表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔理  作者: 新戸kan
にぶ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/301

わかいときだけのとっけん

脱字修正ついでに一文追加。

極力修正しないで済むよう気を付けていたのに(落胆) 

 ここを歩くのは2度目だろうか?自分からは行きたいとは思わなかったから。


(3度目なんですよね、お城の中を歩くこと自体が。近寄るなって言ってたから、クキョさん。面倒見良いのにめんどくさがりなとこありましたし。――――あっ)


 青い絨毯が敷かれた廊下を歩く。

 すれ違う兵士さん達からはお辞儀をされ、私はその度に慌てて頭を下げた。



『城の一室を空けてある。今日からはそこを使ってくれ。場所は――――』

『え…でも―――』

『大丈夫だよ。みんなには女王様自らお話されているからね。君は気兼ねなくこの城で暮らしてくれたらいいよ』

『部外者ですよ。問題あると思うんですが…。あの偉い人あたり…本当に良いのでしょうか?』

『あの人は今忙しいからね。女王様にあれやこれやと押し付けられてね。身の回りのことはこの城ですべて済ませられるほど整っているから、会うことはあるかもしれないけどね』

『え』

『大丈夫、大丈夫。今のあの人見たら驚くくらい変わってるから。誰だよ、って思うよ。それとだね――――』


 クキョさん並に強引に勧められた。彼女がレイセさんに影響を与えたのかもしれない。




 ――――こういうことね。


 レイセさんの言ったように以前のような悪意を向けられることは無かった。

 それほどナディ様の言葉が大きいのか、それとも他に理由があるのかは分からない。

 ただ気分は良い。これから向かう場所のことを考えれば差し引きは零だ。



(クマさんよりは彼女の方が内容的に向いてるんだよね…)


 余計なことを考えたせいで私の足取りは重くなり、結果たくさんの人とすれ違うことになって、お辞儀を返す回数が増えた。

 床から33尺はありそうな高い天井―――その付近まである木窓から入り込む日差しで、彼女らの表情が良く見えた。




 国が違えば常識も異なる。

 ならば世界そのものが違えば――――



 記憶が戻っても読めない文字が書かれた扉。

 改めて見ると象形文字に似ている。そちらは疎いので何を表しているのかは分からない。


 コンコンと木を軽く叩く音が鳴る。

 この世界の作法として正しいのかは分からないが、レイセさんもやっていたので真似る。元居た世界でも同じことをするので違和感は全くないが。

 それと念のためを兼ねている。彼女が女の子を連れ込んでいる可能性を考慮して。

「失礼します…」

 返事がないのと怪しい声が聞こえてこないので、こっそりと扉を開け中を確認する。

「え、えーっと…?」

 隙間から目に入る光景だけでも以前と違っていた。

 全体を確認しようと隙間から頭だけを通す。そして左右に首を振り中を確かめた。


 棚から出された本が積まれ、いくつもの本の塔が出来ていた。一部の棚は全て出され空棚になっている。

 彼女を探すため、本の秘境に足を踏み入れる。

 足の踏み場がないというほどではないが、塔を崩さないように歩くのは大変だった。

「いないのでしょうか?ショトさーん?」

 返事がない。留守のようだ。

 いないのならしょうがないと早々に結論付けるのは、彼女の日頃の行いのせいというやつではないだろうか。


 出直そうと振り返ると――――

「会いたかったわああああああああ!」

 目の前には目の下に隈を作り、痩せこけたショトさんの顔があった。

「いやああああああああ?!」

 いきなり視界に現れたお化けのような顔を見て、驚きと恐怖で顔が引きつる――だけならまだしも、腰を抜かし本の塔を倒しながら後退する。

 散らかされた本と落ち込んだショトさんの表情が微妙に合っていた。




「ごめんなさい…」

 一緒に本を片付けながらショトさんに謝る。

 百科事典くらい厚い本を抱えて落ち込んでいた。


 積んであった本は既に調べ終わって何の成果もなかったもののようで、空いていた棚にまとめて置いていく。

 この世界の文字が読めない私に考慮してくれ、そのまま棚に入れてくれていいと言ってくれた。

「ワタシこそゴメンねぇ?いきなり後ろから現れて。つい初めての時を思い出しちゃってねぇ?」

 何故そこでうっとりする。初めてという単語に反応したのか、それともあの時のことを思い出したのか。

 忘れてほしいと意味を込めて、細めてみせた目で抗議する。

 しかし彼女には通用しない。

「どうしたのぉ?そんな熱い目で見て?またしてほしいのかしらあ?」

 色気のある厚い唇を突き出し、艶っぽい視線を送ってくる。熱でもあるようにほんのりと上気した頬が色気を増している。

 思わず喉がごくりと鳴った。

 それほどの魅力が彼女にはあったのだが、

「あら?あらあらあらあ?期待しちゃってるのかしらぁ?それならお姉さん!応えないわけにはいかないわね!」

 自分では気づいていなかった。

(わ、私は一体何を…?!)

 迫ってくる彼女を前に我に返る。そして彼女の空気に取り込まれる寸前で、用件を告げた。

「今日は!いろいろとお聞きしたくて…!お話を、と」

「ふふふ、分かってるわよぉ。アナタのことは何でも、ね?」

 一旦侵攻を止め、腕を組んで頷いている。立派なお胸を持ち上げるようにしているのが彼女らしい。

「それでは座って――――」

幼馴染クキョでもなくおチビちゃんでもなく、ワタシを選んだのよね!」

 大きく見開かれた目がきらきら輝いている。両手を広げて喜びを表現しているようだ。

 私の顎が重力に負け下に下がっていき、口を閉じるのを忘れてしまう。

「ずっと待ってたわ。来る日も来る日も敷き布を濡らして…。ついにこの時が来たのねぇ!」

 

(あっ…これはアレですね)

 亀のようにゆっくりとした動作で、彼女の視線から外れる。

「今夜は二人きりで過ごしましょう。そうしましょう!とっておきがあるの!とっておきなさい!なんて――――」

 徹夜明けの、ってやつですね。隈を見た時に気付くべきでした。

 私はこっそりと移動し、棚の陰に身を隠す。


 彼女はそれに気づかず、一人世界に入ったままだった。

 そこから私がいなくなったことに気付くまで、かなりの時を要した。

 

 元居た世界では注意しなければいけない立場の人が、一番騒々しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ