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三人目の男  (1)

 桐生は人のよさそうな風貌の男だった。

 顔は特にイケメンというわけじゃないけど、笑顔も、話し方も声も優しそうだ。

 癒し系に見えるタイプだね。

 こういう男性が好きな女性って多いんじゃないかな。


 三人が集まったのは個室のある日本料理屋だ。

 けっこうお値段がいい感じのお店なのに、桐生と川戸は慣れた様子で注文していた。

 常連なのか、店の人とも顔見知りのようだ。


「梨沙……ありがと……見つけ……られた」


 川戸を初めてみた時に先輩が悪霊化しかけたので、今回も覚悟はしていたんだけど、三人が揃ったところに居合わせた先輩は、今にも泣きそうな顔で深々と頭を下げた。


「やめてくださいよ」

「ひとりじゃ……無理だ……った」

「そうですね。シロやアッシュや井上さん。紗理奈さんや洋子さん、みんなが助けてくれたからだね」

「うん……でも一番……ありがと」

「まだまだこれからですよ。こいつらどうにかしなくちゃ」


 ようやく本当のスタートラインに立てただけだ。ここからが大変よ。

 しかし、本当に人は見かけじゃわからない。

 きっと桐生は店の客からは、優しくて悩み事を打ち明けやすいとか、傍にいると癒されるとか言われていたでしょ?

 岩淵だって普通の大学生だ。

 川戸は見るからにいかれているとしても、彼らと街ですれ違っても、誰も殺人犯だなんて思わないだろう。


「就職? まだ決まってなかったのか」


 掘り炬燵式の和室の個室でずらりと料理が並べられ、店員がいなくなって三人だけになった途端、桐生の顔つきが変わった。

 笑顔が消え、冷めた表情で酒を飲む彼は、川戸より不気味かもしれない。


「つか、会社員なんて出来んのか? 面接にいるような嫌味な親父の下で働けんのかよ」


 その桐生を見ても川戸も岩淵も驚かないということは、いつもこうなんだろう。

 表情ひとつでこれだけ印象を変えられるなら、あんたは俳優になるべきよ。


「しかたないだろ。稼がないと食っていけないんだよ。川戸はいいよ、家が金持ちだから。桐生さんだって、店が潰れたならやばいんじゃないの?」


 川戸は呼び捨てで、桐生だけ敬称ありか。


「ああ? 俺はこれでも雑貨店と輸入会社を経営して、自分の稼いだ金で生活してるんだよ」

「え?」


 岩淵が驚いた背後で、私も驚いて洋子さんに視線を向けた。

 

「親にもらった店や会社の名目上の経営者よ」

「なんだ。自分の金じゃないじゃない」


 そこまでしてもらっておいて、真面目にやろうとしないんだから親が気の毒よ。

 それとも、そこまで甘やかす親が悪いのか?


「俺も稼いだ金を投資で増やしているから問題ない」

「……」


 桐生はホストで稼いだ金を計画的に使っているみたいだ。

 何もしていないのは自分だけだと知って、岩淵は肩を落とした。

 悪いことをするやつって、その才能を別の方向に使えないのかって思う時あるわ。

 罪悪感のなさそうなこいつらが金目当ての犯罪をしなかったのは、金には困っていないからだったんだね。


「そう落ち込むなよ、剛毅。ちょうど新しい事業を始めようと思っていたんだ。一緒にやらないか?」

「何をするんだ?」

「古い家を買い取って、リノベして高く売るんだよ。大工や土木関係にダチがいるからさ」


 意外なほど賢明な選択をしているな。

 今流行りの古民家ってやつでしょ。

 

「物件ごとの契約にするから、雇ったやつのスケジュール管理や給与計算の仕事をしてくれるやつが必要なんだよ」

「やる! やらしてください!」

「おう。もう事務所用に部屋は借りているから、一緒に見に行こうぜ。まだ何も揃えてないんだ」


 最近、荒れまくっていた岩淵の顔つきがすっかり明るくなった。

 それに比べると川戸の方が顔色が悪いかもしれない。

 タートルネックのセーターの上から、首の傷を気にしているようだ。


「何かしたの?」

「傷口に呪いを込めたのよ。昨日から膿んで、周りも赤く化膿し始めているの」

「だいぶ元気がなさそうね」

「私を殺したと思っているから、ちょっとは怖がっているんじゃない?」

「やっぱり、そうやって怖がらせて自首させるしかないわよね」


 岩淵をこれ以上追い詰めると、自棄になって何かやらかしそうだから様子見していたけど、仕事が決まったなら怖がらせても平気かもしれない。

 桐生もどういうやつなのか観察しないとね。


「ずいぶん優しいじゃないか。なにもあいつを雇わなくても平気なんだろ?」


 明日は朝から大学に行かなくてはいけないからと、岩淵だけ先に帰ってふたりだけになると、川戸が嫌な笑いを浮かべながら話し始めた。


「傍に置いて、余計なことをしゃべらないか見張るためか?」

「それもあるし、表の経理担当が必要なんだよ。何もしていないのに金回りがいいと怪しまれるだろう」

「まだ詐欺のほうもやっているのか」

「川戸」

「悪い。年寄りの相続相談だったな」


 ……金目的の犯罪もやっているぞ、こいつら。


「こいつだったのか?」


 他の仕事に言っていたアッシュが戻ってきた。

 最低最悪の人間を見ていたから、アッシュの姿を見て癒されないと。


「そうだった。これで三人揃ったわ」

「何? また死神が来ているの?」


 気配はわかっても姿を見たり声を聞くことが出来ない洋子さんは、私の目線の先を見ながら肩を竦めた。


「マメね。死神ってこんなにいつも傍にいてくれるんだ。保護者みたいなもんね。それか護衛?」

「私も先輩もあまり時間が残っていないのよ。だから心配してくれているの」

「あなたは成仏すればいいんでしょ?」

「うん。でもあまりひとりでいると、消えちゃうかもしれない」

「幽霊って不安定な存在なのね」


 人間が成仏するまでの過程で、一時的になる状況だからね。

 長く幽霊をやっているのは、リスキーなんだよな。


「それでどうすんだ?」


 たいして広くない個室だから、私達からすればここも人口密度が高いのよ。

 川戸の隣に洋子さんが座っていて、障子の間に先輩とシロがいて、私は桐生の背後に立っている。

 今は隣にアッシュがいて、腕組みして桐生を見下ろしていた。

 

「こいつの家に行けば証拠が見つけられるかな」

「見つけてどうする?」

「警察に届ける」


 突然、机の上に証拠の帳簿とかあった場合、それは裁判で使えるんだろうか。


「どれかひとつの犯罪でも容疑者になれば、いろいろ出てくるでしょ。でも、その最初のひとつが難しいのよ」

「川戸があなたをホテルに連れ込んだ証拠はなかったの?」

「捕まっていないってことはなかったんでしょうね」


 防犯カメラに何も映っていなかったのかな?

 ホテル側だって、そんな事件が起こったら経営に響くでしょう?

 あ、だから表立たないように、あまり協力的じゃないとか?


「やっぱり怖がらせるくらいしか出来ないわよね。被害者が毎日夢に出て、恐怖で自首したって話あったでしょ」

「こいつらにそれが通じるかな」


 ともかく犯人は見つけたんだから、これからはもう一歩踏み込んで行動していくわよ。

 まずは桐生の家を特定しよう。


「先輩はどうします?」

「行く」


 最近の先輩は妹の紗理奈の部屋でアニメを観ることが多くなっていた。

 犯人の住んでいるマンションの隣の部屋で、住人の男性と一緒にアニメを観ていると話して、家族全員に怒られていたのよね。知らない男の部屋に行くんじゃないって。

 相手から見えないから身の危険はないけど、住人の男性の方に霊障があるかもしれないんで、入り浸るのをやめるのはよかったと思う。

 知らないうちに美人女子大生の幽霊と同棲していました、なんてラノベにありそうだ。


「金はあるのね」


 洋子さんと別れて、みんなで桐生と一緒にタクシーに乗り込んで、乗り込めなかった死神は屋根に座っていたらしいけど、無事に桐生の家に到着した。

 桐生の住んでいたのは、駅近角部屋の高そうなデザイナーズマンションだ。

 だだっ広いリビングダイニングの端にシルバーと黒で作られたキッチンがあって、天井はコンクリート打ちっぱなし、壁も白と黒とシルバーという店舗のような色合いの部屋だった。

 引っ越したばかりだからか部屋には生活感がなくて、寝室以外はモデルルームのようだ。

 寝室だって、ベッドが使われているなって思える以外は何もないわよ。


「ここまで物がないと気持ち悪い」

「……何……する?」

「そうね。どうすれば怖がるかな」


 扉を開け閉めするとか、電気をつけるとか、水道の水を出しっぱなしは水がもったいないなあ。


「あ、先輩、スマホを使えるようになりました?」


 先輩が妹の部屋に行くようになったのは、もうひとつ理由がある。

 先輩の古いスマホを充電してもらって、それを使って動かす練習をするためだ。

 そういう映画があったじゃない?

 深夜に非通知で電話があって、出たら不気味な声がするってこわくない?


「よし、桐生を恐怖に陥れるぞ!」

「おーー!」

「こいつら大丈夫か?」

「無理だろ」


 私達がやる気になっているのに、死神共はソファーでくつろいでいるんですけど。




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― 新着の感想 ―
[一言] なんとなくサスペンス小説!?(笑) >キーワード ホラーではない >ジャンル  現実世界〔恋愛〕 死神さんの出番には期待できそうです。
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