あこがれと
評価ありがとうございます!
突如現れた彼を3人とも警戒していた。
僕自身も彼から得体のしれない何かを感じ取っていた。それと同時に懐かしいものも…。それが何かは分からなかったが。
もしかしたら彼の恰好が理由かもしれない。3人と比べると世界が違う。彼の恰好は僕の世界のものに近い。
というか、よく見たらあれは学生服では?あちこち羽飾りがついてたりするけど…。
学生服に肩章、飾り紐、羽飾りと派手に着飾っている。加えて、細目の強者キャラのように閉じている眼と歪んだ口元が、まるで道化師のように見える。
その異質さが警戒を高めているのかもしれない。
4人の反応に、彼は視線を宙に泳がせてから、ふむと何か納得しているようだった。
「失礼しました。フウマ、と申します。この名で察していただけますかな?」
僕以外は彼の名を聞き、構えていた武器を降ろす。幾分か警戒感は消えていた。
知り合い…、かな?親し気な感じには見えないけど…。
「今更、ここへ何のようだい?」
彼女の問いかけに、彼は何故か僕の方を見て答える。何故か敬うようにお辞儀をしていた。
「新たな王を迎えるため、ここに参上した次第でございます」
みんなの視線が僕に集中する。注目の的となった僕は困惑するしかなかった。
いきなり異世界に来て武器持った人に囲まれて実は自分は魔力持っててそんな僕が新たな王って詰め込みすぎてもう分けワカメ。
ラノベ主人公はこんなにも大変だったのか…。何も考えずただ無双してれば良いんじゃないのかとか。そんな浅はかなことを考えていた昔の自分を殴りたい。というか、殴れば夢から覚めるのでは?
試しに頬を抓ってみようかと思っていたら、フウマって人が呆れるように言った。
「気づかれませんかな?ロディ皇帝と同じ魔力を持つというのに」
3人の視線が様々な意味を持ったものへと変わっていく。
皆様、その意味深な視線は何を意味しているのでしょうか?
「もうお分かりでしょう?彼は、フィニル様はロディ皇帝のご子息なのです」
みんなが衝撃を受けている中、僕だけが理解できていない状態だった。
というか、僕名乗ったっけ?この人とは初対面では?今はきっと僕の周囲に?マークが大輪の花を咲かせていることでしょう。
その時の顔がよほどのあほ面をしていたのか、彼が分かりやすく言った。
「つまり、アナタ様はこの世界の人間なのです。そしてロディ皇帝とはこの城の主だった者」
頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。今なら背後にガーンという文字が見えるかもしれない。
ということは?憧れだった異世界転移をすでに経験してたってことデスカ?
そんでエンディングを迎えて元の世界に帰ってきたってことデスカ?
僕たちの冒険は始まったばかりだエンドでぃすか?
まだDTも捨ててないんですよ?
あ、でも、王になったらハーレムルートに?
混乱し様々な妄想が頭を駆け巡る中、他お三方が冷静さを取り戻し口を開いた。
「ちょっと待った。王女が二月ほど前に誕生したはずでは?自分はそう聞いた」
「ん。それは、おかしい。それが、初めての、子のはず。それに、男」
「彼と皇帝がそっくりなのは認めるけどね。そっくりすぎるんだよ。親子ではなく兄弟みたいにね」
ふむ?そのロディパパがいくつの人か分からないけど、僕の年齢的におかしいってことかな?それに男ってのも変ってことは女系なのかな?
いつの間に落ち着きを取り戻したのか、僕は冷静に分析していた。
これが主人公補正!ラノベあるあるだ!
しかし彼は、やれやれといった感じでオーバーな身振りをする。
「フー、アナタ方に理解できると思いませんが?」
そして、これまた推理ドラマとかでありそうな謎のムーブをかます。推理時のあの無駄な動きだ。
「アナタ方もご存じでしょう?かつて双子の女王が犯した過ちを?」
僕には何のことかさっぱりだが、最初の方を見ると分かるらしい。(宣伝)
「それ以来双子は災いの象徴とされてきました。あとはお分かりでしょう?」
だが、皆様ご理解されたご様子ではありません。説明不足なのではないだろうか。
「…やれやれですね。愚者は理解が及ばないようなことに対し、考えを放棄し理解しようとさえしない」
今までの発言で分かれというのが無理なのでは?分かる人には分かるんだろうか?
だが、3人も全く理解できていない様子。理知的に見えるお美しいお姉さまも、その表情は変わらない。
彼も諦めた様子。3人を無視し、僕に向き直る。
「フィニル様、アナタ様こそ、この世界の覇者。共に覇道を歩みましょう」
そう言って頭を下げ、僕に手を差し出した。しかし、
「ヤダ」
僕は即答した。
「そうですか。では早速…。……は?」
彼は僕が賛同すると思い話を進めようとしていた。
「…今なんと?」
僕の答えが予想してないものだったのか、彼は少し面食らっている。何か気持ちいい。
「イヤだ、と僕は言ったんだ」
お、何か主人公っぽい?
ジョ〇ョ立ち風でポーズをとり、自己陶酔しながら話を続ける。
「僕は確かにこの世界の人間かもしれない。けど、まだやり残したことがある。それが終わるまでは…」
彼は黙って僕の顔を見つめている。
「…何よりまだ無双してない!これでは主人公失格だ!」
我ながら影響受けすぎでは?皆さんが口をポカーンと開けて僕を見てますよ?
あっ、お姉さんだけはお美しいお顔のままです、ハイ。
僕の言葉を聞いて、彼は下を向き肩を震わせていた。
「…ククク、やはり親が親なら、というやつですか」
彼は態度を一変させた。それまで下手に出ていた態度は面影もなく、圧倒的な威圧感をもって僕に接し始めた。
彼の表情が変わっていく。にこやかで柔和な雰囲気から冷たく暗いものへと。まるですべてを憎んでいるかのような…。
「思えば、オマエの父ロディも憐れな男だった。私が魔力の使い方を教えてやったというのに」
高ぶる感情を抑えるように顔を手で隠している。しかし指の隙間から見える開かれた目は、血のように真っ赤に輝いていた。
「あの女に出会ってしまったのがヤツの汚点であったな」
今まで事の次第を見守っていた少女が口を開いた。
「!ドール女王、のこと?」
「そうだ!あの女に出会ってしまったことでヤツは負を忘れた!その魔力に導かれるまま破壊を尽くすはずだった男が!」
大げさな身振り手振りで抑えていた感情を露わにしていく。
冷静に見ると彼の一人劇場状態だ。
「挙句の果てに女と結託し禁断の秘術を使うとは…。余りにも愚か!」
いや、マジで舞台役者も納得の大根ですよ、これは。
あ、大根おいしいよね。おでんの大根食べたい。
何か重要なことを言ってる気がしないでもないが、つい余計なことを考えてしまう。
「だが!やつは最後に恩を返した!こうして魔力が還ってきたのだからな!」
そう言って、じりじり迫ってきた。大きく目を見開き、大きく開いた口から舌と喜びを溢れさせながら。
目が少し血走っていません?あの、僕そういう趣味無いんですが?
――って、余裕かましてる場合じゃない。なんかヤバい感じがする。
少しづつ後退り、気づけばすぐ後ろには壁が迫っていた。
逃げ場を失い壁に手をついた拍子に刀を落としてしまった。この状況下で刀を抜くことが僕には出来なかった。
フウマは僕の体に右手を押し付け、その目をギラリと輝かせた。
(ぐ、なんて力だよ?!僕が全く動かせないなんて…)
両手でつかんだ彼の手がピクリとも動かない。僕より上背があるとしても、彼の細い体からはそれほどの力があるとは思えなかった。
「では始めましょうか。共にこの世のために」
彼の手が怪しく光る。
何でも吸い込んでしまいそうなブラックホールのような黒い光。
その光に吸われていくかのように体から徐々に力が抜けていく感覚が……。
抵抗していた両腕もぷるぷる震え、力が入らない。
「そこまでだ」
フウマの首元には光る刃物が突きつけられていた。彼の後ろに目を向けると、白髪の君が短剣を持ち背後を取っていたのだ。
女性陣もそれぞれ身構えていた。
「彼を離すんだ。脅しじゃない。忠告は一度きりだ」
その証拠か、力が入りフウマの首から血が垂れる。
しかし彼の言葉を聞いたフウマは不敵な笑みを浮かべていた。今の状況が何の障害にもならないとその顔が言っていた。
「…アナタは判断を誤りました」
「な?!」
3人が一斉に部屋の端まで吹き飛ばされる。フウマから溢れ出たオーラによって、体を制御できないのかコロコロと転がっていた。
まさか、これが魔力?まるでサ〇ヤ人のような…。
「邪魔をしないでいただきたい。これは神聖な儀式なのです。神に等しい魔力を得るための、ね!」
彼がそう言い放った瞬間、3人はその体を地面に吸い寄せられていた。それは何かに押しつぶされているみたいに動けないようであった。
彼は体を動かしたわけではない。言葉を発しただけだ。
目を凝らすようにして見ると、さっき見えたような魔力の塊が3人の上空でその存在を主張していた。
それだけが原因ではないだろうが、重々しい空気へと変わっていた。
「こ、これ、皇帝と、同じ?!」
「ぐ?!体が重い?!」
「参ったね…、これは」
3人は何とか立ち上がろうとするが、その体が押しつぶされないようにするだけで精一杯のようだった。
「イェカ!何とかならないかい?!」
「この魔力…、皇帝以上だ…!」
そう言った彼の両眼は金色に輝いていた。体からもオーラのように光が溢れている。
「無駄ですよ。ロディとドール…、二人の魔力は我が血へ還りました」
例えアナタが選ばれし者だとしてもねと付け加え、彼を憎悪溢れる瞳で見つめた。
僕は体を捩り何とか逃れようとするが、思うように体が動かない。
「無理しない方が良いですよ?アナタは無意識でしょうがその体は、血は魔力を力と変えてきた」
つまり、その素が奪われているから力が入らないのか。
両腕は既に言うことを聞かず、握り拳も作れない。彼に押さえつけられていなければ、立っていることも出来なかった。
どうしてこんなことになったんだろう?意識すら遠のいていくような感覚を覚える中、僕はあることを考えていた。
こういうとき、ラノベ主人公なら…!
選ばれし主人公ならば!
逆転の何かが起こるはず!
「ふぅ、封印完了です…」
ダメでした。サキュ〇スに搾り取られた人はこんな感じになるんでしょうか?
漫画的表現をするならばしわしわになった僕を想像してください。
はい、まさにそんな感じです。
首を掴まれ立たされている状態だった。目も虚ろで思考力のみが何とか働いていた。
「これで3つの魔力が揃うことになる。キサマの魔力を我が血に還すことによってな!」
フウマは剣を抜き、その切っ先を僕の首元へと近づけた。
思えば短い人生でした。DT捨てれませんでした。チャラいとかちやほやされていた時に流れに身を任せるべきだったのでしょうか?僕はただ魔法使いにあこがれて意地を張っていただけなのに。魔法が使いたいだけの人生だった…。
今この状況で余裕ぶってんなと思われるかもしれませんが、これこそが主人公補正だったのかもしれません。
バッドエンドも物語には必要だからね。しょうがないね。
僕が覚悟を決め目を閉じたとき、凛々しい声が辺りに響きました。
「待ていっ!!」




