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魔理  作者: 新戸kan
にぶ

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なんかんとっぱ

「はーい。それじゃ体を拭きますからねー?」


 外にまで聞こえそうな大きな声で一体誰に話しかけているのやら、警戒心が布を固く固く捻じらせる。

 地下を通るためよく冷えているが、滾る熱を冷まさせるほどではない。


「冷たかったら言ってくださいねー?まずは腕からでーす」


 すごい、筋肉です…。カッチカチですね。

 格闘関係のお仕事をされている方よりも太いのではないでしょうか。

 それこそ身長で優るあにさまと同じくらい…。


 偶々覗き見たあにさまの背を消し去りながらも、丁寧に丁寧に拭いていく。


『意識しなくても魔力が、なんてことはあるかもしれない。例えるなら息をするのと同じ、自然なことだからね。私もやるから、そこまで気にしなくてもいいよ』


 倍返しですからね。今の私は時間がありますし!


 肩から始めて指の先へ、指も1本1本時間をかけて。


 手のひらも固い…。

 私と同じ努力の跡。


 この世界では必要のないことかもしれないその跡は、私と何が違うのだろうか?


 それを問うように手のひらを拭いて片方の腕が終わった。



 布を桶に放り込み、疲れを紛らわすために手を振る。

 正確には数えてないが、腕1本でも何度も絞っていたため、手が凍えている。


 それでも水は汚れているようには見えない。

 レイセさんが毎日毎日丁寧にしている証。


 ですがこの世界にも菌はあるでしょうから、水を換えましょう。

 そうして、終わるまで何度も何度も水を汲みに行った。

 まぁ、偵察?の意味もあったんですが?

 いつ誰が覗いているか分かりませんからね。


 

 両腕を終えて次は胴体部分へ。

 正しい順番は分かりませんが、私はお風呂ではそうしていたので。


「くっ…」

 どきどきが嫉妬に変わる瞬間。

 肩周りも水泳選手のように広く、意識のない頭を固定させるほど筋肉が発達しており、先程上体を支えていた卵6個売りもその存在を誇示。

 にもかかわらず、同じ女性として恨めしく思うその女性の象徴。

 男性のように揉んでしまおうか衝動に駆られるが、それは彼女が目覚めた時にやろう、そうしよう。


 まずは同様に体を起こして、背中からいきましょう。


 子供のころを思い出しますね。

 一緒にお風呂に入って、背中を流して。

 それと同じくらい広い背中。

 

 今まで私を守ってくれていた…。


 垢すりのごとく痛いと思うくらい背中を擦り上げた。

 それでも彼女が声を出すことは無かった。


 

 次はおっ…胸ですね。

 クキョさんには必要ないでしょうが、優しくいきましょう。クキョさんには必要ないでしょうが。


 そのまま背後から、新たに洗い直した布を当てた時だった。


「…あぅ」

「?!」

 その音の出所を求めて、激しく首を振っていた。

 が、行為を止めた途端、聞こえなくなっていた。


 まさかショトさんが?


 いやこの部屋は魔書院とは離れている。

 いくら彼女といえど、ここまで聞こえるほど鳴かせはしないだろう。


 お姫様の住む城といえば、煌びやかで贅沢三昧な感じと考える人が多いのではないだろうか。

 そんな四文字熟語でいえば豪華絢爛というよりも、古く長い歴史を感じさせる城内は不動不変を植え付け、普通の感性の一般人であれば立ち入ることさえ恐れ多いと思わせる壁を生み出す。

 でありながらも、暮らしてみればどこにでもある民宿感漂う女王様のためのお城ではありますが、お城はお城なのです。

 学校の休み時間のように喧しいことは無いのです。

 例外は昼時の食堂周辺、同じく昼間の魔研くらいでしょうか。

 あと女の子成分が不足している時の魔書院も、でしょうね。

 住み込み始めて四日目の私が思いつくのはこれくらいですが、防音設備が整っているのかのようにそれはそれは静かなものです。厳粛です。


 そうなれば…もしかしなくても目の前の方ですか?

 男勝りが誉め言葉といえる彼女が?

 さらしでも巻いて男装をすれば絶対に女性と勘付かれない彼女が?

 えっと、他には他には。


 ここぞとばかりに悪口のように言うのは仕方のないこと。

 在り得ないことが在り得た事実を頭が認めず、思考を放棄。

 結果、嫉妬脳が完成していた。



 さて、無駄に私より大きい胸をさっさと終わらせましょう。

 揉む人が今後現れるか分かりませんから、私が丁寧に体にその感覚を刻みつけてあげます。

 いえむしろ、もっと大きくして差し上げます。

 毎日毎日、時間かけてお世話してあげますね?



「…う、あ…あ……あ…」

「?!」

 2度目の今まで聞いたことが無い高音が、脳の入れ替えを強制的に行う。


 本日何度目か分からないどきどき鐘を聞きながら、ごしごしとあまり意味のない布洗いを続けた。


(わーすごーい。あんなに激しく洗ったのに破れてない!)


 それでは体を拭いていきましょう。

 腕の次は体を洗うようにしてましたからね。同じようにしても問題ないでしょう。


 

 これがしばらくの間繰り返され、上半身が終わったのはこの半刻後だった。





 次は足ですね。

 すっかりと落ち着きを取り戻し、水替えを終えた。



 先にお腹を拭こうとした時でした。


 傷が無かったんです。

 私たちを守るためについた傷が。

 

 他の傷はそれほど深くなかったため、賢魔さんの治療で痕もなく治っていたのですが、あの刺さった爪痕だけは残っていたのです。


 私がいない間にその痕が消えていた。

 仕方のないこととはいえ、私はその間何も彼女にしてあげられなかった。


 だから止まるわけにはいかないのです!




『ここは特に綺麗にしてあげてくれ。赤ん坊の世話をしたことないだろうから、大変だとは思うが…』

 

 やってまいりました、最大の難所。

 胸であの反応です。

 間違いなくやばいです。


 横になった彼女は寝ているように目を閉じ、表情が変わることもない。

 でも、声だけは違う。

 僅かな隙間から漏れる吐息が、ショトさん以上の色気を感じさせる。


 これには同姓でも仕方のないことでしょう?

 経験値が溜まれば、聖人君子のようになれるのでしょうか?


 しかし始めた時のどきどきと比べると、今のはまるで別物。

 これも経験のなせる技?

 いやこれはむしろ高揚している?正体はそれ?


 裸の女性を前にしばし考え込む。


(あ、やっぱり髪と同じなんですね。クキョさんとお風呂入ったことないですからね。野宿の時も一人隠れて拭いてたし)


 当たり前のことです。家ではまだしも外でなんて…。

 あの二人は外でそういう訓練もするんでしょうか?



 うん、良い感じに逸れてきました。

 今が攻め時!





「はぁはぁ…」

 気温が上がり暖まった風が、私の体を冷ます。


「お、終わった…。あれからどのくらい経ったんでしょうか…?」

 時計が無いため、時間が分からない。

 疲れていて、お腹の空き具合は当てにならない。

 空を見上げても示すものはない。


 まるで稽古後のような疲労感が襲うが、


『疲れたときこそ、だよ。続けるよ!』


 その日々が私の体を動かす。


(でもこれは…)

 

 あにさまの稽古よりもきついかもと、空の桶を持って部屋に戻った。




「というわけで、最後です!長いこと、全裸で申し訳ありません!」


 聞こえてないでしょうが、謝罪はする。

 それくらい時間かけてしまってました。


 日ごろの習慣から目を覚ましてしまったり、初日だからと心配してレイセさんが早めに来ることも予想されます。

 その前に私がやるべきことは最低でも終わらせなければなりません。


 というわけで箪笥を開けます。

 取り出すのは布おむつ。

 私はおむつと呼んでいますが、向こうのものとは違い、形は下着と変わらない。


 あ、いえ、紐ぱんつと言うのが正しいのでしょうか。

 多分普通の下着では無いですよね…。

 製作には私の下着が参考になったそうですが、私のは紐ではないですよ?


(確かに僅かに香る…。これはあの時の、かな?)

 鼻を当てると思い出すのは、クマさんがじゃーじの消臭を試みた時に、私が上に乗った草の香り。

 あれを乾燥させて繊維として織り込んであるのだとか。

 これも魔力による生活の知恵、ということでしょう。


 更に思い出すのは、今の自分の姿。


 変質者ではないですよ!?

 レイセさんの言葉を疑うわけではないです、興味を持っただけです。

 興味を持ったといっても、変な意味ではなく…。


 …私は誰に言い訳しているんだろう?


 そういえばクキョさんも良い匂いがするんですよね。

 石鹸で洗っているわけでもないのに。


 …嗅いでません!嗅いでませんよ!?勝手に鼻に入ってくるだけです!?


 ……早く履かせよう。

 両手で紐を掴んでいる自分の姿がやるべきことを思い出させた。



 クキョさんのお尻を浮かせて、布おむつを置いた。

 ふわっと香る彼女の匂いが入らないよう、口呼吸に変えて。


「はぁはぁ」





 最後に紐を結べば……着替えは終わりです!


 椅子に腰かけ、天井に向けて疲れを吐いた。


『敷き布やらは私が換えるよ。彼女を移動させないと面倒だからね。他も私がやるから今教えたことを終えるように頑張ってくれ』


 レイセさんは布団とは言いませんでしたね。

 魔槍である彼女には必要のない知識、ということでしょう。

 最強と謳われながら昼魔灯と呼ばれる隊長がいて、魔具の扱いは並ぶ者がいないと言われていても自身は煽りに弱いおネーさんがいて、並外れた知識を持ちながらも猶も女の子を求め続ける危険人物がいる、個性の強い部隊です…。

 あなたもそのうちの一人なんですよ?


「…………」



 …明日は時間短縮を心掛けましょう。

 そうすれば他に出来ることもあるかもしれません…。


 寝ていないのもあって睡魔が襲ってくるが、耐えることには慣れています。

 これもあにさまの説教のおかげです。

 精神的に強くなれれば良かったのでしょうが…。



 レイセさんが来るまで何とか起きていたが、彼女が来たのは交代すると言っていた時間よりも遅かった。

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