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魔理  作者: 新戸kan
ひとつのこたえ

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66/301

おもいで

 私はロディとの戦いで彼の魔力に包まれた。

 そして、その中で聞いた。『ありがとう』と。


 ドール様…、私は彼を止めることが出来たのでしょうか…?


 もっと違う結末に出来たのでは、と思うこともあります。

 

 けど、もう立ち止まれないから。

 私は…、進みます。




 目を開けると、辺りが闇に覆われていた。それが夜になっていたからだと分かったのは、辺りがチラホラと街灯の明かりに照らされていたからだった。


 いつの間にこんな時間に――って!

 街灯?!王都や帝都にはそんなものはなかったはず!

 周りの建造物を見ても、王国や帝国のそれとは違う。ここは一体…?


 ――いや、違う。私は知っている…。



 足が自然に動いていた。そして、歩きながら辺りを見回す。


 そうだ、ここは小っちゃいころよくお菓子をくれたとこだ。


 こっちは…、ここで飼われてたワンちゃんに吠えられてよく泣かされてたっけ…。


 頭の中の霧が少しづつ、本当に少しづつ晴れていく気がする。


 住宅街を通る舗装された道を歩く。見覚えのある景色がゆっくりと流れていく。


 この道、子供のころよく通った学校の帰り道。そして、その先には…。


 立派なお屋敷が私の目に入る。表札には『宮本』と書かれていた。


 そう…、ここは私の…。



 

 和風門をくぐり、敷地へと入る。ジャージ姿でいかにも怪しく見えたが、この時間この辺りは人通りがほとんどない。自由に入れるのはこの家の主の意向で門は常に開いていたからだ。

 それに私なら問題ない。勝手知ったるってやつだから。


 門をくぐった後に見えるのは二つの道。一つは玄関へ、もう一つはここの家主自慢の道場に辿り着く。

 道場はかなりの歴史があるらしく、過去の戦争にも耐えたとか。有名な剣豪も幼いころをここで過ごしたのだとか。

 家主がよく聞かせてくれていたが本当のことかどうかは分からない。

 今は静かで物音一つ聞こえないが、夕方や土日ともなれば賑やかになる。


 私の視線は別の方を向いていた。

 縁側に面し生垣に挟まれた小さな庭だ。

 そこでよく素振りをしていた。道場にはあの子たちがいたから…。

 いろいろな感情が私を満たしていたが、それを振り切るように首を横に振る。

 気を取り直して私は玄関へと向かった。


 玄関を開け、中に入る。確かめるように辺りを見回す。

 …何も変わってない。

 うちは古いためか骨董品も多い。だが場に似合わない絵も飾られている。

 私が小学校の時に書いたものだ。まだ飾ってたんだ。

 まるで何年も帰ってなかったかのように懐かしむ。



 そこへ、玄関の開く音で気づいたのだろう、一人の男性が私を出迎えた。夕飯の支度でもしていたようで、割烹着を着ている。


「おかえり、遅かったね?フィニ……」


 彼の口が止まる。

 それは時が止まったかのようだ。でも、実際は時間が止まることなどない。

 彼も無意識だったのかもしれない。その口が動いた。


 懐かしい声が私の頭に、心に響く。


「――か」


 私の本当の名前…。そして、目の前にいる彼は…。


 私の大好きな…、あにさま…。


 この時、頭の中の霧は完全に消え去った。



 それなのに、どうしてなんだろう?あにさまを見て違和感を感じる。

 ひと月ほどなのに、ずいぶんとお老けになったような…?

 私が戸惑っていると、あにさまは冷静になられたようで頭を掻きながら口を開いた。


「ご、ごめんね?見ず知らずの人に…」


 何を言ってるの?私は――



 その時カレンダーが目に入り、私は言葉を失った…。

 

「…15年前行方不明なった子に似ててね…」


 ――15年。私がいなくなってからそれだけの時が経っていた…。


 私はその場に呆然と立ち尽くす。あにさまが私に声をかけていたが、全く耳に届いてこなかった…。




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