たいぼうの
「お、もう来てたか」
クキョさんが出てきて、クマさんの頭を撫でる。何回見ても飼い主とペットに見える。
「出発前に決めとくことがある」
クキョさんは真剣な顔をして、私の顔を見つめた。それは普段あまり見せないほどの表情だったのだが…。
何だろう?クキョさんのことだから、ご飯の準備の担当とか?
失礼なことを考えてると、クキョさんが私をビシっと指さし言った。
「それは…」
それは?
ためる。
まだためる。
まだまだためる。
『尺伸ばしてんじゃねぇーよ!!』
ん?今何か聞こえたような?
「オマエの名前だ!」
え?今なんて?空耳のせいで聞こえなかった。
「オマエの名前だ!!」
大事なことなので…。
「オマエの名前だぁーーーーー!!!」
目が点になった。言われて気付いた…。今まで名前で呼ばれたことがなかったことに。私が名無しさんだということに…!
今までみんな、あまり名前で呼び合わないから気にしてなかった…!馴染むってなんて恐ろしい…。
「アタシたちは必要ないからいいが、オマエは別だ」
どういうことだろう、意味が分からない。
疑問が顔に出ていたのか、クマさんが説明してくれた。
魔力は個性のように人それぞれ違うらしい。なので、呼ぶときはその人の魔力に呼びかける、といった感じだ。だから例え複数の人間がいたとしても、「おい」や「そこの人」といった言葉だけでも相手の人間は自分が呼ばれていると分かるのだ。
「試しにだ。並んでみろ」
私とクマさんを並んで立たせて、視界に収める。そして…。
「おい」
私は首を傾げる。意味が分からなかった。
「どっちを呼んだか分かるか?」
クキョさんは…、私とクマさんどっちも見ていたし…、いや若干私の方を向いていたかも?
「ハズレだ」
「ん」
正解はクマさんでした!彼女も分かっていたようだ。
「こういうことだ」
なるほど…、クキョさんが名前を覚えないわけだ…。
私には魔力がない。1対1なら問題ないが、複数いると面倒と感じたのだろう。名前があった方が私を呼びやすい、という訳だ。今更な気もするが…。
でも誰が名前を付けてくれるんだろう?
「アタシだ!」
クキョさんはなぜか自信満々だ。私には不安でしか無いのですが?
しかしクマさんは名づけに興味ないらしい。遊び始めている…。
「アタシに任せとけって!うーん、と…」
腕を組んで真剣に考え始めた。
長い。クマさんが遊びに飽きて、立ったまま寝そうだ。
「トン〇ラとかどうだ?」
危険なのでやめてもらっていいですか…?
「何でだよ?良い名前だろ?」
何故かその名前は危険だと本能が言ってるんです!
私は思いっきりまくし立てる。全身から持ちうる限りの圧を発しながら。
「そ、そうか。分かった、違うのにする…」
彼女が私の圧に押され尻込みする光景もお馴染みのものとなっていた。
何だか私が尻に敷いているみたいですね。でも大人の事情は怖いからね、しょうがないね。
けどその後も様々な危険ネームが出てきた。
これはもう期待できそうにない。顔も思い出せない私のお父様、お母様、私は今日から、変な名前になります。
両親に懺悔していると、クキョさんが何か思いついたようだ。
「オマエの剣、カタナって言ったよな?カタナ、カタナ…」
ピコーン!
という音が聞こえてきそうだ。
「ナタカ…、そうだ!ナタカだ!」
えぇ…、逆から読んだだけじゃ?
不満はあったが、クキョさんがあまりに嬉しそうに連呼するものだから、まっいいかと思ってしまった。




