表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔理  作者: 新戸kan
にぶ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/301

じっけん!

 ようやく恥辱の時間が終わった。

 この世が終わったかのような顔で見ていた私にとって、首が切られる瞬間の剣のきらめきだったのか、季節が変わりゆく様をぶっ通しで見続けていた時間だったのかは判断できない。


 だが、確実に精神は蝕まれていた。


「あ、おネーさん。今日のお昼はどうするんですかー?」

「しょくどう、行く。ナタカも、行く」

「はーい。分かりましたー。初めてなので優しくしてくださいねー?」

「…大丈夫?頭、撫でる?」

「大丈夫ですよー?うふふふふふ」



 こうなる前に一応は聞いた。


『これは私事になるのでは?』

『そうよー、仕事よー。もしかしたら、洗濯が必要なくなるかもしれないのよー?みんな助かるわー』

『だから、選択しなければいけないのよ。昨夜神も言っていたわ。宣託ってね』

『マグの選擇ってやつっスね』

『……』

『そうね。でも甘いわ。それはせんじゃく、またはせんちゃくではなくて?』

『…ス?…しまったっス!変換候補に挙がってたから引っかかったっス!』


 追撃による追撃の結果、私の精神はお亡くなりになった。



「いたい?!」

 その声でみんなの視線を浴びる。

 が、私の視線はクマさんに固定されていた。


 クマさんが机に上がって私の両頬を叩いていた。

 そのままずいと顔を寄せてくる。


「ちゃんと、見る。ワタシ、がんばる」

 細かな時間で熱い鼻息が繰り返しかかっていた。

 私の顔まで熱くするほどに。


 焦点がクマさんの目に合う。

 珍しく大きく見開いていて、瞳まで燃え上がっているようだった。



「それじゃ、やる!」

 そう言って彼女は両手を上げて飛び降りた。

 主人公が高い崖から飛び降りてシュタっと華麗に着地して参上するような――――そんな風に見えてしまった。

 私の目にだけ。


「それじゃー、改めてー。誰がやるー?」

「あたしやるっス!」

「ここは譲りましょう。それも姉の務めと、つきの総大将も言っていたわ。さすがイーマのおねぇえさぁああん」



 中央で取り囲むようにしていた5人のうち、イーマさんが一歩前に出る。

 抗体が出来ているのか、極めて冷静にクママさんに尋ねた。


「一人でやるんですか?」

「それはねー」

 

 新しい魔具の創造には想像力が最も大切なことらしい。

 そのため、それが少しでも乱れれば、送り込まれる魔力に耐えれず鉱石が消滅してしまうのだとか。

 想像を一致させるのは一卵性の双子でもない限り、完全に同調させるのはまず不可能。

 それなら一人でやった方が成功率が遥かに高いということだ。

 尤も、新しいものを生み出すほどの想像力がなければ失敗に終わるので、成功率自体はかなり低い。



「それを成功させたのが彼よー」

 隣にいるシヨタさんの背に手を当てこちらに押し出す。

 踵でその勢いを抑えるも差し出された彼は、照れくさそうに頬を掻いている。

「あなたも体験したって聞いたわー。転送のマグ。彼が創り出したのよー」

「……」

 シヨタさんは横に首を振るだけだった。



「もういいっスか?頭が限界迎えそうっス!」

 様々な想像が彼女の頭を支配していた。

 頭を抱えるイーマさんを見て、そのように捉えていた。

 

 他の人も同じようで皆考えることは一緒だった。


(あ、これ、失敗するな…)

(失敗…)

(駄目そうねー)

(…)

(あ、今の良いわね。今度使ってみましょう。それまで内職にならないと良いけど)



 イーマさんは水晶玉で占うかのように手を伸ばす。


(あれ…?そういえば爆発が起こった時の対処は…?)


 そして想像を魔力に乗せて送る。


「え…?」




 みんなの予想通り鉱石は小さな光を放って消えていった。

 残されたのはジャージと下着のみ。

 イーマの挑戦は失敗に終わった。


「それじゃ次は私ね。イーマのかたきは私が取るわ。たかきも言ってたし」


 意味が全くないことではあるが、ネーアは肩をグルグルと回している。

 やる気だけはあるようだ。

 ということは、結果は以下略。


 その後順番に挑むも、新しい魔具の創造には至らなかった。




「せっかく発案者のナタカちゃんもいることだし、マホウの創造も見てもらいましょー」

「ス?それは初耳っスね。マホウってなんスか?」

「そんなことも忘れたの?あなた痴呆じゃない?…で、何かしら?」


「……」

「いいの?まだ、秘密じゃ…?」

 シヨタとクマが両側からクママの耳元に囁く。

「いいのよー。もしかしたら、彼女たちが先に成功させるかもしれないしー」


 クママは魔法について彼女らに説明した。

 娘から伝え聞いたとおりに。

 その内容に二人は顔をしかめたが、すぐに面白そうと頬を緩めた。



「それじゃ、私がやってみるわねー。と、その前にー」

 ジャージと下着を寝室に戻す。

 ナタカに返す気はないようだ。

 片付けなかった椅子と机も仕舞っている。


「みんな持ってるわよねー?」

 4人はその問いに衣嚢から取り出した魔具を見せることで返事とした。

 それぞれが前にその魔具を置く。


「じゃー発動して―」


 5人の前に透明だが視覚にも、更には脳にも直接確かに存在すると感じる壁が現れた。

 魔力の壁だ。

 本職であるクマ以外は自身を守る程度の小さな壁でしかない。効果時間が短いのも欠点だ。

 それでも、自分の身の安全は守れるのだから問題はない。



「いくわよー?」

 

 それぞれの壁が発動したのを確認し、急いで想像を膨らませる。

 クママが壁の横から手を出し魔力を送ろうとした時だった。


「ナタカ?どうしたの?早く、ワタシの、後ろに、しゃがむ。…ナタカ?」 


 先の実験時から声は掛けていた。

 だがクマは集中していたため気付けなかった。

 ナタカの返事に心が伴ってなかったことに。


「――?!おカーさんちょっとまっ―――」




 前にも聞いた轟音と手足の痛みが私を元に戻した。


 クマさんが私の胸元辺りを引っ張っていた。

 それで膝と手をついていた。

 ついでに言うなら今は肩を揺さぶられている。


「ナタカ!ナタカ!大丈夫?!」


 クマさんが心配そうな声と顔で見ていた。

 二日続けて同じ顔をさせてしまった。


「あ、はい…。えっと、何が…?」


 惚けたような声だったが、クマさんがホッと安心した。

 他の4人はゴホゴホと咳き込んでいる。

 まるで煙に巻かれているようだ。



「こっちが、聞きたい。何が、あった?」

「あ、別に何でもないです。少しボーっとしてました。ごめんなさい…」

「本当に?」

 彼女の目は疑いしかないものだった。


 不要な心配はさせたくない。ただそれだけだった。

「おネーさんはいもうとの言うことが信じられないんですか?」

「む…」

 不満な顔をされるが、本心でもあった。

 どうやら私は我儘妹の素質があるようだ。


 そこへクマさんにも追撃の魔の手が…!

「そうよ!新人の言うことは信じんよ!」

 私の方だった。

 しかし――――

「それ、さっきも聞きましたよ?引き出し、少ないんですね…?」

「む…」

 初めての反撃!

 思わず右手を握り締めていた。


 しかしそれが彼女にも火をつける。

「私の本気を見せるしかないわね!まじよ、まじ!まーじん程度じゃ弁償できないほどあとがきまで埋め尽くしてやるわ!」

 それはやめてください、おねがいします。


「くあーっス!なかなか刺激的っス!感謝感激刺激的っス!」

「………」

「そうねー。偉大な先人に感謝よねー。壁が無ければ出来ないもの―」


 3人も落ち着いたようだ。

 早速反省会を始めようとしていた。



 それは私もだった。


「ある人から聞いたんですけど、ここの初めての功績って…?」

「………ある、人?」

 おネーさんが皺作ってます。察しが良すぎませんか?


「そうよー。魔力の壁よー。これが無ければ今の進歩はないわー」

「………」

「転送の、マグも、できなかった」

 不機嫌そうな声でも通訳はしてくれるんですね。


「いやー、久々に使ったっスよ。ここまでのは戦争前くらい戻るっスかね」

「心が萌えたわね。萌え萌えキュンキュン。ふれっしゅぴーちはーとしゃわー。私も使いたいわ。臭腺のために何かしないと!」


 戦争前から通ってたんですね。それで、あんなことがあったから…。



 戦争――――


 その言葉で心臓がドクンと脈打ち、顔が青ざめていくのが分かる。



 そうだ――――

 彼女たちを守った壁も戦争の道具になった。

 魔法が完成し、また戦争が起きたら…?

 本来、この世界になかったものを私が持ち込んだ?

 私のせいで、人が死ぬ…?



 考え出すと、悪い方へ悪い方へ向かっていき、恐怖が体を支配する。


 その震えを止めてくれたのはまたもおネーさんだった。


「大丈夫。マホウは、イイ力。壁も、人を、守っている。それで、クキョあれも、助ける」

「クマさん…」

 

 暖かい手。

 全身まで暖かくしてくれる小さな手。


「小さい、は余計」


 怒っているようには全く聞こえない。

 けど、その手には強く力が込められる。


ドール様(あの人)も、言ってた。マグは、いらないって。だから、昔は、あった。それを、もう一度、使える、ように、するだけ。マグの、力を、借りて」


 いつまでも包まれていたい。そんな優しい空気を感じた。



 それを止めたのはおねえさんだった。


「はー臭い臭いわ!イイイカなのに臭い!」

 何故烏賊?

 この世界に烏賊いるの?

「もしかして、二人できてるんスか?」

 クマさんが振り払うように慌てて手を離した。

 その反応はまずいのでは…?

「認めませんー!認めませんよー!姉妹でなんてー!」

 そっち(母)が反応した?!

「………」

「………」

 代弁して?!何言ったの?!


 なんだろう?いろいろ吹き飛ばされた気がする。

 この人たちは爆発よりもすごいのだろうか。



「ワタシが、必ず…!」

「……?クマさん?今何か…?」

「…何でも、ない」


 

 結局お昼ごろまでこの賑やかな空気に包まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ