの間のスペースは空っぽだ。
「ああ、私たぶん、このスペースに転がされて運ばれた気がする」
「洋子さん、こわいことを言い出さないで」
「……私も」
先輩まで?!
あ、椅子の下に薄汚れた毛布が押し込まれている。
やだやだ。この車、マジで拉致用じゃないでしょうね。
「ほら、しっかりしろよ」
「うーい。すんません」
半分寝ていそうな岩渕を二列目の席に座らせ、桐生は助手席に座った。
洋子さんは運転席の後ろの席、つまり岩渕の隣に座って、背後から川戸の首に手を回している。
「守護霊なので、今だけは事故にあわないように彼らを守りますよ」
「こんな奴らを守ってもらうなんて、本当に申し訳ない」
「いえいえ。今は死なれては困りますからね」
三列目の席に私と先輩が座り、井上さんは岩淵と洋子さんの間に座った。
ミニバンでよかったね。みんな座れたよ。
「ふん。嫌な予感がするな。アッシュも呼んでおくか」
「シロが言うとこわいんだけど。死神の予感って当たりそうよ」
アッシュがいてくれるのは心強いけど、仕事の邪魔はしたくないんだよなあ。




