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異世界足任奇譚  作者: 月見ヌイ
1/6

1歩目

「嬢ちゃん、ここでええんかい?」


私は頷く


「ほうかい、気ぃつけてな……あぁ、良い良い、金はいらんよ」


出しかけた麻袋を仕舞い、ここまで牛車に同乗させてくれた気の良いおじさんに深く頭を下げる。


おじさんはそんな私の頭を撫で、そのまま手を振り静かに去っていった。


「ふぅ……」


何となく漏らした溜め息に返事するように、クゥ。とお腹辺りから音が鳴る


「もう、私がお腹鳴らしちゃったみたいじゃん。ほら、ラヴもう出てきて良いよ」


音の主が服の中を駆け上がって襟首から顔を出す。異国に生息するというキツネのような、ネコのような顔をした……まぁ、相棒。名前はラヴ


「クゥ、クゥ」


「うん、そうだね。早くあそこに行って何かご飯にしようね」


私は荷物を背負い直し、歩く。

目的地はすぐそこ、荒野の向こうに見える寂しい村だ……名前は、知らない


▶▶▶


「すみませーん、おーい」


村は空だった。どうやら随分と前に捨てられたハーフリングの住処らしい、所々に生活の残滓が残されているが

めぼしいものは何も無い。


「ハズレ引いちゃったね」


「クゥー」


ラヴが頭を擦り寄せてくる。よっぽどお腹が空いているらしい


「まぁ、前に貰ったパンが残ってるし今日くらいは何とかなるか……ほら、ラヴ」


パンをちぎってラヴに渡す。するとこの子は器用に両手でパンを持って勢いよく食べ出すんだ。そういうのを見てると凄く和むし、優しい気持ちになれる。ラヴは私にとってとても大事な存在、唯一の家族なんだ。


「さてと、日はまだ沈まないかな」


なら、歩こう。他の村、街へ行こう。次は人か何か、生き物がいてくれたら良いな


「ァ、アノォ!」


何処からか聞き慣れない声が聞こえた。私は無意識にポケットのダガーを握り締め、チチッと舌を鳴らす。ラヴに警戒と臨戦を知らせる合図だ

パンを一飲みで片付けたラヴは、辺りを見渡し、鼻をスンと鳴らして音の主を探し出す。


「あっちだね」


ラヴが示した方角に視線を向け、すり足で少しずつ標的との距離を縮めていく。

けど、すぐにそんな警戒をする必要は無いと分かった。見えたんだ、その姿が


「なんだ、ハーフリングさんじゃない。なんでそんなところに隠れてるの?」


瓦礫の影に隠れるようにしてそこに居たのは紛れもないハーフリングで、どこか怯えてるみたいな顔をしている。


でも、ハーフリングっていう種族は例外なく好奇心が強い。この人も恐怖の奥に仕舞いきれてないその色が覗いている。


「ァ、えっと、あなた、ヒト?」


「うん、そう。私はヒト。名前は……ごめん、先に君の名前を聞いてもいい?」


「ァ、あぁ、すみません……わたくしィ、ハーフリングの、レミーといいます。訳あって今は文無しですがァ、以前まで食器の商いをしていました」


「そっか、私は…………メイ、かな。多分。こっちはラヴ、友達」


名乗るのが久しぶり過ぎてちょっと言葉を詰まらせてしまった。肩上のラヴは紹介されたのが分かるのかクゥ、と短く鳴いた。


レミーって名乗ったハーフリングさんは如何にも浮浪者っていう感じの見た目で、無造作に伸びた髭や髪の毛と種族特有の小さな体格のせいでハーフリングというより、ゴブリンやドワーフに見える。(ゴブリンやドワーフの見た目が汚いって話じゃないけどね?)


「えっとォ、ここで会ったのも何かの縁ですしィ、あちらでご飯でも……どう、ですゥ?」


「良いの? お金、ないんでしょ?」


「構いません、旅に産まれ商いに死にいくハーフリングの矜恃ですゥ。ささ、こちらにィ」


そう言ってレミーは瓦礫の影からピョンと飛び出て、小さな足をトテトテ鳴らして小走りで向こうへ行ってしまった。


「どうしよ……行こっかなぁ?」


「クゥ〜?」


ラヴは首を傾げてる。行けば?って言ってるのか、さぁ?って言ってるのか


多分、後者なんだろうな。



結局、私はついて行くことにした。

薄ら血の染み付いた小さな足跡を追って、歩いた。


▶▶▶


「ココですゥ。少しとっ散らかってますが、好きなとこに座って下さいィ」


レミーが足を止め、促した先には見るからに野盗に襲われたらしいキャンプがあった。持ち物は酷く散乱してるし、食器の破片も落ちている。


でも、やっぱり一番驚いたのは


「コレはァ、妻です。アレは息子、でこの子はァ、娘。4人で旅をして「いた」んです」


レミーが順に指を差して紹介した誰も体を奇妙に横たわらせ、すっかり乾いた黒血を広げていた。まぁ、要は死んでいるって事


どうやら私の予想は当たっていたらしい。


「ヒトに優しく、他種族に優しく生きてきたつもりだったんですがねェ。ふふふ、あっという間でしたよォ?」


レミーは笑い、散らばった荷物から的確に缶詰を漁って私に手渡してきた。

その手は、ガタガタ震えていた。

爪が割れるほど力んでいるのに、その手は生気が感じられないほど青白い。


「さァ、食べて下さい。余った分は持って行って下さいィ……遠慮しないで。最初からそうするつもりだったんです。次に、ココに現れた人に、全部譲ろうって」


「……そっか、ありがとう」


「いいえェ、その代わり、一つだけお願いがあるんですゥ」


そう言ってレミーは懐に入れてたらしい一本の短剣を地面に刺した。


「お願いします、家族の下に。どうか」


レミーの目は真剣だった。

傷だらけなその体は今にも事切れそうで、今私がやらなくても変わらないんじゃないだろうか。


だから私は缶詰を脇に置いて、立ち上がった。

ラヴは肩から降りて缶詰を爪でカリカリやり始めた


「ふふふ、メイさん。貴女は良いヒトです、本当に、ありがとう」


レミーは死んでいる家族の傍に座り込み、私に笑みを向けた。底抜けに明るい、ハーフリングらしい笑みを


どうかそのまま、笑ったまま安らかに眠れますように。


握った短剣を振り上げる

その後のレミーの顔は、あんまり覚えていない。


▶▶▶


「すっかり夕方になっちゃったね」


ラヴはまだ爪で缶詰を開けようとしている。

私はもう一つの麻に入れた水を飲むべく取り出すが、その中身がほとんど無い事を重さから理解した。


「手ぇ洗っちゃったしな……何処かで水場探さなきゃね」


クゥ、ラヴが鳴く。

あそこを後にして暫く立つ、次にあそこに行った人は盛り上がった地面と4つの缶詰を見つけ、そして缶詰だけ取っていくんだろう。私もそうすると思う


「次は何処に行こっか、ラヴ」


「クゥ」


旅は続く、果てはない

何処までも、続く―――。

小さい体はまとめて一つに

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