まぐ
どのくらい眠っていたのだろうか?不足していた睡眠はすっかり解消されたようで、眠気は全くなかった。
さすがにそろそろ起きるかと思い目を開ける。飛び込んできた映像に目を大きく見開き息をのむ。
「?!」
クマさんの顔が目の前にあった。それで声にならない悲鳴を上げていた。
彼女は観察するように私の顔をじっと見ていた。
「クマ、さん…?何でございますか?」
目覚めのどっきりか何かですか?思わず変な口調で聞いてしまったんですが?
「ねぇねぇ、今、どんな、気持ち?」
はい?
目が点になる。文字通りに。
(・-・)こんな感じでしょうか?海外だと…(:|)こうかな?
それでも彼女は気にせずに、
「今、どんな、気持ち?ねぇ、どんな、気持ち?」
顔がゆっくりと迫ってくる。それ以上は危ない。
それに――――それ、使い方間違えていませんか?なんとなく、そんな気がするのですが?
彼女の顔がまだまだ近づいてくる。そのせいか、高鳴る心音。私は思わずぎゅっと目を閉じた。
しかし何故か額はひんやりとしていた。そこに彼女の手が触れる。
「これ、どう、だった?」
クマさんが手にしているのは一寸ほどの黒い鉱石――魔具だ。
どういうことか、そのままの状態で尋ねる。
「冷たくする。食材、保管用」
それでおでこが冷たくて気持ち良かったんだ…。
それを素直に言うと、その魔具について説明してくれた。
本来は食材と一緒に箱に入れ保存するためのものらしい。この国での冷蔵庫、ということだ。
けどクマさんはこの使い方に気付いてからはこっちを主として使っているようだ。
熱が出た時に使うアレ見たいですね…。
私はこの国にはない懐かしい商品を思い出していた。
「これは、効果、あった。それじゃ…」
それが何だか不穏に聞こえてきた。何故か悪寒を感じ体を動かせず、再度寝たまま尋ねる。
「…クマさん。何をしていたのでございます?」
「…実験。検証」
人が寝ている間になにしてるんですか、この子は?!
そういえば体のあちこちに何か乗ってる感覚がある。しかし額のような変化は感じない。ということは――――
「これは?」
彼女は左拳に乗せられていた魔具を見せてくる。私はそれに首を横に軽く振って答えた。
「…ふぅん」
傍から見れば興味なさそうに聞こえるが、私には分かる。残念がってますね、これは。
とりあえず知らないというのは怖いので、その魔具についても聞いた。
体の治癒力を高めるものらしい。これを置いて寝ると、次の日、体が楽になるということだ。ただ――――
「やっぱり、魔力、ないと、ダメ」
その後も、彼女の『診察』は続いた。
「なるほど。なるほど」
クマさんは顎に手を当て、うわごとの様に呟きながら反芻していた。
その彼女が出した結論は――――
対象者の魔力を必要とする魔具は効果がない!
…いや、それ…分かり切ってることじゃないですか?わざわざ実験することでしょうか?
そう指摘するが、
「…もしかして………賢い?」
私はどう思われていたんだろうか?クキョさんと同じ目で―――あっ…。
つい失礼なことを考えてしまった私は、慌ててその彼女を探す。変なところで鋭いところあるから、もしかしたら彼女もクマさんと一緒で―――と考えたからだ。
「見回り。交代。だから、実験」
何故親指をグッと立てる?賛同求めないでね?
「……逆」
彼女が言いたいのは――――あらかじめ魔力を送って効果を発動したものであれば私でも使えるということだ。
でもそれって意味あるのかな?クマさんが言うには、数種類しかないみたいだし。
「帰って、がんばって、作る」
また親指を突き立てている。今度はそれが嬉しかった。
「あ」
クマさんが声を上げ、私の後ろに視線を送る。まさかと思い、恐る恐る振り返ると。
「よ!お目覚めか?もう大丈夫か?」
「うひぃっ?!」
奇声を上げ体をのけぞらせた私を見て、訝し気な表情を浮かべるクキョさん。どうやら今戻ったばかりのようだ。
「く、クマさんに、魔具をいろいろと…た、試されてて!」
クキョさんはなるほどなと、ワタシとクマさんを交互に見て頷く。焦っている私を疑問には思っていないみたいだ。
彼女が近づいてきてくんくんと鼻を鳴らしている。それを見て血の気が引いた感覚を覚えた。
「アレも試した方がいいんじゃないか?」
アレって何ですか?!今の行動で私にとって悪いことしか浮かばないんですが?!
説明を求めるように二人を見る。手があわあわと動いていた。
「そこ、立って」
草が生えて、それ以外は特別変わったところはない場所を指差し、腰につけた袋の中をがさごそ漁るクマさん。
漁って、という表現は間違いだった。袋に手を突っ込んだと思ったら、すぐさま魔具とともに手が出てきたからだ。
これが彼女が魔具として優れている点なのだろう。
私は彼女が指定した場所に立つ。クマさんは私の足の間にその魔具を置いた。そしてそれに向け手をかざし、体を格好よく見せている。
「…それ、必要か?」
クキョさんがクマさんにツッコんでいる。クマさんは邪魔するなと睨みつけていた。
どうやら必要のないことみたいだが、彼女には必要だそうだ。
「キャラ作り」
もう何度目になろうか?再び親指を立て言い放った。
もしかして喋り方もそうなの?
その疑問に答える者はいなかった。二人は魔具を注視していた。
「ダメだな」
「ダメ、だね」
二人にダメ出しをされた。二人とも腕を組み何やら考え込んでいる。そして二人は体の動きだけで意思を伝えあっていた。
クキョさんは首を横に振った後、こちらを見る。それを見たクマさんは左、右と顔を向けた後、こちらを見て頷いた。
それを見て不安しか感じなかった。
「匂い、取れない」
久々に背後にガーンという文字が見える気がする。いや、今回はガガガ・ガーンかもしれない。
察してはいた。察してはいたのだが、認めたくなかった。だって、女の子だもん。気にするなって言われても無理だよね。
でもとりあえず原理を聞く。それが分かれば納得はできるから。
「ん」
彼女の言葉を自分流に言うと―――匂いの成分を服の魔力を使って循環させる。さらに言えば魔具が設置された場所―――この場合は草の匂いと入れ替えるということらしい。
鼻を近づけ嗅いでみると、ここの草は青臭いものではなく香草の様に良い匂いがしていた。
私の着替えはもうない。詰んだ。オワタ。
野外ではおそらく洗濯はできない。もし出来るのならそんな魔具は必要ないはずだ!
落ち込んでいた私はそんな一方的な考えしかできなかった。冷静であれば、ケモノとかマモノ対策にもなるのではと考えられたのに。
ズーンと暗い影を落としている私を見て、クキョさんが袋からあるものを取り出す。
「これ、やるよ。えっと…、したぎだっけ?」
彼女が取り出したのは運動用の下着。私が今つけているものと一緒のものだ。
どうしてと、不思議そうな顔で彼女を見ると、
「なにかに備えてな。作ってもらった。ついでだからな」
なんのついでだろう?でも、助かった!ジャージの替えがあればなお良かったのに…。
「そっちは無理だと。理由は聞いても分からん!」
ともかく下着だけでも変えられるのは嬉しい。体もお風呂に入れないから、拭いて済ますだけだったし。
クキョさんは私が大事そうに抱えている下着を首を傾げ不思議そうに見ていた。
ついに――――ついにこの話題に触れなければならない時が来たのですね。
どうもこの国では下着という言葉が無いようだ。
というのも、履いていない――というわけではなく、服と一体型になっているからだ。下着、ではなく服の一部という考え方なのだ。
とりあえず着替えよう。そう思い、二人から離れ草むらに身を隠そうとすると…。
「あ、今後は気をつけろよ?それ、魔力あるってことだから」
旗を立てるのはやめてください!と心で叫びながら、着替えを済ませたのだった。




