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魔理  作者: 新戸kan
がいでん

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61/302

ふつうとはいったい…

 この日の演習は草原で行われた。

 腰まである草が生え、身を隠そうと思えば隠せるが、二人は辺りが見渡せる丘に陣取った。

 どちらが意見したでもない、言葉を交わさず二人ともそこへ足が向いていたのだ。



 開始まで間があり、クキョは武具の確認をしていた。

 クキョは当然とばかりに実戦用の防具を身に付けている。

 レイセの方も肩、肘、膝、胸当てと彼女同様の防具を付けている。

 これは自信や慢心ではなく、彼女にとっては普通のことだ。

 むしろなぜ、わざわざ演習用を使うのかが理解できない。彼女にとってはそういう認識なのだ。


 レイセは一応槍を握ってはいるが、やる気は感じられない。体の左に重心を移し、くつろいでいる。体の痛みも気にかけているようだ。

 クキョの方は始まりを今か今かと、柄に添える手を小刻みに動かし、顔にやる気を漲らせ待っていた。



 二つの陣営の中間点で煙が上がる。熱を発生させる魔具を使い、狼煙のようにしたのだ。

 戦いはいつ始まるのか分からない。実戦を想定した演習はそれを始まりの合図としていた。


 煙を確認したクキョはすぐさま敵陣営へ突っ込んでいた。二人しかいないのに、そこに作戦は存在しなかった。

 レイセは全く気にせず、彼女の後をゆっくりと歩いて追っていった。



「おらおらおらおらおらぁー!!」


 と、どこかで見た光景が広がっていた。

 ※ぬくもり を見てみよう!



 レイセはアイツ一人でいいな、と考え、ボーっと突っ立いていた。時折表情を変えず欠伸をする様は、余裕ではなく不気味に感じられた。

 しかし、その後ろから彼女を狙う者がいた。その者は気づかれないよう草に隠れ足音を消し彼女にそうっと近づいて行った。そして、手にした剣を彼女に向けて振り下ろすが…!

 ――――レイセは後ろを振り返ることなく、槍の柄でそれを防いでいた。襲った側はあり得ないものを見たように目を見開き、後退る。

 レイセはゆっくりと振り返りその襲撃者を目にとらえた。

 レイセと目が合った瞬間、その襲撃者は脱兎のごとく逃げ出した。レイセの表情は何も変わってないのにもかかわらず。

 彼女は悟ったのだ、殺されると。演習とはいえ本気の殺意を感じ取ったのだ。


 しかし、当の本人はというと…。


(あれ?なんで逃げていったんだい?何かしただろうか?)


 その気はなかった。彼女にとっては『普通』に見ただけだった。



 演習はあっという間に終わった。クキョがあらかた一人で倒していた。

 しかし、彼女は物足りなさそうにしていた。全く本気を出せなかったからだ。



 そのせいだろうか、彼女の瞳が鋭くレイセを捉えていた。


「なぁ、…やろうぜ?」


 そう言って大剣を構え、レイセに向き直る。


 レイセもまた、クキョの瞳から何かを感じ取ったのだろう。いつもはやる気なさげな瞳が青く輝いていた。

 それは彼女にとって初めての感覚だった。これほどのものが自分の中にあったのかという、熱いものが。


 思えば、彼女に好んで挑む者はいなかった。

 名家の生まれで幼いころからその才に恵まれていた彼女は、あっさりと魔槍の称号を得た。

 彼女に敵はいなかった。その才のせいで、孤立していた。

 認められていると言えば聞こえはいいが、彼女にとってはそんなものどうでもよかった。

 ほめてほしかった。それだけだったのかもしれない。

 そして、そこから彼女の『普通』が始まった。

 表情を変えず接する。でも、誰かに気付いてほしい。だから、雰囲気だけは出していた。無意識に。

 しかし、気づく者が現れないままここまできてしまった。彼女に会うまでは。

 クキョもその雰囲気に気付いていたとは思えない。ただ、その戦闘本能だけが気づいていた。だから、戦いを挑んだのだ。



 レイセは槍を構えた。

 構えた瞬間、首や背中の痛みは消えた。

 彼女が最強たる所以の一つ――――自身の世界に入る集中力の高さだ。それは全ての動き、音を逃がさない。一騎討ちで彼女に勝てる者はそうはいないだろう。



「いつでも、いいよ?」


 表情は変わらない。だが、熱いものが彼女にみなぎっていた。


 先手を取り、クキョが仕掛ける。大剣を魔力の限り振るい、槍ごと叩き折るつもりで。

 だが、レイセは槍の穂で受けきる。魔力量ではレイセの方が圧倒的に有利だった。

 ならばと、クキョの筋肉が盛り上がっていく。魔力で勝てないなら、筋力を足せばいいと考えてのことだ。


(これは…違うな)

 レイセは剣が振り下ろされている最中、瞬時に見極め判断した。

 これまでと空を切る音が違うことに気付いたのだ。先程までが匙を振っていた音だとすれば、今は丸太を振っているような、そんな大きな違いだ。

 

 これには、さすがのレイセも避けるしかない。下手に受ければ槍ごと叩き折る一撃をもらってしまうからだ。


 レイセは力を図る様に防御に徹していた。

 クキョはそれに気づき、闘争心に火が付く。そっちがその気ならと、鉄壁の防御を突破すべく猛攻を仕掛けていた。


「やるな?」


「君もね」



 クキョは楽しそうだった。そして、レイセも…。

 彼女は気づかなかったようだがその顔の表情は変わっていた。目の前で戦っているクキョでも気づかないほどの微妙な差ではあったが。




 戦いはレイセの勝利に終わった。

 カットされたのは作者が描写できなかったからだ。※違います。



 クキョはその場に座り込んで息を整えていた。そこへレイセが手を差し出す。

 クキョはその手を取って立ち上がり、


「やっぱ、アンタつぇえな」


 握っていた手に力を込めた。

 彼女なりの賞賛の表れではあったが、いかんせん筋肉がつきすぎていて、握力まで常人離れしていたのでレイセは慌てて手を離した。テレビのワイプのような感じで手をフーフーしている彼女の姿を想像してもらえばいいだろうか。それでも彼女の表情はいつも通りなわけだが。



 レイセが真っ赤になって震えている手を見つめていると、クキョがゆっくりと話し始めた。


「なぁ、アタシには良く分かんねぇけどさ…」


 クキョはレイセの目をじっと見つめ、彼女もまたクキョの目を見つめ返した。


「アンタはいつも通りでいいと思うぜ?」


 クキョの言葉にレイセは目をパチクリとさせていた。


「それがアンタの普通なんだろ?」


「…そうだね。君がいれば何も心配なさそうだ。ハハッ」


「アタシに押し付けんなよ…。…タイチョー?」


 そしてまた、レイセの『普通』の一日が始まる。

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