まぎたいかい
ここ――魔技場は王城の近くにある古の闘技場を思わせるような円形の施設だ。舞台は石畳を敷き詰められた四角いもので、それを見下ろす形で観客席が設けられている。今代の王様が提案し、先代時に着工されたそうだ。
城の近くということで城門前まで行ってみたが、さすがに兵士が多数おり中までは窺い知ることが出来なかった。
ただ旅の者と思われる風貌をした私たちにも親切にここのことを教えてくれた。それが先程のものだ。
他にも大会規定や訓練に使われるといったことなど、兵士からも戦争中とは思えない普段の様相が出ていた。
大会の規定はこうだ。
一つ――指定の武器を使用すること。ただし武器種は問わない。
一つ――技を競う大会ではあるが、それに伴う魔力の使用は可。これにより魔具の使用は不可となる。
一つ――相手が降参するか、舞台から落とすことで勝ちとする。ただし相手を死に陥れた場合は負けとなり、さらに罪を問われる。
以上の三つだ。
「ふあああああああああ」
クキョさんが眠そうに大きなあくびをしている。クマさんに至っては始まった時からずっと寝ている。
というか、この子良く寝るな。寝る子は育つっていうけどこの子は…。
クマさんがピクッと体を震わせた。
あ、あぶな…。寝てても反応するんだ…。
会場を見渡しても、前夜祭の賑わいとは打って変わってそれほど盛り上がっていない。試合を見ずに周辺の人たちと会話してる人たちがあちこちで見られた。決勝でさえも大した盛り上がりを見せずに終わってしまった。
「つまらなかったな」
クキョさんは背伸びをしながら立ち上がる。そしてすぐさま帰り支度を始めた。
それを見て私がクマさんを起こそうとした時、後ろのおじさんが話しかけてきた。
「お嬢ちゃんたち、これ見るの初めてかい?」
不機嫌になっていたクキョさんに代わり、私が頷いて答える。上から目線で一人解説してた人だから常連さんなんだろう。
「これから楽しくなるんだよ。ホラ」
そう言っておじさんは舞台を指差した。
その先を目で追うと選手入場口の方から誰かが出て来るようだ。
そして、そこから姿を現したのは豪華な服をまとった男の人だ。空の下に出るなり光輝く髪。それは王都でも帝国でも初めて見るものだった。
「ロディ皇帝陛下だよ」
それを聞き、クキョさんは目を細め、その男を見つめた。
「…なるほど。アイツが…。」
それじゃ、これから王様から優勝者に賞が手渡されると…。でもそれが面白いのかな?
「違う、違う。陛下と優勝者が戦うのさ」
え?!王様が戦うの?!それっていいの…?
王様は優勝者と同じ剣を持っていた。
それを見たクキョさんは椅子に座り、目をギラリと輝かせた。
「オウサマもマケンか」
「マケンなんてもんじゃないよ。陛下は何でも使えるのさ。相手に合わせてるだけ」
クキョさんはキリッとした赤い眉を八の字にするが、真剣に見るために舞台に集中する。その表情は戦った時と変わらないものだった。
はじめ、の掛け声とともに戦いが始まった。
相手の方から先に攻撃をしかけるが、王様はその場を動かず剣でさばいていく。
相手は王様相手でも全く手を抜いている様子はなかったのだが、王様の所作からは余裕すら感じられた。
そして一度も攻撃が当たらないまま、相手は距離を取り肩で息を始めた。
そこからは一瞬の出来事だった。
王様が剣を構え振り下ろした瞬間、金属音がすると同時に相手が吹っ飛んだのだ。
そして会場が歓声に包まれる。
相手との距離はあったはず…。一体何が?
「魔力の剣だと…?!」
クキョさんは驚愕し、動けずにいた。私にはその魔力の剣が見えなかったが、クキョさんには、他の人たちには見えていたようだ。
「おい!おっさん!アレは反則じゃねぇのかよ?!」
「何言ってるんだい?陛下が使っている剣は大会用のものだよ?」
「なん…だと……?」
在り得ないとばかりに皇帝の剣を見るクキョさん。言われてみれば確かに他の参加者が持っていたものと同じように見える。
クキョさんの反応から察するに、その魔力の剣を形成することすら他の人間には出来ないことなのだろう。それは魔剣と呼ばれる彼女にも…。
皇帝は他の人間と同じ条件で戦い、あの魔力の剣を使ったのだ。クキョさんの反応は間違ったものではなかった。
戦いが終わり、王様は手を上げ歓声に応える。
そして、こちら側に視線をやった。
その瞬間、空気が変わった。今までこの会場を包んでいた歓声は消え去り、重々しい雰囲気へと変わったのだ。
クマさんがビクッとして起き、体を震わせている。クキョさんは体を押さえ震えを止めていたが、顔からは汗がだらだらと落ちていた。
その中でクキョさんが最初に口を開いた。
「――ッ、行くぞ!」
クキョさんが慌てて立ち上がり、私たちに急げ、と促す。
私は震えているクマさんの手を取り、慌ててクキョさんの後を追った。




