ふたりのであい かたりばん
ワタシがおチビちゃんと出会ったのは…えーっと?んー?
あれがあの時で、あれはその後だから…。
アナタがこの世に来るずっと前の話ねぇ。
(なんとなく、なんとなくですが4、5年前くらいでしょうか…?)
ほら、ワタシって戦えないじゃない?だから部隊に参加する必要はなかったのよぉ。
けどね、情報の伝達がどうとかで、城内にいる非戦闘員も部隊に入らなきゃいけなくなったのよぉ。
食堂の彼は隊長だったりするわぁ。
(あの動きでショトさんが戦えない、というのは兎も角として、バンさんが隊長…?生活部隊ってところでしょうか)
ワタシってこんなでしょう?
だからって全部隊から断られるってひどくないかしらぁ?
そのままだと城から追い出されちゃうところだったんだけど、あの子が彼女に紹介してくれてねぇ。
その危機を何とか乗り切ったのよぉ。
(…自覚はあったんですね。それなのに何故?それも兎も角、クキョさんのおかげでレイセさんの部隊に入れた、と)
ワタシは4番目でねぇ。おチビちゃんは先輩って訳。
アナタも知ってるでしょうけど、おチビちゃんも初対面にはあんなでしょう?
だから、つい、こう…ね?
(ああ、目に浮かびますね…。ショトさんが獣のようにクマさんを襲って、無理やりにでも抱き着いて、クマさんがクキョさんに助けを求めて、しょうがないなと言いながらも彼女が間に入ってようやく…レイセさんはそれを無表情で笑って見ていると。クマさんにとっては最悪の出会いですね)
そのせいで今みたいになっちゃった訳なの。
仕方が無いわよねぇ?あんな可愛いもの見せられて抱き着かないなんて女としてどうかと思うわぁ。
(それが当たり前みたいな顔で同意を求めないでもらえますか?)
(?どうして彼女は頭を抱えているのかしらぁ?アナタなら分かるはずだけどぉ…?)
話を続けるわねぇ。
ある時ね、おチビちゃんのお母さんに会ったのよぉ。
素敵な人よねぇ。ワタシ、人のモノが欲しくなる質なんだけど、人妻はさすがにねぇ。
(しれっと問題発言を…。さすが危険人物)
でね、彼女にね、お願いされちゃったのよぉ。
娘をよろしくお願いしますって。彼女の方が上でしょうに、頭まで下げてね。
それで分かっちゃったのよぉ。おチビちゃんも一緒なんだなって。
でもね、ワタシってこんなじゃない?
そのせいでおチビちゃんとの関係は変わらないまま、今に至るまでね。
(2回目ともなれば自覚確定。直そうという気、なしですね)
お母さんが望んでいる関係じゃないと思うのよねぇ。
だから彼女には会いづらくてねぇ。
そう、異常者同士のままじゃ、ね…。
「イイと思いますよ、私は。そのままで」
寂しそうな顔をしていたのかもしれない。
彼女が慰めの言葉を間に挿む。
「私も、クママさんの前で似たようなことをしましたよ?彼女の前で、表情豊かに怒るクマさんを」
え…と口に出してしまった。
ワタシがしなかったことを彼女がしたことにではなく、その後の言葉に衝撃を受けた。
そのせいでワタシともあろうものが、慰めてくれるのねありがとぉと抱き着くのを忘れていた。
「ショトさんの前でもそうですよ。というか、前限定じゃないですか?クマさんがあんなに生き生きとしているの」
「生き生き…」
あまり聞かないような言葉だ。
でも何となく伝わってくる、言いたいこと。
そっかぁ、ナタカにはそう見えているんだ。
…もしかして、彼女にも…?
「クママさん、嬉しそうに泣いてました。もっと見せてあげたら良いんじゃないですか?娘のいろんな顔を」
彼女が望んでいたのは表面上の関係ではなくて、そんな顔を見せる関係…?
「まぁ、ショトさんの場合はやりすぎなところもあると思いますから、程ほどに…」
そういうこと、ね。
ワタシはワタシのままで良いってことね。
あんな事やそんな事して、おチビちゃんの全てを曝け出して…!
「…もしもーし?聞いてますかー?」
うふふふふふふ。
次、会った時が楽しみねぇ。
遠慮する必要が無いんだもの。
親の前で見せる顔…ありね!あり寄りの大ありね!
「まただらしない顔になってますよー?…これは、失敗したのかな…」
頬を掻いている彼女の手を取って胸に寄せる。
「ありがとう!ワタシ分かったわぁ!もう遠慮はしないわぁ!」
そこは引きっつったものではなく笑顔ではないかしら?
どうして手を引っこ抜こうとするの?
ワタシは感謝しているのよぉ?
「――――?!」
「…?」
「今、背が、ぞくっと、した」
例えるなら、あのおばさんがケモノのような目をして飛び掛かってくる時と同じもの…。
「ありがとうねぇ?ワタシも、よーく見てなかったことが分かったわぁ」
「…あ、いえ…」
ショトさんの顔は晴れ晴れとしているが、私は曇り空。
これはやってしまった感が強い。
違うお届け先に持って行こうとしていた人を、正しい住所に案内したつもりが、別の住所を教えていた。
それくらい間違ったことをしてしまったような後悔が今、私を猛烈に襲っています。
「…魔力って意外と便利じゃなかったわねぇ。何でも伝わってるものだと思ってたわぁ」
「それ、ショトさんが言ってたことじゃないですか。心は見えないって」
「…そうねぇ、アナタの心見えないものねぇ?」
良いこと言おうとしていじわるで返されてしまった。
最近精神年齢が下がってしまっているのではないかと思いながらも、拗ねた口を開く。
「…このお姉ちゃんも意地悪です…」
「…え?…え?…え?」
ショトさんが目を丸くして、意味の分からない三度見をしていた。
初めて見る反応に、私も深く考えるのを止めていた。
「…クマさんにも言ったんですけど、私、お姉さんが欲しかったんですよ。そしてお姉さんは何人いたって良いんです。だから…」
何も考えず、自然に彼女のようにニッと笑って…。
「また何かあったら相談に乗ってくださいね。お姉ちゃん!」
「ぶっふぅぉあ?!」
え、何今の?ショトさんが吹き出した?
彼女は鼻をつまんで上を見上げ、手刀で首の後ろをトントン叩いている。
初めて見る反応に、私の脳が思考を開始した。
これは一体ナニ?私変なこと言った?
「ん?!」
クマに救援信号のような電撃が走る。
それを出す人物は間違いなく一人だけ。
「…クマたーん、ちょっと今いいかしらー?」
「おカーさん、それどころじゃ、ない!妹が、危ない!」
あっ…とクママが手を伸ばすも、クマは魔具を発動させて物凄い勢いで駆け出して行った。
「クマたん…それはお城の中では使っちゃ駄目よー…」
「だ、大丈夫ですか?誰か呼びますか?」
ああ、背中に触れる優しい手が心地イィ…。
ちょっとごつごつしてるのがイイとこに当たっててぇ。
このまま押し倒してしまいたいわぁ。
でもそれはダメ。
ここは押すよりも引く方が『お姉ちゃん!』
「大丈夫、大丈夫よぉ。お姉ちゃん、ちょっと驚いちゃった」
「…ごめんなさい。失礼でしたね。いきなりそんな、馴れ馴れしく…」
これは選択肢誤ったわねぇ。
いえ、ここからが大事ねぇ。
「いいのよぉ、お姉ちゃん嬉しいわぁ。うん、嬉しい。これからもワタシを頼ってねぇ」
これが正解よぉ。
頼りになる人には警戒心を解くものよぉ。
そして知識ある人にもねぇ。
「アナタが、これは話していいことか迷った時はまずワタシが聞いてあげるわぁ。判断を手伝ってあげるわぁ」
「いえ、それは大丈夫です。もう逃げませんし、お姉ちゃんに迷惑を掛けたくありません」
「ぶっふぅぉあ?!」
反撃を貰ってしまったわぁ。効くわねぇ『お姉ちゃん』
さすがにこの醜態を二度も見られると警戒されてしまう。現に彼女はちょっと引いてきている。
失敗しないよう作戦を練るためにも、今日はもうここまでにしましょう。
名残惜しいけど、やり直しは効かないのだから!
「また明日も来てくれるかしらぁ?あ、別に毎日じゃなくても良いのよぉ?」
「勉強のこともありますし、できるだけ来たいと思います」
ああ、もう胸がきゅんきゅんしちゃうわぁ。
抱き締めたい抱き締めたい抱き締めたい抱き締めたいぃ…!!
我慢が腕に伝わって震えている。
それを良く思わない彼女の頬の動きがワタシを思いとどまらせた。
「それじゃあ、ね?」
「はい、今日は――――」
「ナーーーーータ―――――カーーーーーー!!」
この声はおチビちゃんかしら?慌てているような感じだけれど。
でも丁度いいわねぇ。
彼女はいないけど早速標的が向こうから来たわぁ。
「ナタカ!…!泣いた?おばさんに、泣かされた?」
「あ、く、クマさん、ここれは違いますよ?!」
慌てて目の下を服で拭いている彼女と、何か勘違いしているようで怒りが顔に出始めているおチビちゃん。
この絵面もなかなかイイわねぇ。
そういえば、顔を拭いてなかったわねぇ、彼女。
確かに泣かせたと言えば泣かせたけど、鳴かせはしなかったわぁ。
そうしたかったけどよく耐えたわぁワタシ。
…もう我慢しなくても良いわよねぇ?
「おばさん。覚悟は、いい?」
「く、クマさん、待って。話を…」
「良いわよぉ?どっちが、お姉ちゃんか、分からせてあげるわぁ!」
「…?!ナタカ、まさか…?」
「おネーさん、話聞いて?!」
こうしてナタカを巡る戦いが幕を上げた。
だが、彼女は知らない。
攻略される対象が現れたことに。
「妹はきれいすぎるのよねぇ。だ・か・ら、お姉ちゃんを本気させたお仕置き。どうなるか、教えるついでにお姉ちゃん色に染めてあげるわぁ!」




