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魔理  作者: 新戸kan
ひとつのこたえ

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いつもの

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 僕の名前はフィニル。ピチピチ(死語)の高校生だ。


 今は学校の帰りに本屋へ向かっていた。

 帰宅途中にあるので習慣ってやつかな。



 店の中は自分同様、学校帰りの制服姿の学生が多数いた。

 漫画コーナーで立ち読みする者、雑誌コーナーでファッション情報を仕入れる者、R18コーナーの前を不自然に行き来する者など、様々だ。

 今日は人気雑誌の発売日だが、それには目もくれず一直線に目的地へ向かう。辿り着いたコーナーは他と違い、あまり人はいなかった。

 

「うーん、良いのないなぁ」


 文庫本コーナーの前でやや前屈みで下を向き、大量に平積みされたライトノベルの表紙を曇りなき眼で見定める。絵柄の好みで選ばないようにするためだ。

 しかし結果は残念なものだった。

 

 毎月恒例の新刊のチェックをし、自分好みの本がなくてガッカリする。


 最近の自分の中のブームは異世界転移・転生の主人公無双ものだ。

 やっぱ無双はいいよなぁ、爽快感っていうのかな?オレTUEEEEが中二病をくすぐるのかな。

 でもなぁ、最近変に凝ったのが多いんだよなぁ…。そうしないと売れないのかねぇ?

 ちなみに新刊は恋愛系が多かった。悪くはないけど、それなら漫画でいいかって思う。最近少年誌でも多いし。さすがに少女漫画は買えないけどね。


 ふと顔を上げた時、時計が目に入った。

 携帯は学校で禁止されているので持っていないし、腕時計もつけていない。なので時計の位置を覚え時間を確認するのだが、それが癖として出ているようだ。


(おっと、早く帰らないと稽古に遅れるな)

 僕は急いで店を出た。


 自分が無双ものにハマったのにはもちろん理由がある。

 女友達から見た目がチャラいと言われる僕だが、こう見えて剣術道場の跡継ぎ(候補)なのだ。

 だから、剣の腕にはかなり自信がある。それこそ、異世界へ行けば無双できるという絶対的な?

 だが、こんなこと間違っても兄貴の前では言ってはならない。言ってしまえば最後、ひどいときは数時間は正座をさせられる。いつもは優しいんだが、怒らすと怖いのだ。

 慢心は敵ってよく言ってるし、言ってることは分かるんだけど…。固いんだよなぁ。


 こんなこと言ってるが自分は未だに兄貴に勝てたことがない。

 だが、父さんは僕を跡継ぎとして指名した。それが時々申し訳なく思うほど、兄貴との差は歴然だった。



 ふぅと走って温まった体を冷ますように息を吐く。温かくなってきたせいか15分ほどの距離でも軽く汗をかいていた。


 目の前に見える瓦屋根の古風な家――――田舎ならではの広い敷地で住居の隣には道場が併設されている。

 門をくぐると来客者を導く道が二つに分かれており、用事に応じた場へと繋がっている。



「ただいま」


 引き戸の玄関を開け靴を脱ぎ、それをそろえる。こういうとこも厳しいのだ。


「ああ、おかえり。今日は早かったね」


 この人が佐々木優弥、さっきから兄貴と言われてる人物だ。

 180はある身長で体格もがっしりしている。これだけなら体育会系おじさんなのだが、そうさせないのはその顔だ。顔だけ見れば酒等を買う時、身分確認必須のその童顔は、年齢不詳やミステリアスな雰囲気を醸し出し、女性ファンが多数いるほどだ。

 つまるところただの美男子、今風で言えばイケメンだ。

 しかし見た目で騙されてはいけない。中には鬼が住んでいるのだ。

 一度も染めたことがないという黒髪と防具の色が相まって、一部では黒い悪魔と呼ばれている。

 決して僕が言い始めたわけではありません。――ってかこんなこと言ったら兄貴に殺される。



 兄貴と言っても血のつながりはない。正確に言うと兄弟子というものにあたる。自分が物心ついたときにはもうこの道場に通っていて、よく面倒を見てくれていた。だから、自分にとっては兄同然なのだ。

 ただ、何故か兄貴と呼ばれるのを嫌がるので本人を前にしてそう呼ぶことはないんだが…。



 手洗い、うがいを済ませ、僕は仏間へと向かう。随分と古い家なため、歩くたびに廊下が鳴っていた。


 こんな家だから最近やっと風呂場にシャワーが付いたんだよなぁ。薪でお風呂沸かすとかいつの時代だよ。友達の家で文明開化したわ。


 文句を言いながらもこの生活は苦ではなかった。それにもラノベの影響があったのかもしれない。



「ただいま、父さん」


 お手々のしわとしわを合わせ、仏壇の傍に飾られた写真立てに向け挨拶をする。毎日朝晩欠かさない日課の一つだ。


 父さんは5年前に亡くなった。病気と精神的なものが重なったらしい。亡くなる直前に遺言として兄貴に遺していたようだ。自分を跡継ぎにするようにと。

 まぁ、条件として僕が兄貴に認めてもらわなければいけないんだけどね。

 今日こそは勝ちたいなぁ。


 兄貴とはいつも稽古をしていた。朝と夜1日2回。さすがに木刀で殴りあうわけにはいかないので勝負は剣道でするが。


 ここも建てられて何年になるのか―――稽古した者の汗が染み込んだ板張りの床や風情ある壁や天井が歴史を感じさせる。

 飾られている扁額には『克』とだけ書かれている。

 それがここの在り方を示していた。



「胴ッ!」


「ぐっ」


 兄貴の竹刀が僕の右脇を打ちつける。

 審判がいないので自己申告だが、ずるをしてまで勝ちたいと思わない。それに兄貴の一打は誤魔化しようがないほど完璧なものだ。


 また負けた。やっぱり兄貴は強い。ただでさえ強いのに拳一つ分くらいの身長差があるのだ。

 しかしそれ以上に実力の差がある。こうやって言い訳したくなるほどの。

 それなのに何故父さんは僕を選んだのだろうか?以前兄貴に尋ねたことがあったが、理由は教えてくれなかった。



「じゃあ、行ってくるよ」


 そう言って、玄関を出る。罰ゲーム、というわけではないが負けたときは10キロのランニングが待っている。

 勝ったことがないので毎日走ってるわけですが…。



 しばらくすると、見慣れた公園に差し掛かる。

 遊具はそれほど置かれていないが、田舎らしく子供が玉遊びするには十分な広さがある。


 僕はこの公園で拾われたらしい。

 そう、僕は捨て子だったのだ。14年…、いや15年前かな?兄貴がこの公園のベンチで泣いていた僕を見つけたと聞いた。

 そして義父さんが養子として僕を迎え入れたのだ。名前は武蔵…、にしたかったようだが、まだ言葉を覚えていなかった僕がふぃにる、とだけ喋れたことからこの名になった。

 あの時の僕、グッジョブ!金髪碧眼の僕に武蔵はちょっとね…。漫画とかアニメだったらありだけども。


 拾われた時の記憶は当然ないが、それでも感慨深いものを感じ、見渡すように見ていた。


 しかし、ここも変わらないなぁ。毎日見てるからそれもそうなんだけど。でもホント子供のころから変わらない。


 昔を懐かしむように公園へと入り、ブランコに乗る。田舎であってもきちんと整備はされており、錆なども見当たらない。今日も子供たちが使っていたようで、座板には足跡が残っていた。


 昔はよく友達とブランコ飛びやってたなぁ。危ないからみんなは真似しちゃダメだよ?

 でも、大きくなった今なら…!


 そう思い、勢いよく漕ぎ始める。するとあっという間に、見上げなくても空が見えるまでになった。そして、その勢いのまま飛んだ!


 ナイス着…、っととととと…?!


「ぐへ?!」


 転んでしまった。それも頭から。

 人がいない時間で良かった。恥ずかしい。

 大体着地点に何か落ちてたから転んだんだ!と心の中で言い訳しながら、それを拾う。



 手にしたものを見て固まる。いや、驚く。いや、困る。

 とにかく、拾ってはいけない物を拾ってしまったのだ。


「何でここに刀が?!」


 そう、日本刀が落ちていたのだ。漫画でよく見るタイプ。そんな違いは分からなんだけど。


 それより、こんなとこお巡りさんに見られたら銃刀法違反で捕まってしまう。

 しかし、ポイ捨てはダメだと教えられてきた。ぐぬぬ、どうすればいいんだ!



 頭を抱えどうしようかと考えていたら、刀が急に光りだした。街灯よりも明るく光るそれは、昼間のように辺りを照らしていた。

 まさかのライ〇セイバー?!

 ――――なんてくだらないこと考えてたら、その光がどんどん大きくなって僕の体を包んでいった。

 

 赤ん坊が母親に優しく包まれているような温かさを感じる。


 その光の中で僕は思った。


 あ、これ、異世界行くパターンだ、と。



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