つかれと いやしと
服買い行ったろ?
↓修正
服屋行ったろ?
「私は帰ってきたー」
そう、目の前にはクキョさんのお家が!
だが、この場には二人だけ。クマさんはさっそく研究すると言って城へ向かったのだ。元気だなぁ。
「ただいまー!」
扉を開け元気よく言う。すると何故かクキョさんが首を傾げていた。
「なんだ、今の?」
今のってただいま、ですか?帰ったら言いますよね?
「いや?」
え?言わないの?そういえば聞いたことがないような。
とりあえず簡単に説明する。すると、クキョさんはなるほどといった感じだ。
「じゃあ、アレはめいどだけが使うってことじゃないのか…」
は?何言って…?
奥から部下さんたちが一斉に出てきてお辞儀をした。そして…。
「「「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様っ!!!!!!!」」」」」」」
オマエらもかーい!
ひょっとして出発前に言ってたアレってこれのこと?仕込んでたの?!
しかも…、メイド服?!なんでメイド服?!
ガバッと首が自然にクキョさんの方へと向いていた。
「前に服屋行ったろ?そん時にオマエが書いたやつを…」
そういえば、メイドのこと聞かれたときに服の絵を描いた気がする。
でも、私の絵からこの服ができたの?!あの絵で?!しかもちゃんとフリルまで!…なんて恐ろしい服屋…。
あ…ついでってそういうこと?!私の下着はメイド服より優先度低かったの?!―――う?!
視線を感じる。木の実の毬のようなとげとげしく突き刺さってくるこれは――――
彼女だ。彼女しかいない。
メイドのようにお辞儀をしていても見た目がそうだとしても、その内面まで奉仕の心が宿っているわけではない。
恥ずかしそうに顔を赤らめていても、その視線からは敵意染みたものを感じる。
上目遣いでこちらを見る部下さんと目が合った。
(なによ!こっち見てんじゃないわよ!さぞかし気分いいでしょうね?私の恥ずかしい姿を見られて)
と、目が言っている気がする。私も本格的に新しい型に目覚めつつあります。
私は空気を読んで慌てて目を逸らした。
しかしまだまだ突き刺さる悪意。それに加え唸り声が…。
(なんで見ないのよ!別にアンタのために着たんじゃないけど!まさか可愛くないって言うの?はぁ?誰が何のために着たと…)
どうしろというのでしょうか?
「だから、こういうことじゃないんだろ?」
「えっと、何のことですか…?」
もう疲れ果てていた。旅の疲れとか関係なく…。
「ごしゅじんさまってのに言う言葉じゃ…」
ああ、そういうこと…。
その後私は、おかえりとただいまをイチから教えたのだった。
自分の部屋に荷物を置き着替えを済ませた後、家を出て孤児院へと向かった。
部屋に服があって良かった。クキョさんが持ってきていたものは全て彼女が用意していたもので私のものには一切触れていなかった。
さすがにジャージは目立つからね。クキョさんの家に辿り着くまでじろじろ見られたし…。クキョさんはそのこと失念してて外套用意してなかったし…。彼女らしいけど。
孤児院では街の外で見て感じたことを土産話として、こどもたちに聞かせるつもりだ。
もちろん、服のことは何も言わない!墓まで持っていく!
今日は彼には会えるんだろうか?
とうちゃーく!
またアレやるんだろうなぁと思い、準備だけはしておく。
毎回毎回ツッコみはせんよ、ふふふ。
「「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様っ!!!!!!」」」」」」
はいはい、いつもの、いつも…。って。
オマエらもかーい!
なんでメイド服着てるのぉ?!しかもちゃんと子供サイズ。
なんで?!どうして?!
頭を抱えていると、シスさんが出てきた。
オマエもかーい!
シスさん曰く、王国の兵士がこれを持ってきたのだという。
諸悪の根源はアナタですか…、クキョさん…。
いつ帰ってくるか分からないのに、毎日着てたのかな…。
そう考えると、ちょっと嬉しいような…、やっぱり疲れるような…。
あ、だめだ、ひどく疲れてる。
なので今日は、土産話はそこそこにして帰ることにした。
でも孤児院のみんなが新しい服を着て、顔をほころばせている様を見るのはとても喜ばしいことだった。
孤児院を出てしばらくすると、彼の姿を発見した。こっちに気付いた彼は笑顔で手を振り、それに応えるように私も笑みがこぼれた。
私は手を振りながら駆け寄り、彼と話し始めた。
そこで私は出発の前の日、なぜ来なかったか聞いてみた。
どうやら急な仕事で来れなかったらしい。それじゃ仕方ないよね?
今日はなんだか彼の様子がおかしい。前髪で目が見えないのはいつものことだけど、顔をよく逸らされる。多分目も逸れてると思う。
初めて会った時はあんな出会いだったからそれも仕方なかったんだけど、今は違う。ほぼ毎日話していたから彼も慣れていたはずなのに…。
顔も赤い。熱でもあるのかな?
「大丈夫?具合悪いの?今日はもう帰る?」
「そ、そんなことないよ!調子が悪いわけじゃない!ただ―――」
「……ただ?」
「あっ!……なんでもない!なんでもないんだ!」
なにかを隠してる。クキョさんといい隠し下手なのかな。
でも詮索しても嫌がられるだけだよね。
自分が嫌がることは人にしてはいけません。私なら自分から話します。彼もきっとそうだと思うから…。
(うぅ…まずいな。彼女も気づいているかもしれない。自分から素直に言った方が良いかな…。いやでも…)
習慣も馴染みも時として恐ろしいものだ。今までの常識を忘れてしまうこともあるのだから。
「そういえば私、名前が付いたの!ナタカっていうんだ」
自分も忘れてたと彼は言う。
「えっ、あ……自分の名前も言ってなかったよね?イェカだよ」
イェカ…。記憶には…。やっぱり似ているだけなのかな…。
話題を変えるために切り出した話だが、それがイェカにとっても良かったようでいつもの彼に戻っていた。
その後土産話に花を咲かせた。
久しぶりなので長く話してしまったが、孤児院での疲れはいつの間にか消えていた。




