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魔理  作者: 新戸kan
にぶ

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よこう

「さっそく始めようか。難しいことではないけどしっかり見ていてね」


 口で説明するよりも見せた方が早いということで、レイセさんが椀を手に取る。


 私が作った筆記具は持ち運びに向かないため、見て覚えるために目を集中させる。

 尤も、書き記すよりも実際にやってみた方が覚えられるので、必要はないのだが。


 試験も実技ならもっと楽だったのに…。

 頭一杯になるまで詰め込んだ試験期間を思い出していた。




(あっ、いけない。集中集中)


 レイセさんがクキョさんのお世話を始めた。



 ………。


 ………………え?


 ………………………ええ?!



「と、食事はこんな感じかな。次は――――」



 ………?!


 ………………。(視線を逸らしかける)


 ………………………うぅ。




「以上だ。簡単だろう?」


 彼女の姿を見れば、それは分かる。

 息を切らして疲れた様子も見せていない。


 しかし私は…。


「…………」

「…どうしたんだい?ぼうっとして…?」


 今は何とか押し殺していたが、見ている最中はずっと荒い息をしていた。

 体が熱い。全身火照っているようだ。

 心音まで聞こえてくる。

 私どうしちゃったんだろう?


「それじゃやってみようか?食事は一日二回だから、他を」

「ふえっ?!」


 彼女の提案に素っ頓狂な声を上げてしまう。

 それを気にすることなく、さぁやってみようとレイセさんが進めてくる。


 ここはいつものやつで…。

「ふぅ…」

 効果は抜群、気持ちを落ち着けるならこれですね。


 レイセさんがやった通りにクキョさんのお世話を始めた。


 

 ・


 ・・


 ・・・



「初めてだし、こんなところかな。それは浴場に持っていけば一緒に洗ってもらえるから――」


 初めて――そのせいではない、手際の悪さ。


 これは慣れるのだろうか…?

 慣れればこの心音は落ち着くのだろうか…?



「後は食事だけど…夜にでもやってもらおうかな…?」

「あ、いや!向こうで似たようなことやったことがありますので、せっかくですが大丈夫です!明日から頑張ります!」

「…そうかい?」


 向こうでやったのは授業の一環で介護の講義を受けただけ。内容も職への理解を深めるものだけだった。

 実技の経験は全くない。その前にこの世界へと呼ばれた。



 けどレイセさんの前でだと…恥ずかしいし………。


 …いえ、大丈夫です!あくまで駄目だった場合の話ですし!

 彼女の話ではそれもないようですし!

 


「明日から朝は頼むね。昼からは私が代わるから」

「はい!任せてください!」

 胸をドンと叩く。

 そこに変な自信を漲らせて。

「いやあ、久しぶりに寝れそうだよ。では、また明日ね」

「はい、また明日!」


 レイセさんと大浴場の前で別れる。

 一度も行ったことがないと言ったら、案内してくれた。



 時刻はお昼。

 朝あれだけ食べたのにお腹が鳴っている。


 レイセさんの前では元気を見せましたが………疲れた。

 体力的というよりは精神的にだろうか。

 見られながらは恥ずかしい…。


 お世話をしててそういうのはおかしいのだろうけど、なぜか…ね。

 


 お昼からはレイセさんがこれまでのように一人でするそうだ。

 それが明日以降の予行となる。

『部下の面倒を見るのはってやつだからね。ハハッ』

 レイセさんらしいと言いましょうか、彼女もクキョさんの帰りを心待ちにしているのでしょうね…。

 


 朝は私が一人でやらなければならない。

 それが私の仕事であり、クキョさんへの恩返しでもある。

 クキョさんに宣言したように増し増しで返していきます!


 私は止まりません!止まりませんよぉ!!


 廊下で一人燃えていた。

 複数の視線が消火してくれるまでそれは続いた。



 昼食を取るために食堂へ行くと丁度クマさん親子と出会った。

「どうだった?できる?」

「大丈夫です!明日からしっかり頑張ります!」

 どうもおネーさんは心配性のようです。

 

 食後にバンさんに声を掛けようと思ったが、昼時はまさに戦場のようでそれは躊躇われた。



 その後はクマさん親子と共に魔研へ。

 慣れない経験で疲れているのもあって、しばらくは魔法創造のための手伝いをすることにした。

 といっても、必要なのは私の魔法に関する知識のみ。

 けどそれが想像力を膨らませるのだという。


 しかし今の私にはそれが無い。

 げーむとかもしたことがないので、以前クマさん達にした説明をするくらいしかできない。


 それでも親子は優しい。

「なんか、思い出したら、なんでも、いい」

「そうよー。向こうのことは何でも役に立つわー」

 でも私は、つっかえたようなものがあり、言葉には出せなかった。


「…」

「始める」


 今日も盛大な爆発音を響かせるのだった。




「ナタカちゃん、ちょっといいかしらー?」

 夜、クママさんが服を手に話しかけてきた。

「ナタカちゃんに貸した服なんだけどー。洗濯に出しておいたのねー?そうしたら背中のところに変なのがあるからって、そのまま返ってきちゃったのよー」

 変なのって何だろう?

「黒い点がいくつかあってねー。見たことが無いから不気味がっていてねー」

 渡された服を確認する。

 背中の黒い点…?もしかして…?

 広げて見ると、確かに黒い点が点在する。

 心当たりがあったのでよーく見てみると、指紋のようなものが…やっぱりショトさんの?

 それを説明した。


「彼女のいたずらなのねー。安心したわー」

「でも、これ、なにか、書いたの、かも」

 名前に反応して、クマさんが食い入るように見ている。

「何かっていうのは…?」

「文字…?」

 文字…?ひょっとして背中文字当て…?

「なんて書いてあるか分かりますか?」

「ごめんねー。私たちは文字は全然ー」

「ん」

 それで研究成果を書き記したものが無いんですね。

「必要、ない」

 


 そう、魔具であるクマさんには文字は必要ないのだ。


 自身の生活やくわりに不要なものはいらない。

 一般的に、そういった考え方が徹底されているように思う。


 だから兵士であるクキョさんが見知らぬ地への興味を持てば変な顔をされる。

 この世界ではおかしなこと。

 そういう扱いを受ける。普通ではないということで。


 普通に暮らしたいが故に他者にも普通を求める。


 

 これが記憶が無かった時のことと合わせた、私が考えるこの世界の当り前。


 

 けどそれが変わってきている。

 そう感じるのはどうしてだろう?




「……」

「ん?」

 シヨタがクマに耳打ちをしていた。

「ふーん。そんな、こと、書いたんだ。あの、おばさん」

 点の行き先が僅かに残されていたことから、シヨタには何が書かれているのか読めていた。

 それを娘に教えていた。


「残念。ワタシは、教えない。妹を、応援、するのは、姉の、務め」

「…」

「やれやれ」

 肩をすくめるシヨタに、クマは背を向ける。


「ワタシも、負けない…」

 父に聞かれないように呟いた。

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