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魔理  作者: 新戸kan
にぶ

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なつかしきひびにわかれて

祝・脱引き籠り!

「んんー!今日も良い天気ですね!」

 青空の下、両手を上げて体を伸ばす。

 

 久しぶりの外出。

 水を汲み行く以外は城に籠ってましたからね。

 陽射しが……そうでしたね。


 空を眺めると感じる違和感。というか今更感。

 そこには時間をある程度示してくれる恵みの象徴が無い。

 空も青くはあるがどこか違う。

 どう違うのかはうまく説明できないが、違うということだけははっきりと分かる。

 それが世界が違うのだと改めて思わせる。



 おっと、空をぼーっと眺めている時間も勿体ないですね。

 今日は許可をもらって外に出ているのですから。


『クマさん、明日のお昼は時間をください。行きたいところがあるんです』

 

 新しく誕生してしまった魔具も能力の恩恵を受けるようで、先に効果が切れ元の服装に戻った二人の羨まし気な視線を浴びるクマさんに、日課の変更を求めていた。

 その場で何度もくるくる回ったりと随分とご機嫌な彼女は快く承諾してくれた。

 この魔法少女変身魔具から何か発想を得たようで、それを試したいと言っていた。

 あれから何が出来るのか不安ではありますが、クマさんのあのやる気に満ちた目は見て手嬉しくなりますね。

 

 でも二人しまいがいない時で本当に良かった…。

 次来る時までにどう隠すか考えておかないと。


 そんなことを考えながら中央広場を目指す。

 城から直接孤児院には行ったことが無いからだ。



 そう、今日の目的地はシスさんの孤児院。

 ある意味逃げていためいど服の存在。

 ――とは、別の目的もある。



 それにしてもどうしてでしょうか?戦争も終わったというのに…。

 私は以前と同じ恰好で街を歩いている。

 レイセさんから街に出かけるときは髪を隠すように言われていたからだ。

 確かに黒髪は目立ちますけど、もう必要ないことでは?と、思いながらも言いつけを守って深く被り直して先を急いだ。




 男子三日会わざれば刮目してみよとは言いますが、彼女らはどうしているでしょうか?


 そしてそれは街にも言えること。


 数か月もあれば変化は多少なりともある。

 世界が違えどそれは変わらない。と、再認識する。




「これは…?」

 建物が変わるのはよくあること。

 しかし目の前のそれは人が住むにはあまりにも無機物(そのまま)だ。


「岩…?」

 どう見ても岩です。

 彫刻といった芸術作品かと思いましたが、この世界では従事している人が少ない分野です。

 城にあった高そうな置物は、その人たちに習って歴代女王様が作られたものだそうです。

 嗜み、ということでしょうね。

 ちなみにナディ様は一つも作品が無いそうです。

 何も言うことは無い…。


 

 話は戻しますが、以前は無かったものです。

 憩いの場という何もない広場でした。


 中央広場のど真ん中に置かれたそれは、否が応でも目を引く。

 興味を惹かれた私は観察してみることにした。


 

 私の三倍は高さがありますね。

 一体何を目的として……石碑でしょうか?

 だとしたら整形しますよね…?


 影となっている部分からは何も情報は得られなかったため、太陽が無いのにどうして角度あるの、何がこの世界を照らしているのと生じた疑問はひとまず頭の片隅に置き去りながら正面に回る。


「…?これは文字………ですよね」

 彫られていたのは、ほとんどの人が読めないという文字。

 魔書院の扉に書かれた文字と同じ形の文字も見つけることが出来た。


 何故読める人間が少ないのに態々こんな目立つ場所に置いたのか、それが気になり文字を追っていると、あることに気付く。


 所々間隔が開いていることから一塊が何かの単語を表していると推測する。

 そしてそれは縦に……98、99、100……丁度100行ということですね。

 それが横に3列。

 300近く何か書かれているようだ。


 気持ちが深く沈んでいく。悲しみが押し寄せてくる。


 これが設置されるまでに起こったことと言えば、戦争しかない。

 ということは――――



「うん…?」

 今、見られてた?

 それも道行く人が立ち止まっている人をチラッと一瞥したようなものではなく、明らかに私に対して向けられた視線。

 頭部を触ると伝わる布の感触。

 周りを見れば兵士さんが仕事をしている。

 私だけが特に目立つという状況ではない。

 

 敵意とかは感じなかったけど、それも魔力云々かんぬんで信用ならない。


 周囲の様子は平時と変わらない。

 井戸端会議に夢中でこちらには全く興味なさそうな人であったり、籠を背にお家のお手伝いをしている子たちがいたりと、不審な行動をとる者はいない。


 まぁ以前と違う点もあるのですが…。

「あ…!」

 彼女らの身なりで自分の予定を思い出した。


 時間がもったいない、歩きながら考えよう。

 それに…答えのいくつかは孤児院に行けば分かるかもしれない。





「………」

 変わらぬ日常であれば人々があまり目を向けることのない闇の中にその人影はあった。

 彼女の様子を注視していたその者はギリッと歯噛みし拳を震わせる。

 それが幻だったのかと思うほど、一瞬で感情を殺し、虚空に向かって話かける。

「…分かっています。……そちらの方は?…はい、引き続きですね…」

 音声が途絶えるのと同時に、影と同化するかのようにその場から消えた。




 

 ここからは歩き慣れた道を行く。

 すれ違う人達が徐々に減っていくのはこの先がお仕置き街だからだろう。

 慣れた時こそ危ない、先程の視線のこともある。

 角に注意して歩を進めれば、あの出会いを思い出す。


 イェカは今どうしているのでしょう?この街にはいないようですが…。

 思えば、彼のことは名前以外全く知りません。

 選ばれし者だと知ったのもあの時が初めてでしたし、そこの椅子に座って話していた時も自分のことを話そうとはしませんでした。

 聞き上手だったというのもあり、私が一方的に喋り続けていた、のは記憶が無かったせいです。

 私は喋りが達者な方ではありませんから。


 丁度通り掛かった椅子は数か月前と変わりない。

 けど辺りは以前と違っている。

 暗く寂れた雰囲気を出していたお仕置き街。今はそれが無い。

 ショトさんから話を聞いて勝手にそう呼んでいますが、ここは昔からずっとあるのだそうだ。

 それだけ長い間変わらなかったものがたった数か月でここまで変わるのか、そう戸惑いを感じるほどにただただ静かに街は佇む。

 その静寂は寂しさを呼ぶものではなく、ただ街を傍観するのみ。

 子を見守る親の慈しみのようにさえ感じた。


 街も人も変化している?

 やりたいことがあると旅に出たイェカもそう?

 彼は何を求めて旅に出たのでしょうか?答えは旅にあったのでしょうか?



 塀に囲まれた孤児院からはこの位置の椅子は見えないが、こちらからはその棟を見ることが出来る。

 あの日々をいつかもう一度と後ろ髪を引かれながらも、まずは現実を見ることにした。



 

 取っ手に手をかけ思い留まる。

 

 そうでした。あれをまたやるでしょうから心の準備が必要でした。

 私の憂いの一つ。


 しかし背けてはいけないのです。

 彼女らに教えたのは他でもない、私なのですから。


 一呼吸ついてから力を入れた。



「「「「「「お帰りなさいませ――――」」」」」」

 ほら、きた。


 しかしその後が続かない。今までそんなことなかったのに――――


 呆然と立ち尽くす私に後悔が襲う。

 どうしてもっと早く来なかったのかと。

 この子たちに異世界の文化を教え、誤った道を教えてしまっていたのではないかと目を逸らしていた自分を恥じた。


「「「「「「――――っ」」」」」」

 

 空に向けたいつもの大輪の花ではない。

 暗い夜を乗り越えた朝露をその花弁に宿し、地に零れさせようとしていた。


 何と言うべきだろうか?

 ただいま?

 いや、ここはやはり――――


「ん、そうだな。まずは食事にしてもらおうか。いつものやつがいいな」


 はいご主人様と一斉に飛び掛かってくる子供たちに押し倒れそうになりながら、その涙を受け止めた。

「剣の道はよぉ、一つじゃねぇんだよ……」

顔を赤くした父さんは口癖のように毎日毎日同じことを繰り返す。

だがその通り、様々な武芸から学ぶことで剣の腕も上達するというもの。

決して彼がイケメンだからではないのですと言い訳をしながら奈多子の手を取る。

しかし次の瞬間彼女が牙を剥く。

咄嗟のことで当身を避けられなかった私は薄れゆく意識の中で彼女の声を聞いた。

「彼は私の運命の人。分かち合えない貴女をライバルだなんて認めませんわ」

「いや、二人いた方が世界せ――――」

私が最後に見たのは無理やりイケメンの手を引く奈多子の背だった。


「おい、大丈夫か?ぶぅはあ?!」

私をこの刃の契りを認めないですって?

これはもうお仕置きしないといけません!鉄拳制裁!

次回~誕生!マジガマジコ!~

見てくれないと泣いちゃうかもしれません…。



なぜ続けたし。

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