であい れいせばん
「今日からお前がコイツの面倒を見るんだ」
レイセは当時の上司だった女性から彼女を紹介された。二人が顔を合わせたのはそれが初めてだった。
「クキョだ。アンタがうわさの…、えーっと?」
クキョは名乗るなり、頭を抱え何かを思い出そうとしていた。それを見てレイセは察したようだ。
「レイセだよ。よろしくね」
そう言って、クキョに手を伸ばすが、彼女はその手を取らず、レイセをじっと見つめた。
「アンタ、強いんだってな?さっそく勝負しようぜ!」
クキョは背中の大剣に手を回す。だがレイセはその展開についていけてなかった。
そして、理解が追いついたのか、手をポンと叩いた。
「そういえば、君のうわさも聞いたことがあるよ。確か…、そう!戦闘大好きっ娘!」
それを聞いたクキョはやる気をそがれたのか、大剣を握っていた手を放し脱力する。
「なんだよ、それ…。誰が言ってんだ?」
「あれ?違ったかな?」
クキョが有名なのは魔力ではなく筋力で魔剣という称号を手にしたからだ。大半の人間がそのことに不満を持っていた。彼女は気にもしていなかったが…。さすがに自分がどういう風に見られているかには気づいていた。そういった連中には実力で分からせてきたのだ。だから、今回も手っ取り早く実力をみせようとしたのだが…。
「ま、次の機会でいいか。よろしくな、タイチョー?」
レイセはその表情を変えず、何言ってんだろうという雰囲気を出す。
クキョはそれを感じ取ったのか、はたまた野生のカンかは分からないが、彼女が聞いてきた任務を伝えた。
「アンタがタイチョーの隊に編入されるって聞いたぜ?アタシは」
寝耳に水だった。
レイセの目から光が失われ、体が動かなくなる。クキョもそれを見て、えっと驚愕する。二人が彫像のように体を固まらせた。
そもそもレイセは部隊の指揮を任されていない。誰がどう考えても彼女のような人間を隊長にするはずがない。それこそ、能無しをいきなり王にするようなものだ。
それにいきなり隊長という任を任されても困る。なぜなら、レイセにとっての『普通』が出来なくなる恐れがあるからだ。
もしかすると、それは彼女を奮い立たせようとした上官の計らいだったのかもしれない。だが、それは逆効果だった。
レイセは次の日から城に来なかった…。
(うーん…うーん…、お――――)
レイセはうなされていた。悪夢を見ているようだった。
背中に巨大な岩を乗せられ、そこから這い出ることもできない。
あまりの圧迫感に目を覚まし、顔を自分の背中の方へ向けると、
「よう、起きたか」
クキョが乗っていた。しかも胡坐をかいて。
――――それが分かると、レイセは再び瞼を閉じた。
「おい!起きろ!寝るな!」
クキョはレイセをガクガクと揺さぶっていたが、彼女はすごい力で床にしがみつきながらも、すーすー寝息を立て始めていた。
レイセは無理やり起こされ、服を着替えさせられた。だがその目はまだ半分眠っていた。
半分も起きていたのは、首や背に痛みを感じるからだ。自身の力を上回る力でクキョに揺さぶられたせいだ。
だがそれでも半分寝ているのだ…。
彼女は同じく眠っている脳を何とか働かせ、クキョに尋ねる。
「ふあ…、何のようだい?あたた…」
しばらく城に来てないのを咎めに来たとでも思ったのだろう。レイセはやる気のなさを訴えていた。
―――彼女独自の雰囲気だけで。
「演習がある。行くぞ!」
そう言ってクキョはその筋力でレイセを引っ張って行った。
演習をやるなど全く聞いてない。(そもそも城に行ってないから聞くわけないのだが)
それにこちら二人。どう考えても私が働かなくてはならない。まだ朝は来てないというのに。※昼間です。
道中、腕を引っ張られながらそんなことを考えていたレイセであった。
そして演習が始まった。




