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魔理  作者: 新戸kan
にぶ

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おひる

 研究所を空け、食堂を目指す。

 私の気持ちもお構いなしに今日も明るい廊下を、6人全員で歩く。

 

 あの後はずっと、あーでもないこーでもないと意見を交わし合っていた。


 それは今も続いている。


 前を歩く3人(足す1)が前を見ず賑やかに足を進めている。

 何を話しているのかは良く分からない。

 正確には、距離を取っているため聞こえない。

 理由は推して知るべし?

 


 研究所の外に出るということは普段親交がない人に遭遇する――ということなので、シヨタさんはまるで家守のようにクママさんの背に張り付いている。

 そんな状況でも二人の口は止まらない。


 すれ違う兵士さんたちがそれを自然に流していることからも、いつもと変わらない日常的なものなのだろう。

 ただ、姉妹に関しては避けられているようにも見えた。



 私はというと、変わらず頭を下げられている。

 クマさんなら理由を知っているのだろうか?


「何…?」

 目を向ければ即返事が返ってくる。


 クマさんは独占欲が強いのだろうか。

 私の手は彼女と繋がっている。

 手持ち無沙汰になればすぐ握ってくるので、常に手が暖かい。


「だから、何?」

 どうも顔に出てしまっているようだ。

 彼女の声がやや不機嫌になっている。


「何でもないですよ」

 少しだけ笑いが込められていたようだ。

「ナタカは、突然、走り出す。だから、おネーさんの、務め。さすが、ナタカの、おネーさん」

 何故に駄姉の真似をする。


 それに…。

「あ、あれは…、その…」

 反論ができない。

 思い出そうとすれば、体が熱くなって、彼女に伝わってしまう。

「おネーさんは、いじわるです…」

 そう言うのがやっとだった。


「ふふ、じょーだん」

 屈託のない笑顔は私を簡単に負かせる。


 拗ねた口を作りながらも前を向くと、目には入れたくなかったものが映った。

 瞬時に真顔になる。


 ネーアさんが両腕を上に上げて、こちらを…いや私を見ている。

(まさか…それは……)

 反応してはいけない。そう思うも、彼女がチラチラと頻繁に視線を送ってくる。


 それにそれは、私に対する挑戦と受け取らざるを得ない!

「違いますぅ!上段の構えはそうではありませんん!」

「ん?!ナタカ、どうしたの?!」

 クマさんの手を振りほどき、ネーアさんに詰め寄っていた。

 隣にいたイーマさんは一点を確認して、すぐさま離れていった。


「あら、急にどうしたのかしら?私は何も言ってないわよ?正に、腕を上げただけ、よ?」

 そう言って、自慢するように腕をパンパンと叩いた。

 それがまるで挑発されているようにも見えた。


 駄目…。抑えられない…!


「構えなさい!私が本当の上段の構えを教えて差し上げます!」

「それは愉しみね。私も本気の切れ味、教えてあげるわ!」


 火花が散るというのはこういうことを言うのだろう。

 互いに譲れないものがある…。

 いずれぶつかる運命にあったのだ。


「ごくり…っス」

 それ口で言いますか?


 嵐の前の静けさとはこのことか。

 静かに二人の武・芸への想いが三つ巴となりぶつかり合っていた。




「…やっぱりやめましょう。C9H7Nしないわ」

「え?」

 ネーアさんがそう言って目を逸らす前、何かに気を取られていた。

 それを確認しようと視線を動かすと、数人の兵士さんが遠巻きにこちらを見ているのが分かる。

 そして、目当ての先には…。

「………んー?」

 血管の浮かび上がっているクママさんがいた。

 顔はにっこり、けど目が笑ってない…。

 体が震えているように見えるのは背後の人物のせいかもしれない。


 イーマさんは先に気付いていたんだ…。

 ネーアさんが急に止めたのも経験済み…?!


 私とネーアさんが1:1であるならば、それを合わせても2:10…!

 私はどうして気付かなかったの?!



「あー!あー!お腹空いたなー!クマさん、早く行きましょー!」

 大きな棒読みで、クマさんの手を取って走り出した。

「ん?!だから、ナタカ!急に…?!」

 古風であればクマさんの体が浮いていただろう。それほど強く彼女の手を引っ張る。


「負けられない戦いがここにあるっス!」

「そうね、行くわよ!今日そうしたい気分ね!」


 姉妹が後を追って来ている。

 それはもう私たちを追い抜かん勢いで。何故に?



「ごめんねー。騒がしくてー」


 クママは兵士たちに謝りを入れるが、やはりどこか嬉しそうだ。

 帝国から来た姉妹も、彼女にとっては家族なのだ。

 家族が悪さをすれば当然叱るし、楽しそうな姿を見れば嬉しくなる。

 そんなものなのだ。



 彼女はゆっくりと後を追う。

 駆けっこをしている子供たちを邪魔しないように。



 しかし、目的の食堂近くには4人の姿はなかったのだった…。


「おネーさん、ここ、どこですか?!」





 食堂は城に入ってすぐにある広間の左側にある。

 その広間でクママさんたちと合流した。

 先に来ていた姉妹が絞られたのか、二人とは反対にクママさんが生き生きとしていた。

 

「これで…勝ったと、思うなよ……っス」

「もう、あやめ……ついてるから…」


 その差は僅かなものであったが、その間にこってりと濃厚な時間を過ごしたようだ。


「疲れた…。この、二日で、相当、走った…」


 クマさんも相当ばてている。

 謎の勝負は引き分け、ということだろうか。



 広間といってもそこまで広いものでもないので、見渡せばすぐ分かる場所に食堂の入り口がある。

 余裕があれば、の話だが。


(こんなところにあったんですね。城に来るときは大抵慌ただしかったから全然気づきませんでした)



「それじゃここで失礼するっス!」

「また会いましょう。たなかとやら」

 突然の別れ。あとそれ、絶対わざとですね?


「…まだ、ダメかしらー?残念ねー」

「それもあるっスけど、いいとこ見つけたっス!今度案内するっス!」

「単細胞生物らしいわ。それだけに美味しいところを持っていくやつね」


 イーマさんは大きく手を振り、ネーアさんは私だけに見えるよう小さく手を振っていた。

 彼女には妙に気に入られたようだ。


 親子はまた、と別れを惜しむが、私は解放感でいっぱいだった。

 それはもう、ショトさんの時と同じくらいに!




「入りましょうかー。お腹すいちゃったー」

「………」

「どうい」


 姉妹が街へと出ていったのを見送り、いざ食堂へ。


 食堂と呼ばれているものの、城の施設。

 一般庶民では考えられない豪華な食事や、貴族感溢れる雅な場所なのだろう。

 身が引き締まる思いだ。



 在学時、昼時に何度か学食を通ったことがある。

 ワイワイガヤガヤと賑やかで、一人だととてもそこで食事ができるような雰囲気とは、私には感じられなかった。

 

(まさか、そこと変わらないとは…)


 兵士さんたちがいっぱい。

 中には演習終わりでそのまま来たような、土やらで汚れた服装の人もいる。

 給仕?の女性も大衆食堂にいそうな人みたいだ。


 なんとも騒がしい。

 音量を上げなければ会話も出来なさそうな喧しさだ。



「あそこ、座りましょうかー」

 

 クママさんは私とは違う理由で食堂を見回していた。

 長机がいくつも置かれ、その端に開いている場所を彼女が見つけていた。


 席についても降りようとしないシヨタさんを無理やりに椅子に座らせると、

「ちょっと待っててねー」

 と、クママさんが食事を取りに行った。


「あ、私も―――」

 また服が引っ張られた。

 このままだとクママさんに借りた服が伸びそうだ。

 というか、すでに胸の部分が伸びている。これは間違いない!


「現実、見る。あと、ワタシと、おトーさんの、相手、する」


 おネーさん、ヒドイです。


 見れば、シヨタさんの顔の汗がひどい。

 揺れる机の発生源を探して、注目まで浴びていた。

 場所には慣れても人には慣れないようだ。



 それなら…。

「あの二人は、どうして…?」

 聞かない方が良いこともあるが、何となく理由は察していた。

 多分かつての私と同じだから。


「………」

「戦争、した、から」

 シヨタさんの気を紛らわせるため、クマさんは答えなかった。

 その間が彼を喋らせた。


 やはり兵士さんたちの目を気にして、ということだろう。

 私たちだけでも仲良くしないと…!


 しかし、頭に浮かぶのは二人の言動。

(よくよく考えたら絶対それじゃないよね?特におネーさんの方、何言ってるのかきっと分からないんだよね?)

 そこまで重く考える必要はないな、と結論付けた。



「残念だけど、こればかりは私、どうすることも出来ないのよー」

 クママさんが両手に料理を乗せて戻ってきた。

 初めて見たのでは、と思うほど顔が暗い。

 けど、それが錯覚だったかのようにすぐにいつもの笑顔になる。


「はい、お待たせー」

 目の前に木の実の乗った小さな皿が一つと、大きな皿が二つ…。

「こ、これ…?」

 一つは調理された野草の類。野菜炒めのようなもの。

 問題はもう一つ。

「この量食べるんですか…?」

 大きな肉の塊。シヨタさんの胴くらいありそうだ。


 クキョさん邸の食事でも同じものを見たが、あれは兵士さんだからこその量だと思っていた。

 男1人、女3人でこの量は多すぎるのでは…?


「え?え?え?ナタカちゃん、戦う人って聞いてたからこれくらいは普通だとー?」

「…え?」


 木の実をポリポリ食べているクマさんを見つめるが、反応なし。

 少し顔を寄せるも、反応なし。

 更に寄せるも、反応なし。

 最終的には息がかかるくらい、顔を寄せた。

「ワタシの、せいじゃ、ない。おかーさん、こういうとこ、ある」

 向こうでも言われたことあるけど、並ですよ私は。

「ごめんねー。つい…」

 食事時だけに青菜に塩ですね!


 …いかん、遺憾ぞこれは!

 右手で頬をびんたしていた。

 


 右頬が赤くなっている。

 まるで昨日のキモチのように。


 それで昨日のキモチはあの量だったんですね。

「…よし!お昼からも頑張りましょー!」

 クママさんの喋り方で気合を入れる。みんなにも伝わるように。

「…そうねー。お腹が空いてたらこの後の実験が持たないしねー」

「…」

 代弁せずにシヨタさんと親指立てるクマさん。

 何か不都合なこと言われましたね?



 取り掛かる前に、と。

(いただきます)

 手を合わせましょう。


 それを見ていたクマさんが手を止め、同じようにする。

 正面の二人もだ。



 賑やかな食堂の中、それは家族の中でだけ済まされた。

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