しゅっぱつ
「ナタカ!これオマエの荷物な」
クキョさんはそう言って、中身がぎっしりと詰まった大きな袋を目の前に置いた。それはこれから夜逃げでもするんですかってくらい大きなものだった。
ナニコレ、一体何が入ってるの?これ、私が持つの?!
「オマエの分はまだ軽い方だぞ?アタシの分持ってみるか?」
おもっ!
試しに持ってみたが、私の分よりはるかに重い。というか持ち上がらない。
クキョさんはクマさんを見習えと言わんばかりに彼女の方を見やる。確かにクマさんもかなり大きな荷物を背負っている。
しょうがないか……、ん?
あれ?まさか…?
「歩きですか?!」
何言ってんだコイツって顔された。それも二人同時に…。
車とか馬車みたいな乗り物ないの?!
「オマエが何言ってるのか分からんが、今は戦争中だぞ?乗りモンはそっちに送るだろ」
確かにそうかもしれない。必要なものは極力送っておかなければ現場で不満が出て士気が下がるだろうし。けど…。
「呑気に歩いて行って、その間に何かあったらどうするんですかー!?すぐには帰れないでしょう?!」
「いざという時のためのコイツだ」
クマさんの肩を抱きながら言うクキョさん。クマさんはフフンって感じで腰に手を当て胸を張っている。
それなら良いけど……。って良いのかな。
しょうがない、と私は諦めた。どうせ説明してくれないし…。
ちょっといじけモードに入る。
「さ、行くぜ!」
気合の入ってる二人とは違って、私はテンションサゲサゲだった…。
街を出発して結構歩いたが、あまり疲れはなかった。中身の詰まった袋を背負っているはずだが、体力的には全然余裕だ。やはり剣道などで体を鍛えていたんだろうか。
自分より重い荷物を背負っている二人はさすが兵士といったところかな。マッチョなクキョさんはともかくクマさんも全然余裕みたいだ。(気づかれないよう心の声を消す。悪口?退散!)
そういえば、私の袋は二人のに比べて軽いが何が入っているんだろう?
「そのうち分かる」
そのうち分かること多くないですか?ホントに分かる日は来るんだろうか…。
つい、ふぅとため息をついてしまう。それを気が緩んでいると捉えらえたのだろうか、
「それより気をつけろよ?街の外にはマモノがいるからな」
嗜めるようにクキョさんが言った。
マモノ?ショトさんが話してくれた昔話に出てくる?ホントにいるの?
二人の恰好がいつもと変わらないから、安心安全な旅だと勝手に思い込んでいた。
急に不安になり辺りをキョロキョロと見回す。木々の形や葉が作り出す影がそれっぽく見えて、私の恐怖心を煽ってくる。
「ああ、だから気をつけとけ」
マモノがいる、そう考えるだけで気が引き締まる。だけど前を歩く二人の後ろ姿が目に入るとホッとしてしまう。マモノに対する恐怖はあったが、二人がいるから大丈夫、という安心感の方が強かった。
結局その日は、マモノは出てこなかった。




