くらやみのなかで
クキョさんが運び込まれた部屋の前で、私たちは祈るように待っていた。
レイセさんは表情を変えず、女王様の元へ報告に行った。
彼女は大丈夫だと、信じているんだろう。けど、私は…。
「大丈夫、王国の、ケンマは、優秀」
クマさんはずっと手を握ってくれていた。震えていた声も今は平静さを取り戻していた。
賢魔さんたちが魔力を外部から強制的に流し込むことで、体の治癒力を高めるらしい。ただ非常に危険な行為のため、よほどの緊急時以外は禁じられているそうだ。
私には何もできない。ただ、信じ祈ることだけしか…。
治療が終わるのを待っていると、話を聞いたのであろうショトさんが駆け付けた。そして私の肩に手を置き、
「大丈夫よ、あの子は強いから」
優しく声をかけてくれた。
「ん。心配は、いらない。安心して、待つ」
会うたびに言い合いをしていた二人が揃って私を慰めてくれている。レイセさんもそうだった。
そんなみんなの優しさが痛かった…。
辺りはもうすっかり暗くなっていた。先程まで降っていた雨は今しがた止んだようだ。夕立みたいなものだったのだろう。
明かりが灯された城内で扉の開く音が響く。
どうやら治療が終わったようで賢魔の人たちが出てきた。私はすぐに駆け寄り、クキョさんの容体を尋ねた。
「クキョさんは?!クキョさんは?!」
賢魔さんは迫る私の圧で言葉を発せなかった。そこへ二人が逸る私にそっと触れ、落ち着かせようと優しく声をかける。
「落ち着いて、ね?」
「ん。話せない」
「でも!――――はい…」
なんとか気持ちを落ち着かせ、私は再度尋ねた。
賢魔さんの話によると、クキョさんは体を鍛えていたため、常人よりも治癒力が高く体の傷は完全に癒えたらしい。しかも、もう目も覚ましているとか。
「ただ…」
クキョさんが無事だった。それしか頭になかった私は賢魔さんの話を最後まで聞かず、勢いよく扉を開け部屋に入った。
「クキョさん!」
私は体を起こしてこちらを見ているクキョさんに駆け寄り、手を取る。
「…よかった…、本当によかった…!」
涙が零れた。クキョさんが無事で本当に良かった。
クキョさんに何かあったら私…。
しかし、体の反応も言葉も返ってこなかった…。
「…クキョさん?」
窓から星の光が入り、彼女の顔を照らす。
「……う、…あ……あ?」
彼女の瞳には光が宿っていなかった…。
手から力が抜け彼女の手が抵抗なく落ちる。
「……あ、あぁ…」
私は絶望感に襲われ後退りながら、いやいやと首を左右に振っていた。
そこへ賢魔さんから話を聞き終えたショトさんが入ってきた。
私は彼女に抱き着いて、…大きな声で泣いた。
他のどの扉とも違う重厚な扉の前で青髪の女性は静かに目を閉じていた。その頭を巡るのは過去と後悔だった。
お前らしいな。自分を信じ、仲間を信じ、その手で掴み取る。多少の無茶をしてもな。
そんなお前がいるから私が……私でも隊長をやれているんだ。
しかし問題児にも困ったものだ。これでは私の仕事が増えてしまう。
―――ならばせめて、隊長としての責は果たそう。帰ってきたときのお前の仕事を減らすために、な。
足の付け根付近まである髪を揺らし顔を上げる。
「レイセ、入ります」
その青い瞳は前だけを見ていた。




