ねがい
私たちの体を包んでいた光は徐々に消えていき、私は目を開けた。
眩しさが私を襲うが、目に飛び込んできた光景に驚く。先程まで森の中にいたはずなのに、今は何故か見覚えのないきれいな部屋の中にいたのだ。
もしかして、わーぷ?というやつだろうか?ここは王国の部屋とは違うみたいだけど…。
一般の客室とは違うもっと格式の高い人――それこそ王族を招くような置物やら装飾やらがされている。あくまで私の想像内の話ではあるんだけど。
だがここにあるのは寂しさだけ。目を引くようなものはあっても、心はどこにもなかった。
クマさんにも覚えがないのか、意表を突かれたかのように驚ききょろきょろと見回している。何か警戒もしてるようだ。
すると、一人の女性が私たちの前に現れた。
いや…初めからいたのだろうが、この部屋の空気と同化していたかのようにその存在を感じなかった。
「ごめんなさい。私はここを出られぬ身。それゆえ、貴女の魔力に干渉させてもらいました」
その声は私の心に柔らかに入ってくる。まるで17歳教祖様のように。
だけどクマさんは彼女の言葉でさらに警戒を強めたようだった。ボーっと突っ立ている私の前へ出て身構える。
「…アナタ、だれ?」
私は彼女の美しさに言葉を失っていた。レイセさんを初めて見たときとは違った衝撃を受けたからだ。月並みだけどそれくらいすごくきれいな人だ。いや、そんな安易な言葉では許されない。
金色に輝く髪、整った顔立ち、その立ち振る舞い、すべてが私を魅了していた。装飾品の類を全く身に付けず服装も真っ白な上下一体のもの。それでも、私が想像するお姫様像にぴったりと当てはまる完璧淑女。それが目の前にお立ちになられておられる彼女様です!
「申し遅れました。私、ロディ帝国女王ドールと申します」
本当にお姫様だった。
それを聞いたクマさんも、驚きを隠せなかった。敵国の人間である私たちを何故、と…。
「貴女方にお願いがあったからです。時間がないので詳しくは言えませんが…」
彼女もまた、頻りに何かを警戒していた。そして私たちを…、私の目を見ながら懇願する。
「彼を、救ってください…。」
彼って…?
クマさんと二人、顔を見合わせる。
「ロディ皇帝陛下、私の夫です」
皇帝を救う…?それは一体どういう…。
私が尋ねようとすると、彼女はハッと何かに気付いたようだ。
「時間がありません。私が王国まで送ります」
そう言って、私たち二人の手を取る。
その意味が分かったのだろう、クマさんは驚いた顔で彼女に聞く。
「マグ無しで、出来るの?」
クマさんの質問に彼女は微笑みながら、優しい口調で答える。
「人は本来、マグなど不要なのですよ?」
その回答に、クマさんは目を見開き輝かせていた。これまでの自身の魔力に対する概念を壊し、彼女の言葉で新しい道が開けたかのように。
私は彼女の手を握り返し、強く言った。
「クキョさん…、クキョさんもッ!」
助けてほしい、という前に彼女は強く、優しく…。
「赤髪の方ですね?大丈夫です。彼女も私が…!」
彼女がそう言うと、私たちの体が再び光に包まれる。
その光の中で私は彼女の声を聞いた。
「ナタカ様。彼を…、ロディを救えるのは貴女だけです。どうか…」
彼女の濡れた青い瞳が私の脳に焼き付いて離れなかった。




