ゆめにまでみたこうけい
不思議な感覚だった。歩いているのに前に進んでいる感覚はなく、立ち止まっていても前に進んでいるような――――体と自分の感覚が一致しない、そんな空間だ。
上下左右の感覚もなく、流されるままにその空間を進んでいった。
その光の中で誰かの声を聞いた。聞くというよりも脳に直接伝わってきていた。
その声の主は何かに迷っているようだった。
目蓋の裏が明るくなったのを感じ、目を開ける。そして目の前に広がっている光景に驚きと少しだけの喜びがあった。
どこかの城の中って感じかな?それもファンタジー系でよく見る石造りの城だ。
辺りに崩れた岩などが散乱しており、ここで戦いが行われたような形跡がある。それもそんなに古いものではない。ごく最近つけられた跡がある。
マジで転移しちゃった系?僕無双が始まっちゃう?
――――これは少しだけの喜びじゃないね。だって、興奮が収まらない。これはまさにラノベ展開だったから。
浮かれていた僕は、まずは探索をしてみようと思い奥へと歩を進めた。
まさかその先で真実を知ることになるとは知らずに…。
「………(汗)」
今僕はこの世界の人と思われる方々に囲まれている。異世界っぽくみんなカラフルな頭をしている。白、薄紫、そして青。よりどりみどり。
僕と身長がそんなに変わらない男女と、120くらいの女の子。その子以外は年もそんなに違わないように見える。
しかし、落ち着いて観察できるような状況ではなかった。その皆様方が、何故か自分に武器を向け身構えているからだ。槍に短剣と、普段お目にかかることがないものだ。
とりあえず両手を上げ敵意がないことを示しているのだが、皆様怖い顔をされて一向に武器を降ろす気配がありません。
僕が一体何をしたのでしょうか?
「皇帝!ナタカはどこだ!」
白髪の男が今にもつかみかかりそうな勢いで問い詰めてくる。女性陣もずいとその距離を詰めてくる。
こ う て い?なたか?一体何のことでしょう?
顔を引きつらせ、言ってることが分からないアピールをするが、皆様の興奮は収まりません。
「その武器。ナタカと、一緒」
女の子が僕の左手を指差す。3人の視線が僕の持ってる刀に集中する。
しかもその視線がますます鋭くなっているんですが?
誰か助けてくだしぃ。
そんな中、青髪の美人のお姉さんが構えていた槍を降ろし、顔を近づけてきた。
モデルのように端正な顔立ちで、スタイルもまさにそれ。槍を振るうような人にはとても見えない。
まさかこれもよくある展開ではと、期待に胸を膨らませる。それでつい、歯をキラッとさせてしまった。
彼女はそんな僕の顔をじっと見つめた後、他の二人に問いかけた。
「若くなってないかい?それに魔力も…」
その言葉で落ち着きを取り戻したのか、他の二人も何かに気付いたようだった。
「ん。魔力、似てるけど、何か、違う」
「そう言われれば、どこか違和感が…。それに、目も青い」
何とかなりそうな感じかな?と、安堵することはなかった。
それよりも先に、聞こえてきたワードに過剰反応してしまったからだ。
「魔力?!魔法があるの、この世界?!」
あ……、しまった。魔力というワードに興奮してしまった。ヤバいかもしれない。
恐る恐るチラチラ見る。すると、薄紫頭の少女が驚いた顔をしているのが目に入った。
「マホウ…!ナタカが、言ってた…」
それを聞いた他の二人の目が変わった。そこから明確な敵意は感じなくなった。
そこで僕は理解してもらえるよう最大限の努力をしながら、事情を説明した。
「違う世界?」
皆様、大変困惑しておられます。
それは、そうだ。いきなりこんな事言われても理解できるはずがない。
しかし、これ以上どうやって説明したらいいものか。ラノベの主人公たちはこの危機を一体どうやって乗り越えているのか。
今まで見てきた作品を必死に思い出すが、答えは出なかった。
「魔力、あるの?アナタの、世界」
腕を組み考え込んでいた僕に、少女が問いかけてきた。
そうか!自分に魔力がないことが分かれば違う世界から来たと分かるのか!
…ん?あれ?さっき確か…?
「えっと…、無いはずなんだけど…。もしかして…?」
そう言って、僕は自分を指差した。
「ん」
「持ってるね」
「それも、かなりね」
3人同時に頷く。
マジか…。やっぱあれかな?転移時に特殊能力が付くってやつかな?主人公補正かかっちゃった?
落ち着いて分析してる場合じゃNEEEEEEE。ますます説明が困難になってしまった。
「ナタカも、魔力、ない」
「それに着ている服」
「彼女が着てたものにそっくりだね」
ランニング中にこっちへ来たからジャージのままなんだけど…。
3人が見ていたのは高校指定のジャージ。ランニング時は季節問わず、これを愛用している。
ピコーン!ってキタコレ!
そのナタカって子もきっと転移者だ。その人がきっと証明してくれるはず!今どこにいるんだろう?
しかし、その希望は瞬間で消えた。みんなの表情が暗くなり、口も閉ざされてしまったからだ。
「ナタカ、皇帝と、消えた」
「それに彼女は…」
「記憶喪失って話だよ?」
何とか聞き出せたのがこれだ。もうダメだ、おしまいだ。
両膝を地に着き両手を思いっきり叩きつける。何度も叩きつけることでその落ち込み様を演出する。
3人がそんな僕を慰めようと近寄ってきていた。
僕が悲劇のヒーローぶってたら、3人とは違う声が聞こえてきた。
「その方は本当に違う世界から来られたのですよ?王国の兵士の方々」
現れたのは赤白帽ウル〇ラマンみたいに白と金で分かれた髪をした年齢不詳の男だった。
(なげーよ!)




