忘れられていたことが1匹の猫により徐々に明らかになるラブコメ
俺はその日、1人で下校していた。
いつもなら、カップルがもれなくついてくるのだが今日はデートらしく
1人で帰ることになったのだ。別に羨ましいなんて思ってない。多分.....
本が好きで将来は小説家を目指してる為、学校でも常に本を持ってきては読んでいる。
小説自体もWeb投稿してはいるものの、2次選考まで残れたことが1回あるだけであとはすべて1次で落選してしまっているが諦める気はないので根気よく付き合っていくつもりでいる。いきなり大賞とか取るなんて大層なことは言えないので今の目標は最終選考に残ることにしている。
いくら大賞を取れても一発屋で終わってしまったら意味もない。出来るならずっと書いていたい、物語を紡いでいたいと思う。
部活も文芸部に所属はしているが部員は当然俺一人である。他の部活動でこの部室を使うことはないので1人でも部活として使用してる。
最早、同好会のレベルなんだが使わせてもらってるだけありがたい。
俺の学校での立ち位置は陰キャラ扱いされているので女子が寄ってくることもないので彼女のかの字もないのだ。
「彼女か、俺なんかに出来るわけないよな。欲しいと思う意欲がないのも原因だが。運命の出会いとか柄じゃないもんな~」
俺は、独り言を呟いていた。
「運命なんて漫画やラノベの世界だけだよな~。そもそも運命的な出来事自体が未だにないんだから、あっても対応に出来なそうだな........」
運命の出会いなんてものはそうそうあるものでない。昔、一度会ってて『ずっと好きでした』なんてシチュエーションなんて妄想も良い所だ。ただ、現在においては運命とは言わないが奇跡めいたことなら多少はある。ただし、恋愛関係ではないけどそれはそれでいいと思う。
しかしながら、その『運命』がいつ間にか自分の今後の行動から人生まで変化させられるなんて思う訳もない。未来なんて見えたらつまらないからだ。そんな荒唐無稽なことを考えていると。いつもの道を帰っているといつもとは違う風景がそこにあった。
電信柱の所に1人の女の子がしゃがみ込んでいる。
もしかしたら具合が悪いかもしれないと思い、近づいてみると具合が悪いわけではなくある動物を眺めていた。そう、猫だった。
白くてもふもふしている俺が見ても可愛らしい。少しだけ成長した子猫のようだだった。
見る限り、彼女も俺と同じくらいの年齢だろうか。夕日に当たって黒くて長い髪の毛が輝いて見えて、その髪を地面に着かないように膝にかけていた。俺自身が高校生なので不審者扱いされることはないはず......自信はないけど.......
俺は、しゃがみ込んでいた女の子に声を掛けたが特に他意はない。
「ねぇ、その子猫拾って帰るの?」
「ひゃ!び、びっくりした~」
「わ、ごめん。驚かすつもりじゃなかったんだ」
どうやら、女の子は猫に夢中で俺や通行人の存在に全然気づかなかったらしいがどんだけ集中してみてるんだよ。通行人達は敢えて関わらないようにしたんだろうと思う。まるで捨て猫を汚い物を扱うように。
女の子は、俺を見るなりすごい勢いで問いかけてきた。ちゃんと声を聞くと可愛らしい声をしていて、声もしっかりと通っていて聞きやすかった。
「ねぇ、この子助けてあげて!」
「君がこの子を連れて帰ってあげたら?」
「ううん、私の家は動物は飼えないの。だから、可哀想って思って.....」
どうやらこの子は、心優しい女の子のようだ。
猫か。こうやって猫を見ると昔を思い出す。昔の記憶が色々と曖昧なんだが猫と
遊んだ思い出だけは何故か残っている。他にも大切なことがあった気がするが全然思い出せなくて思い出そうとすると拒否するかのように頭痛を起こすのだ。
その理由は全く不明であり、病院に行っても適当にあしらわそうなので行ってはいないがすぐに何もなかったように消えるので気にしないことにしている。
「・・・・・ねぇ」
「ねぇってば!!」
「わ、びっくりした。何どうしたの?」
「いや、あなたがフリーズしてるから」
「ごめん、ちょっと昔に猫と遊んだことを思い出してて」
「なら、あなたが拾ってあげてよ。だってこんなに可愛いのに可哀想で」
猫が孤独になってしまうのを女の子は何とかしたいらしい。
かと言っていきなり連れて帰るわけにはいかないので一旦家に連絡を入れる。
「はい、もしもし。春彦?どうしたの?」
「母さん、あのさ。急な話なんだけど猫を連れて帰りたいんだけどいいかな?」
「うーん、私はどっちでもいいけどお父さんがなんて言うか」
「とりあえずこのままだと可哀想だから一旦家に連れて帰るよ」
母親にそう告げて電話を切る。そして、女の子の目を向けた。電話の内容を聞こえるようにしていたので少々不安な顔をしていた。
「話は聞こえたと思うけど、現状はこれで満足してくれるかな」
「でも、お父さんがダメって言ったらこの子は.......」
「まぁ、頑固おやじって訳じゃないから多分大丈夫だと思うよ」
父さんは別になんでかんでも駄目だって即決する人ではない。ちゃんと話を
聞いた上でどうするかを考えてくるので俺の中では大丈夫って結論付けた。
すると女の子がいきなり大声を上げる。
「あーー、やばいもうこんな時間。早く帰らないとまた言われちゃう。可愛い猫ちゃんのことよろしくね」
「あ、ちょっと」
名前も知らない女の子は猛ダッシュして消えてるようにいなくなった。うーん、すこしはお淑やかにね。可愛いのに勿体ないなって思ってしまった。
しかし、この猫と女の子の出会いが今後の俺の学校生活から私生活まで変わるなんて思ってなかった。
「猫とラブコメは突然」ってか。ありえないわ。
これは、一匹の猫がある男女が見つけ、猫をきっかけに色々な感情が交差していきそれは当人達が知りえぬ事実が徐々に明らかになっていく青春ラブコメである。
『奇跡』『運命』が織りなすラブストーリーでもあるかもしれない。