4歩目
着の身着のまま、足の赴くままに旅をしていると思わぬ出会いをする事がある。
「やァお嬢さん、こんばんは」
それは涼しい風の吹く夜、焚き火の灯りが当たりを照らす所に顔をフードですっぽり隠した彼は居た。
「もし良かったら、火に当たっていきますかァ? 」
私は彼の誘いを受け、火の下に腰を落ち着けた
ラヴが早くもお腹辺りでモゾモゾと寝る姿勢を探っているのを感じる。
「名前ェ、聞いても?」
「メイ」
「良い名ですねェ、私はカール。お嬢さんと同じ旅人です」
そう言うとカールは立ち上がって火で温めていたスープを一杯、器に入れて差し出してくれた。
「どうぞォ」
「ありがとう、ございます」
受け取って、一息に器の半分ほど煽った
白い息をほうっと吐くと、随分冷えた体が温まっていくのをよく感じる。
太陽を共に動き出し、月を枕に眠りにつく。前の村から出発してはや数日、晩に食うのは冷めたパンと塩辛い干し肉、それにもいい加減飽きが来ていた。
つまり、スープ凄い美味しい。
残り半分を一気に飲み干し、空を見上げる。
「星が綺麗ですねェ……お嬢さん、何処か行くあては?」
カールは全く空を見上げないまま、そう聞いてくる。
私は少し考えて、首を横に振った。
「そうですかァ……まァお嬢さんのようなヒトには大変な旅でしょうな」
「そうですね。でも、楽しいですよ」
思ったまま、言葉を返す。こういう会話らしい事を交わすのも随分久しぶりな気がする。日頃、喋りかける相手のラヴは基本寝てるし、孤独を感じることもある
「旅を始めた理由は? 聞いても、良いですかなァ」
―――私はぼんやり空を見上げながら考えたが、あまり上手く思い出す事が出来なかった。とても昔な事の気がするし、ごく最近の事のような気もする。
気がつけばラヴと一緒に旅をしていたんだ、とカールに伝えると、彼は首を捻って薄く笑った。ように見えた
「まァ、そういう事もありますわなァ」
カールはそう言ってスープを飲んだ。
それから暫く会話のないまま時が過ぎていった。
その間私は空を眺めたり、揺れる火を見つめたりしていたが、ラヴがもぞりと動いたのをきっかけにその場で立ち上がった。
「ありャ、もう行かれるんで?」
「はい。この辺の夜道は歩きやすいんで」
そう言って、ラヴをお腹に抱えたまま荷物を背負い上げ、私は火の灯りから出た。
少し歩いて、振り返ると火に木片を投げ込むカールの姿が薄らと見える
私はラヴを起こさないよう、そっと掴んで帽子の中に入れてやってからまた、歩き出す
スープの味がぼんやり口の中に残る、そんな寒い夜だった。