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魔理  作者: 新戸kan
あなたとのひびと

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みずぎかい

早速修正!


 身なりをきちんと整え、家を出る。


 クキョさんの足は中央広場に向いている。

 それが分かっても泳げそうな場所に心当たりはなかった。


「そういや…タイチョーは?」

「あれが、この時間に、いると、思う?今の、状況でも、さすがに、来ない」


 レイセさんも呼ぶ気だったんですか…?

 クマさんもなかなかひどいし…。


 

 道中で朝食を食べ、都民の憩いの場となっている広場に着く。

 そこから今度は城の方へ向かって歩き出した。


(お城の中にあるのかな?それともお風呂?いやでも、お風呂はダメって言ったし…)



 クキョさん邸を出て半刻ほどで城門が視界一杯に見えてきた。


(やっぱりお城にプールかな。大富豪の庭にあるみたいに)


 かと思えば、その手前で急に進路を変えた。


 家を出る前からあった不安がどんどん増していく。

 クマさんは手ぶらだが、クキョさんは大剣を背負っている。

 泳ぐのに剣が必要?それともやっぱり…?


 道はあるが建物はない。人気も全くない。

 しばらくすると横に見えていた城壁も見えなくなった。

 この辺りはもう魔物が出る街の外ということになるのだろうか?


(木がいっぱい…。今度こそ林さん?でも、この道は人が通ってできたものだよね…)


 二人は慣れた足取りで進む。

 初めて行く場所ではないようだ。


 

(さっきから水が流れる音が大きくなってる。道も緩やかだけど登ってるし……ダム?)


 答えは目の前にあった。

  

 顔を上げると急に視界が開けた。


「大きな……湖?」


 反対側が見えない―――程ではないが、それでも木々が小さく見える。

 風で小さな波のように揺れる水面に、それらが絵画のように描かれていた。


「ここなら、どうだ?」

「…こんなとこあったんですね。知りませんでした」


 浅い水辺は底が見えるほど透き通っている。

 その美しさに目を奪われ、受け答えになってなかった。


「ここは、兵士以外、立ち入り、禁止」

「…え?」

「貯水湖ってやつだ」


 それはつまり、皆様の生活を支えるための大事な水場なのでは…。


「そんなとこで泳いじゃダメでしょ?!」


 普通に流されて泳いでもいいかなー、なんて思っちゃったよ?!


「あれを、見る」


「…もしかして、水門、ですか?」


 疑問形だったのは仕方のないこと。

 ただの金属の板が立てられているようにしか見えなかったからだ。


「すいもん?あれも、マグ」

「あれで、水がきれいになるんだと」


 浄水装置ってことでしょうか。

 見えない水中の部分に何か細工が施されているのだろう。

 そうでなければ、水上に出ている部分は本当にただの黒い板にしか見えない。



 クマさん解説によると、あそこを通って大きな川となり、更に同じように建てられた魔具を通過して王都を巡る水路になる。

 王都の喧騒では気付かないが、人知れず足元を流れ続けているそうだ。


 この国の水道ということですね。

 でも街のあちこちに水汲み場があるということは、家庭にまでは届かないのかな?

 


「ということでな、入っても大丈夫ってことだ。な!」

「ん。あれも、素晴らしい、マグの、一つ。感謝」


 どうしても水泳がしたいんですね…。

 クキョさんが体を動かすのが好きなのはわかるけど、クマさんまでとは…。


「これも、マホウに、繋がる」

 私の目に答えてくれました。

 クマさんは研究熱心ですね。



 クキョさんの剣が木に立て掛けられている。

 道中の護身用ということだったのだろう。



「しょうがないですね。泳ぎますか!」


 二人が手を上げかけたその時だった。


「ちょぉおおおっと待ったぁああああ!」


 この…隠そうとしない色気を感じるこの声は?!


 クマさんがクキョさんを睨みつけている。

 クキョさんは否定するように首を横にブンブンと激しく振っていた。


「はぁはぁ…。間に合ったわぁ」


 彼女は肩と大きな胸を揺らしている。

 さっそくクマさんが挑みに行った。


「おばさん、なんで、来た?呼んで、ない。ここ、立ち入り、禁止」

「あらぁ?ワタシも、隊員よぉ?アナタたちの、関・係・者。問題ないわぁ」

「残念。他に、目的が、ある。それ、考えたら、おばさん、いらない」

 クマさんが結び目を解いてぶかぶかの服を脱ぎ捨てた。

「あら、可愛い。似合ってるわねぇ」

「分かったら、帰る。これ、無い人、今回の、出番、なし。みずぎかい」

 水着回とか言っちゃってるよ、この人…。

 

 今回ばかりはクマさんの勝ちではないだろうか。

 そう思っていたら、ショトさんも服を脱ぎ捨てた。

「ん?!」

「これは…危ない?!」

 彼女も水着を着ていた。

「なんで、オマエが持ってんだ?!」

 クキョさんも驚いてまじまじと見ていた。

 それが妙に気になった。

「アナタ、彼女に前もって渡していたでしょう?それを貰ったのよぉ」

 ということは、レイセさんの…。

 二人は身長は近くても、胸の大きさは違う。

 レイセさんも大きい方だが、ショトさんと比べてしまうと…。


 改めてショトさんの水着姿を見る。

 伸縮性に富んだ学校指定水着とはいえ、彼女が着ると零れそうだ。

 

 これはそっちのお店の人ではないでしょうか…?


「やぁん。そんな熱い目で見られたら困っちゃうわぁ!」

「む…」

 クマさんが張り合おうと何か行動を起こしそうな気配を感じた。


「それより、オマエなんで分かった?タイチョーにも言ってなかったぞ?」

 クキョさんナイスでーす。


 ショトさんが意味ありげな目でクマさんを見て――いやそのまま顔を動かさない。

「城内でおチビちゃんを見かけたの。この恰好をしてる、ね」

「?!」

 しまったと顔に出すクマさんに、困惑しかない私の顔。

(え…?え…?!まさかその恰好でクキョさんの家まで?!いやいやいや朝早いって言っても目撃者いたよね?!)


 変わった服くらいにしか思っていないのだろうか?

 救いはショトさんが上を着てきたことくらい?

 驚かせようという意図があったのかもしれないが、それは感謝せざるを得ない。

 

 

「たまたま外に出た時で良かったわぁ。どうして教えてくれなかったのよぉ?ワタシとアナタの仲でしょう?」

「そりゃあ…」

 クキョさんは私たちを見る。

 クマさんだけではなく、私のことを心配してくれているんだと嬉しくなる。

「…ふーん。アナタはこの子のみずぎ姿を独り占めしようとしてたのねぇ?」

 いつもの彼女の寝言だと分かっていても、えっ…と顔を赤くしてしまう。

 褒められたわけではないのに何故なのぜ、自分…。

「オマエも変わらんよなぁ。…いや、昔は違ったよな?いつからそうなったんだ?」

「…さあ?それよりもまさか、着替えまで見てたわけじゃないわよねぇ?」

 その質問にドキッとした。

 クキョさんが答えてしまえば、ショトさんがワタシもと言ってくるのは明白。

 言わないでオーラを展開する。

「…ナタカ、そろそろ始めるか?」

 再び届いた!ありあとあす!


「…ちょっと待って。ナタカ?この子のこと?」

 しれっと肩を抱いてくるのは何故なのか。

「そうだ。アタシがつけた。不便だからな」

「…どうして?どうして……?」

 私の肩に乗った手が震えている。

 このままだと危険な予感がしたので、そっと力を抜いて彼女から離れた。


「どうしてワタシを呼ばなかったのよぉ!」

 今度はクキョさんの肩を掴んで前後に激しく揺さぶっている。

 ついでにいろいろ揺れている。

「お、お、お…?!」

 あのクキョさんが為す術もなくされるがままだ…。

「いいけど…!ナタカ…、その響きもいいけどぉ…!」

「ま、待て!落ち着け!出発前に決めたんだよ!というか、オマエ籠っててなかなか出てこないだろうが!」

 さすがに辛くなってきたのか、クキョさんが反論している。

「そう、おばさんには、名付け権は、ない」

 ここぞとばかりにクキョさんに味方するクマさん。

「あら?おチビちゃんいたの?小さくて見えなかったわぁ」

 私の名前をそんなに付けたかったのか、気が立ってかなり辛口で言っているような気がする。


 これはまた始まってしまうのかと思っていたが、クマさんは顎に手を当て、じっと宙を見ている。

 2対1という状況がそうさせているのか、いつもよりは落ち着いているように見える。

 その姿は何もない所を見ている猫のようだ。


(もしかして、見えない何かがいるの?)

 そう考えると、何故か身震いした。


(あ、いや。何か見えてきたような…?……釣り針?どうして釣り針が…?!)

 つい目蓋を擦って再確認してしまう。

 糸の先を追って空を見上げていた。

(あれ…。目の錯覚?何もない…)

 クマさんを見ると、どうしようか悩んでいるような顔だった。

 


「…ふぅ。いいわ。なにかやるんでしょう?早く始めましょう?」

 しばらく経ってもクマさんが反撃してこないので、ショトさんの方が折れたようだ。

「そう、それだ。時間がもったいねぇ。さっさと始めようぜ!」


 どうもクマさんの中で激しい葛藤でもあるようで、汗が頬を伝っていた。


 クマさんも大人になっているようですね…。


 しかし二人はそんな彼女をほっといて、授業の開始を催促してくるのだった。


没サブタイ案

し〇と しゅうらい

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