かわるものと かわらないもの
やって、しまいました…。
恐るべし、徹夜明けのてんしょん…。
これから先も嗜む気はありませんが、私はお酒の失敗をするような類の人間なのでしょうか…。
それに身を任せた結果、クキョさんの服がすごく汚れてしまっていた。
私の服にも激しさの痕跡がある。
けど後悔しているわけではない。
スッキリしたようなこの感じ…何?
「…………」
本当に治ってないんですか?
すごく抵抗された気がするんですが…?
その結果があれですよ?
疑心が目を細めさせ彼女を間近で見させた。
戦いの跡…口元が汚れてしまっていますね。
拭く時に目に入った唇に、ドキッとする。
…同じ味を共有した唇。
けどさっきまでとはまるで違う。
妙に落ち着いているのはどうしてなの?
あんな事したら、あーーーーーと絶叫したりとか、えあ素振りしだしたりとか、変な踊りを踊ったりとかえとせとらえとせとら。
ああ、もう、訳が分からない。
私は普通じゃないの?
そういえば中学生の時、下級生から告白されたことがありました。それも女の子から。
その時は初めてのことで戸惑いを覚え、ごめんなさいと言って慌てて逃げてしまいました。
それは何度かあって、慣れることはありませんでした。
あにさまが好きでしたから…。
その想いには応えられなかったのです。
あれ?もしかしてあにさまを好きなっていなければ、応えていたの…?
いやいやいやいや、それは揚げ足取りというやつです。
私は普通です!
「…………」
いけない、まだお世話は残っているんだから…。
食事は半分も食べさせられなかった。
対策はまた後で考えましょう。
あれはもうできないし、しない…よね。
次は…。
『服を脱がせる。これは彼女用に作ってもらった服でね。横で結ぶだけの簡単なものだよ』
旅館にある浴衣?病院の入院着?みたいなものですね…。
『洗濯の終わった服はそこに仕舞ってある。体を拭くものもその上にあるからね』
レイセさんの指差す先を見る。
私が使う予定だった部屋と配置が同じのようだ。
部屋に合わせてある白い箪笥。
綺麗に畳まれた服が仕舞ってあった。
脱がせて、体を拭いて、着替えさせる、と。
そこまでがやるべきこと。
まただ。
昨日もそうだった。
同じ女性の服を脱がせるだけの話なのに、どうして…。
が、これも違う。
この感情が何か分からない。
それが波のように戸惑いを押し寄せる。
ええーい、押すのか引くのか、どっちかはっきりしろぃ!
また落ち着くまで深呼吸を繰り返した。
その時間が丁度よかった。
レイセさんから食後は時間を置いて、と言われていた。
そのまま寝かすと、喉が詰まるかもしれないですからね。
「では、いざ!」
自分でも良く分からない掛け声。
こうでもしないと、また騒がしくなりそうだった。
脇、腰、太もも辺りの三箇所で結ばれている紐を解く。
捲れた服から覗いた肌が、胸を鳴らす。
落ち着け。小っちゃい子の着替えを手伝ったこともあるではありませんか…。
それでも服を脱がせる手が震えていた。
現れる胸部と六つに割れた腹筋。
目が留まった。
あれからかなり時が経っているのに、彼女の筋肉は衰えていなかった。
体の構造にも違いがあるのでしょうか?
鍛えていないのに変わらないままなんて…。
腕も、脚も、何も変わっていない。
本当に時が止まっているかのようだ。
「…………」
『筋肉』に見惚れている場合ではない。
首を横に振って振って遠心力で振り払うのです。
えっと、次は…。
クキョさんの腰あたりで手が止まった。
『これも彼女用に作ってもらった。赤ん坊用しかないからね。こんなの履かせてたって知られたら怒られちゃうだろうね。ハハッ』
布おむつ、ということだろう。
これも履き替えなければならない。
つまり脱がさなければならない。
即ち丸見え。
所謂ところの――――
あーーーーーーーーーーーーーーーー?!
落ち着けーーーーーーーーーーーーー?!
これは介護行為!介護行為なんです!
でも私どきどきしてる。
ううん、そんなはず無い、そんなはず無いわ。
「…………」
…まずは服を取ってしまおう。
肩に右腕を回して、左手で後ろに倒す。
こんな状態でも彼女の筋肉が体を支えていた。
柔らかい布団とはいえ、頭が揺さぶられないようゆっくりと寝かせた。
レイセさんはこの時も力業だったなぁ…。
古い時代の叩けば治る的な考えなのかな…。
彼女に任せて大丈夫なんでしょうか?
えっと、後はお尻を浮かせて、服を取る、と。
これも軽く言うほど簡単ではない。
少し浮かせるだけでも、腕に相当の負担がかかる。
素早く抜き取らなくては。
「お尻も強い!?」
これは後で布おむつと一緒に浴場に持っていく。
そして次はいよいよ…。
「はぁはぁ…」
これではまるで変質者ではないか!
赤ちゃんのおむつを変えるだけです!
経験はありませんが!
また手が震えている。
静まれ、私の両腕…!
それに連動する心臓。
またですか!
私の体も繰り返しが基本ですか!
どうせ落ち着かせても何かの拍子でまた騒ぎ出すだけ。
そう割り切って、ガッと掴んで、スッと結び目を解いて、バッと剥ぎ取る!
「で、できました!私はやりましたよ!」
つい天高くおむつを掲げていた。
…みが無くて良かった。本当に良かった…。
服と一緒に避けておいて、次はっと…。
『体を拭く。この状態の彼女をお風呂に入れるのは危険だからね』
今までの行為を軽々やっていたレイセさんなら問題なくやれそうですが、私にはさすがに無理です。
不思議ですね。
身長は同じくらいなのに、体格は違う。
細いレイセさんが息を乱さずお世話できるのは、やはり魔力のおかげなのだろうか?
…考えるのは終わってからにしましょう。
えーっと…桶は…。
ここで段取りの悪さに気付く。
『水は浴場からでも汲んできてくれ。それか――――』
しまった、水を入れてない!?
暖かいから裸でも問題は無いと思うが、クキョさんをそのままにして部屋を空けるのは…。
いやでも、洗濯物を持っていくついでと考えれば…?
いやいや、それは帰りでもいいわけで…。
真剣に悩むもどれも最適とは思えない。
布団を掛けていけばいい。
寝ている人の布団を剥がすのは、その人が怠惰か遅刻か仮病を使った時だけだ。
その答えが出たのは全て終わってからだった。
というわけで、実際に行ったのは別の答え。
そうだ、レイセさんが確か――――
『この部屋は城の水汲み場の側でね。ほら、窓から見えるだろう?遠いからめんどく―――あそこで汲んでもいいと思うよ。その為にここの部屋に変えたわけだからね』
そこまで言ったのなら全部言っても良いのでは?
確かに浴場は遠いですが。
洋式な窓から外に出る―――行儀が悪いようには思うが、致し方なし。
迷わず桶を持って、窓を飛び越えた。
向かう前に位置関係を確認する。
うん、あそこから部屋の中も覗けそうですね。
これなら安心――――
覗 け る?!
人がいたら見られていたかもしれないってこと?!
なんたる…なんたるたる……。
くぁー?!と頭を抱えて悶える。
見られていませんように、見られていませんように、見られていませんように…。
とりあえず外からの視線には注意しようと頭に深く刻みつけた。
はぁ…水を汲もう。
黒い金属の水汲み機。
これは魔鉱製、つまり魔具では?
私では使えないのではないだろうか?
ここに来てまさかの魔力要素。
大人しく浴場まで汲みに行くかと考える。
でも確かクマさんの実験で…。
予め魔力が込められたものならば、使用者の魔力が必要ないものなら私でも使えるって――――
そこでこの魔具について考える。
これは水を汲むためのもの。
魔力が作用するとしたら…。
1、浄水機能が付く。
飲み水として使用するならこれは欲しいけど、必要なのは体を拭くための水。
それにここまで流れてくる間に、いくつか浄水用の魔具を通過してきているはず。
2、力が必要なし。
子供のころ家にあった水汲み機はそれなりに力が必要だった。
小っちゃかったせいもあるけどなかなかの重労働。
魔力があっても一部を除けば向こう程便利ではないこの世界。
負担を減らすためにこれは考えられる。
私がとりあえずで思いつくのはこの二つだろうか。
1は問題ないように思う。
問題があれば、貯水湖で泳ごうなんて言わないはずだ。
2は…。
やってみよう。それが正解!
桶を所定の位置に置いて、握り部を持つ。
両手で押すも、固いのとは違う感じ。
でもこれなら…と体重をかける。
すると、少しずつではあるが、水が出ている。
大変ではありますが、子供のころに比べたらそこまでではないですね。
久しぶりの水汲みに昔を懐かしむ。
子供のころもそうだったな。
楽しかった。楽しかったんだよ…。
「…………」
ああ、溢れてる?!もったいない?!
それは水と一緒に流れていった。
窓が高い位置でなくて助かりました。
鍛えているとはいえ、結構使いましたからね。
水の入った桶を持ち上げるだけで腕がぷるぷると限界が近いことを教えていた。
でもまだやることはあるんです。
頑張らないと!
部屋に戻って桶を置き、次にやることは…。
身を屈めて、外から見えないようにし、窓に近づく。
外が覗ける程度まで頭を出して、辺りを覗う。
それも左右に何度も何度も視線を動かし、念入りに。
いない。大丈夫。
それが分かるとバンと窓を閉める。
あれを見られていたらヤるしかない…!
裸で放置されていたクキョの体が本能で震えていた。




