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異世界足任奇譚  作者: 月見ヌイ
2/6

2歩目

「お嬢さん、本当にココで良いのかい?」


若い商人が心配そうに言ってくる。


「はい、ありがとうございました」


私は荷台から降りて、代金を商人に手渡す。

商人は手のひらの銀貨2枚を暫く見つめていたけど、ふと何か思い立ったように私にその銀貨を返してきた。


「いや、良いよ。代金は要らない、たかが数日だし……それに」


「そうですか、じゃあ」


商人が言いきるより早く私は頭を下げ、銀貨を麻袋にしまいその場を後にした。


商人というのは、どうにも孤独を感じやすい職業らしい。

だから、商人が何を言おうとしていたのかは何となく察せた。

けど、私には関係ない事だ


「ね、ラヴ」


「クゥ」


鞄の中で寝ていたラヴが返事をくれる。

この子が居なかったら私もこの旅に商人めいた孤独さを感じていたのかもしれない……感じてたんだろうなぁ。


商人の寂しげな視線を背に受け、私は歩く。今度の目的地はこの目の前に広がる広大な、森


▶▶▶


森は好きだ、木や草のにおいは優しいし、木漏れ日は暖かくて眠気を誘う。

居心地がいい、きっと私の前世は森の地面に住むミミズかダンゴムシだったんだろう。


けど、こんな優しげな森なのにあの若い商人は勿論、この付近を行き交う商人や旅人は誰もこの森に近づこうとしないらしい。


こういう事はたまにある。

雄大で、美しい自然や建造物なのに誰も近づかない。足を向けないという事は


そして、こういう時は決まって何かと遭遇するんだ。それも、すごい危険で最悪命すら失いかねない出会いが……


その時だった、背後からヒュッと音を立て、私の頬を掠めるようにして矢が地面に突き刺さった。

生温い血がタラリと首筋まで流れる感触が気持ち悪い。


ラヴが鞄の中で動き出す気配を感じ、私は慌てて鞄を抑える。しかし二の矢はそんな私の手を掠めていった。

私は手の甲に流れる血を眺め、一切の行動を諦めて両手を上げた。


ラヴは鞄から飛び出し、一足で私の頭上へ駆け登って威嚇をする。


「へぇ、珍しい生き物を飼ってるんだね」


矢を放ったらしい人物が小さな着地音と共に気さくに話しかけてくる。

私は応えない、こういう時は何もしないのが一番だと前に教えてもらった。


「じゃ、目隠しするから」


声の主は私に姿を見せないまま手早く視界を布で奪った。両手の自由も奪われ、目が見えない分ラヴの声がより一層鋭くなっていくのがよく分かる。


「ふふ、げんきげんき。じゃ、大人しく歩いてね。君もそのまま、そこに居て」


背中を押される。ラヴも唸りながらも言われた通り私の頭上で大人しくしている。


どれだけ歩いただろう。半刻かもしれないし、半日かもしれない。

何分目が見えないので時間の経ち方がまるで分からない、分かるのは段々と森のにおいが変わってきているという事。


私はどうにも好奇心が抑えきれなくなり、思わず口を開いてしまった。


「あの、」


「なぁに?」

何気なく返事を返してはくれたが、項に冷たいものを当てられている。

銃か、剣か……はたまた


「あの、もしかしてエルフ族の方で―――」


私が言葉を切ったのは、自分の意思ではない。足をかけられ、体を地面に叩きつけられたから。

ラヴはどうしたのか、頭上に重みを感じない……まぁ、あの子は私より強いからきっと大丈夫だろう。


それにしても、落ち葉のにおいがしない。森の地面と言えば落ち葉と緩い地面なのに


「……ヒトの子さん、私も君に聞きたい事があるんだ」


「なんですか?」


「まずさ、君、怖くないの?この状況」


クゥ、という声が聞こえる。どうやら案外近くにラヴは居るらしい


「怖いですよ」


「ふふっ、そっか。それでなんだけどさ……外の世界って、どう?楽しい?」


どうやら、このエルフさんは外の世界に憧れがあるらしい。

ラヴもそれが分かってるのか、少し迷ったように唸ってからクゥ、クゥと鳴いて私の頬を舐めてきた。くすぐったい


「うん、そうだね。楽しいよ……色んなものが見れるし、食べ物も」


「そっか、そっか……でも、そこに私の仲間は居ないんだよね」


私の仲間もいないよ、そう言ったつもりだった。けど、実際に言葉が私の口から出ることはなかった。

また喋るのを遮られたわけじゃない。

言葉ごと霧に変えられたような、そんな不思議な感覚



気がつけば、私は森の入り口に立っていた。


▶▶▶


「クゥ」


「うん」


「クゥ」


「うん―――いたっ」


見るとラヴが肩を服ごと噛んでいる。

布に阻まれて牙こそ届いてないが、それでもチクッとする。

私はムッとしてラヴの小さな額を手でグリグリと押した。


「何すんのさ、ラヴ。こら、離してよ」


ラヴは頑なに離そうとしない。

森から離れるように歩き始めてからずっとそうだ。何か言いたい事があるなら言ってくれればいいのに……ムリか


「そんなにあの森が気に入ったの?」


ラヴは何も言わない、噛むのはやめてくれたけど、その代わりずっと森を見つめだした。ゆっくり、少しずつ離れていく大きな森の、その姿を


―――後に聞いた話では、あの森はエルフの森と呼ばれていてたまーに事情

を知らない旅人が立ち入ってはボコボコに打ちのめされて突き返されるのが決まりならしい。


そして、顔。顔は誰も見る事が出来てないらしい。私もそうだ、死角から撃たれて、目隠しされて。気がつけばポイ、だ。


「ね、ラヴは見たんでしょ。どんなだった?」


返事はない。


私はそんなラヴを見て思わず笑い、そして右手に握らされていたそれを見つめる。


「来ようね、足が向いたら」


「クゥ」


ラヴがやっと返事をしてくれた。


残してくれたメッセージは葉っぱ、いかにも自然と生きるエルフらしい


「また会おうってさ」


「クゥ!」


また、あの森に行くことがあったら

ラヴが見たものを私も見よう、そう思った。


吹く風から木々のにおいを感じる、そんな日だった。


エルフってどんな顔してるんでしょうね

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