れいせ そのひとがら
「あの、そういえば、ここはどこですか?」
すっかり忘れていた状況確認をする。それで何か思い出せればいいけど…。
「トスファ王国の王都だよ。ここは城内にある客用の部屋さ」
トスファ王国…。やっぱり聞いたことない。私が住んでたとことは違う大陸、とかだろうか。でも、それだとどうやってここまで来たんだろう?
何も思い出さないばかりか、謎が増えただけだった…。
「さて、改めて部下に紹介する前に、だ」
レイセさんは手を差し出し立ち上がるよう促す。
この人は自然にイケメンムーブを取るなぁ。イケメン時々残念って感じかな。いや、逆かな?…女の人だけど。
彼女の手を取りベッドの縁に腰掛けるように足を下ろすと、足元には履物が用意されてあるのに気づく。
つっかけ、かな?でも…。
よく見るとかかと付きで、履いてみると足に丁度合う。これならちょっとやそっとじゃ脱げることは無いだろう。
「君の記憶を戻す手助けになるかもしない。ついてきてくれ」
そして歩き出そうと一歩踏み出すが、何かに気付いたようで振り向いて私を見る。均整のとれた体つきで端正な顔立ちの彼女だが…。
「そうだった。忘れるところだった」
表情を変えず舌を出している。
えっと…てへぺろ、かな。ホント謎な人だ。
「今わが国は戦争をしていてね。君のことを変な目で見るやつがいるかもしれない。気にするなと言われても困るだろうが、気にしないでくれ」
言っていることがおかしくないですか。けど、戦争?そんなときに…。
レイセさんの後ろをついて歩く。その間、いろいろなことを考えていた。その中からとりあえずこれだけは聞いておこうと思ったので、それを聞いてみた。
「私の面倒を部下さんにみてもらってホントに良いんですか?仮にも戦争をしてるんですよね?」
当然の疑問だと思う。兵士さんは一人でも多くいた方がいいのではないだろうか。それともそれは素人考えにすぎないのだろうか…。
「ん…?ああ、問題ないよ。戦争と言っても大したことはない。私の部下がいなくても何もね。ハハッ」
それなら…、と思ったが、そう思う傍らで、ホントに大丈夫なの?この国…。とも思ってしまった。
レイセさんを見てるとどうもそう思ってしまう。部下がいるってことはそれなりの立場の人なんだろうし。戦争について詳しく聞いた方が良いんだろうか?でも、私は疑われたわけだし、それが誤解だったとしても今度は無関係な人間ってことになるし、うーん…。どうしたもんか、と考える。
―――考えたいわけだが、さっきからすごく視線を感じてそれどころではない。特に頭、髪を見られてる気がする。黒髪が珍しいのか、敵国の兵士もそうなのか理由は良く分からないが、すれ違う人たちから悪意のある視線を向けられる。彼女らは同じ服装で鎧などの防具をつけているわけではないが、剣や槍等を携帯していることから兵士だと思われた。
これがさっきレイセさんが言ってたことか。気にするなと言われたけど、これはさすがにつらい。
…でも、この感じ…昔どこかで…?
イヤな空気が私に纏わりついている中、前を歩いていたレイセさんが歩く速度を落とし横に並んだ。それに気づき、彼女の顔を見上げる。
「――そういえば、君も災難だったな。彼女と出くわすなんて。アイツは戦闘大好きっ娘だからな」
急に、一体何の話を…。
困惑気味の私をおいて、彼女は人差し指を立て、さらに続ける。
「それともう一つ、君に変なことは何一つしてないからね。ハハッ」
表情は変わらないのにその顔が纏わりついていた空気から私を開放した。
…この人は、ホントに…。きっと部下さんたちからもすごく慕われているのだろう。イヤな気持ちはいつのまにか消えていた。
「おっと、行き過ぎるところだった。ここだよ」
そう言って一つの扉の前で立ち止まった。何やら文字が書かれているが、私には読めなかった…。
【魔書院】
この城が出来てからずっとある施設。子供向けから常人では理解できぬ難解な本まで、王国中の書が集まる場所。
歴代女王の黒歴史書まであるトカ、ないトカ。
「ここにも私の部下がいてね。彼女がいろいろと教えてくれると思うよ」
ウィンクしてるつもりでしょうが、半目になってるだけですよ、レイセさん…。これさえなければ、おっ〇いのついたイケメンなのに…。
不安に思いつつも、記憶の手がかりに期待して扉をくぐるのだった。