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騎馬戦  作者: kyomukan
6/12

6

どこだよ、アイツ。

鈴木は、廊下を歩きながら、ポケットからスマホを取り出し、

もう一度、電話をかけた。

「おかけになった」

何度も聞いたガイダンスが流れ、苛立ちながら電話を切った。


つながらない。

電源が入っていないのか。


メガネが、汗でずり落ちてきている。

鈴木は、縁の部分を片手で持ち、押し上げた。


どこにいるんだよ。

焦りが強くなってくる。

また、スマホを取り出し、今度はロック画面を見た。

試合開始の5分前だ。


鈴木は、大将の白井を探していた。


だいぶ前から、いないことには気づいていた。

応援席でじっとしている、などということが、白井に出来るはずがない。

だから、気づいても、すぐには探さなかった。

そのうち戻ってくるだろう。そう気楽に構えていた。


甘かった。

いつまで経っても戻ってこない。

鈴木は、15分前から探しているが、まだ見つけられなかった。


探す前に、やるべき事は済ましている。

騎馬戦の参加者を、グラウンドに入場する前の、待機場所に移動させ、

白井以外の人が揃っていることを確認し、最後の打ち合わせを行った。


鈴木は、白井がどこにいるのか、もう一度考えた。

さすがに、トイレではないだろう。

見なくなってから、かなり経っている。

だとしたら、どこに。

教室にはいなかった。中庭にもいない。


もしかしたら。

鈴木は、屋上に向かった。

まさかという思いと、ここしかないという気持ちが、交錯する。

馬鹿は高いところが好きだと、聞いたことがある。

屋上のドアは開いていた。


いた。

白井が、横になって寝ている。


全身の力が抜けた。

こんな時に、こんな場所で。

相変わらず、肝が太すぎるヤツだ。


「始まるぞ」

声をかけたが、起きる気配はなかった。


頭を、思いっきり叩いた。

白井が、やっと目を覚ます。

手を引っ張って、体を起こしたが、まだ、ぼんやりしている様子だ。


「始まるぞ」

鈴木は、もう一度言った。

「…ああ、そんな時間か」

白井は、物憂げな表情で、そう言うと、

ゆっくり立ち上がり、大きく伸びをした。


その動きは、今の状況を忘れさせるほど、優雅で、

背景の空の青さと相まって、絵になっていた。


白井は美男子だ。モデルのように、背も高い。

何でもない仕草でも、白井がすると、つい、目で追ってしまう。

その上、あの美声だ。


女子からの人気は絶大だった。


鈴木が好きなのは女だが、

それでも、惚れ惚れするようなルックスと、立ち居振る舞いだった。


鈴木は、ハッとした。

時間がないのだ。

急ぐぞと、白井に言ったが、焦る様子が全くない。

業を煮やした鈴木は、手を掴んで、引きずりながら、階段を駆け降りた。


走って、なんとか間に合った。

なんで試合する前から、こんな疲れなきゃいけないんだよ。

鈴木は、膝に手をつきながら、荒く息をついた。


他の色の応援席が、ざわついている。

白井がいなかったから、というわけではない。

おそらく、黄組の応援席が、半分ほど空席になっているせいだろう。


開幕の笛が鳴った。

白井が、グラウンドに入っていく。

地鳴りのような、黄色い歓声が上がった。

鈴木は、呼吸を整えながら、白井に続いて入った。


そのすぐあと、他の色の応援席から、どよめきがあがり、

それが、どんどん大きくなった。


嘲笑が混じった野次が、飛んでくる。

「女に守ってもらうのか」

「モテる男は違うなあ」


全員、グラウンドに入った。

本来は、整列する。しかし、それはできそうにもない。


黒組は、25人。

それに対して黄組は、101人いる。

そのほぼ全てが女子だった。

みんな、気怠そうにしていて、並ぶ素振りさえ、見せない。


審判の先生は、困惑していた。

先生は、その場で形だけの礼をさせ、配置につくよう指示した。


グラウンドのこっち側は、女子で埋め尽くされている。


騎馬を組み始めた。


鈴木は、大将の馬の、前のところの役割だ。

しゃがんで、後ろの馬になる二人と、それぞれ手を組んだ。

白井が上にまたがって、組んだ手に、足を乗せる。

鈴木は、後ろの二人と呼吸を合わせ、せーので、立ち上がった。


黒組は、4人1組の騎馬が、 6騎だ。

それに対してこっちは、25騎いる。


女子たちは、喋りながら、だらだらと騎馬を組んでいるので、

普通より、かなり時間がかかっていた。


その間も、野次が飛んできたが、

鈴木は全く気にしなかった。


野次など、どうでもいい。

言いたい奴には言わせておけ。

勝つためには、どんなことでもする。

鈴木は、これが最善の策であることを、疑っていなかった。


全ての騎馬が組み終わり、準備が整った。

ようやく、試合開始の笛が鳴る。

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