であい たたかい
【年齢制限に関して】
小説はどの程度の表現で規制がかかるか良く分からないのでとりあえずでR15になってます。
R15表現に期待してる人は気を付けてください。
私は迷っていた。この道をまっすぐ進めばその迷いも必ず晴れる。ずっとそう思ってた。けど…立ち止まってしまった。それが何のせいかは分からなかった。
いや、分かっていたはずだ。ただそれを――のせいにしたくなかった。だって……。
「?!何か近づいてくる?」
草木をかき分けて何かが近づいてくる音が聞こえる。
猪?それとも熊?武器は持ってるけどこれで戦えと?無理無理!絶対無理ぃ!こういうときは…。
ピコーン!
死んだふり!
いやいや、アカン。それ一番やったらアカンやつや。
一度に起きた様々な事象に対し混乱することしかできない私をよそに、その音は確実に近づいてきていた。
とにかくここから離れる?でも、遭難した時は下手に動いたらダメって聞いたことがあるような?…ないような?うぅ…考えがまとまらない!
そしてソレは現れた。
「ひっ?!」
思わず目をつむり顔を背けてしまう。獣だったら危なかったかもしれない。けど…。
「なんだ。人の声がすると思って来てみたら――」
聞こえてきた最初の音は人の声だった。
おそるおそる目を開ける。すると、最初に目に入ったのは人の足だった。そこからゆっくり見上げていくと目に入る大腿筋。かなり鍛えられている。
OH~SIX PAC…。って、えええええぇぇぇええええ?!
「胸?!muneeeeeeeeeeeeeeeeee?!」
女?!女の人?!しかも私より大きい…。圧倒的敗北感…。
彼女が身に纏っていたのは、まるで水着のような胸当てに肩当と肘当て、下の方はすぱっつ?に膝当て――――防具として意味あるのと疑問しかないものだった。
しかしそれらを防具としてとらえた自分に対しても、驚きを隠せなかった。だけどそれもすぐに塗り替えられる。
そうしたのは、彼女の燃えるような赤い髪だった。染めてるとは思えない自然な赤。その美しさに私は思わず見とれてしまっていた。
「黒い服に、黒い髪…」
彼女が口を開き、私はハッと自分を取り戻す。
そうだ、助けを…。
「オマエ、帝国のトクマ部隊か」
は?帝国?トクマ?
何のことか分からないでいると、彼女は背中に背負っていた大剣を手に構えた。
「え?」
いきなりのことに戸惑う。そんな私に対して彼女はいきなり、背丈ほどはあろうかという巨大な大剣を片手で振り下ろしてきた。
うそでしょぉぉぉぉおおおおお?!
私は転がるようにしてぎりぎりのところで避ける。私がいた場所にはその衝撃の大きさを物語る跡ができていた。
あ、あぶなかった…。って、こ、殺される?!
「避けんなよ。ちょっと気絶してもらおうと思っただけじゃねぇか」
いやいやそんなの食らったら死ぬって!何か誤解されてる?!
「あ、あの!私は敵じゃ…」
言い終わるより先に大剣が振り下ろされる。
ひぃ!?き、聞こえてない?
もう一度呼びかけようと試みるが、興奮した様子の彼女はブンブンと剣を振り回しながら迫ってきた。そこに話ができる雰囲気は微塵も感じられず、そんな彼女を前にして私は慌てて逃げ出すことしか出来なかった。
「逃げんな!お前も兵士ならアタシと戦え!」
「わ、私は兵士じゃ…。ひっ?!」
話を聞いてくれる雰囲気じゃない。どうしたら?!
その時手に持っていた刀が目に入った。思わず握っていた手に力が入る。
…戦うしかない?でも刀で人と戦うなんて―――
『大丈夫』
誰かの声が脳裏によぎった。懐かしく安心できる声。何故か分からないが、覚悟が決まった。
私は彼女に向き直り刀を抜いた。記憶をなくす前は剣道でもやっていたのだろうか?体が自然と中段の構えをとった。
「やっとやる気になったか」
(細長い刃が出てきた?投げ捨てたアレはマグか?)
峰打ちで相手の戦闘力を奪えば!
刃の部分ではなくその背面で相手を叩く――――それが峰打ち。
斬れる刃ではないとはいえ、当たり所が悪ければ最悪…死。
だから狙うのは――――肩か肘当て!それで手が痺れてくれれば……でも、私にそれが出来るの?
『できるよ。―――なら必ず出来る』
まただ。一体誰なんだろう?でも、この声の主に言われたら何でもできそうな気がする!
彼女の赤い瞳が、私を鋭く睨みつける。その足はじりじりと迫り間合いを図っていた。
(初めて見る武器に、構え…面白れぇ!)
……くる!
筋力があるとはいえ、片手では持ち上げることさえ不可能と思われる大剣をありえない速さで振り下ろしてくる。そのまま受ければ体は刀ごと真っ二つ、喜劇なら体が杭のように地面に突き刺さっているだろう。
けど、私はそれを紙一重でかわす。刃は体の横を掠めるように通過していた。
「なっ…!?」
驚きを表情に出す彼女。しかしそれも一瞬。地面を叩いた刃をそのまま切り上げるようにニ撃目を放ってくる。
―――長い髪が少しだけ切られ空に舞っていた。しかし、大剣が体を捉えることはなかった。
…見える。彼女の動きが。そう、言葉にするなら―――
「見切った!」
―――上からの振り下ろし、そして薙ぎ払い。次は――――
彼女の動きが手に取るように分かる。不思議な感覚。
これなら私は負けない!
(くそ!なんでだ。なんで当たらない!まさかコイツ…タイチョーと――――いやそれ以上?……くく、おもしれぇ!おもしれぇな、おい!)
彼女が肩で息をしている…。動きにも陰りが見える。さすがに無限の体力とはいかないらしい。
こちらは回避に専念していたおかげでまだまだ体力はある。彼女にもそれが分かっているはず!―――次の一撃が勝負。
彼女もそう思ったのだろう。空気がよりピリピリしたものへと変わっていた。
私はふぅと息を吐き、刀を反転させて構えなおした。
勝負の一撃なら必ず隙が生まれるはず。
彼女が向かってくる。私は集中しその時を待つ。彼女は今まで一番速く重い一撃を放ってきた。
だけど、私はもう完全に見切っている!私には通じない!
自分から前に出て、ギリギリのところを刃が通過するように体を逸らす。彼女に当たったと錯覚させるために。そしてそれはほんのわずかな隙を生む。
今だ!生まれた隙をついて峰打ちを…!
「えっ?」
―――刀が体に当たる前に何かにはじかれた?この感触…防具のものではない?見えない何かに?
「もらったああああああ!!」
何が起こったのか分からない私に対してニ撃目が放たれる。
「きゃぁぁああああぁあああ?!」
「なっ?!」
「あうっ?!」
彼女の一撃で吹き飛ばされ木に叩きつけられる。力を失った体が崩れ落ちていく。
…さっきのは一体?私が…負けた?…私が負けていいのは…、あ、――――にだけ……。
頭を強く打ったのだろう。意識がそこで途切れた。
草木をかき分け一人の少女が出てくる。子供のように背丈の低い子だが、漂う雰囲気は子供のそれではなかった。
「ふぅ…、やっと、追いついた…」
「おせぇぞ」
その一言に少女は不満を隠さなかった。頬を膨らませ怒りを表す。
「ワタシは、マグ…。筋肉マケンと、一緒に、しないで」
「へぇへぇ」
いつも同じようなやり取りをしているのだろう、赤髪の女は適当に流す。少女もそれは分かっているようでそれ以上怒ることはなかった。
「それより、戦闘、してた?」
少女は木の下に倒れてる娘に目をやる。その娘の傍には見慣れない武器が落ちていた。それを見て状況を判断したのだ。
「帝国兵?倒したの?」
「アタシを誰だと思ってる?勝ったさ、一応な…」
歯切れの悪い返答に少女は首をかしげる。らしくない、そう感じたようだ。
(あの時アタシは本気で打った。けどアイツはそれを受けた。あの細い武器で、だ。アタシの攻撃をギリギリでかわし続けたことといい、アイツ…。
かなりデキる!だが、そんなヤツを倒したアタシはもっとデキる!)
ころころ変わる表情に少女はあきれながら言う。
「ちゃんと、調べた、の?」
「倒したんだからいいだろう?メンドーだしな」
少女は、ダメだこいつ早く何とかしないと、と内心思いつつメンドーなので表情には一切出さず、木の下で倒れている娘に近づいていく。
少女は腰につけた袋の中から小さな鉱石の欠片を取り出すと、娘にそれを近づけた。
「…えっ?」
少女が普段絶対に見せないであろう反応に赤髪の女は驚く。
「おぃおぃ、一体どうし――」
少女に近づき覗き込む。少女が手にしている鉱石を見て二人は言葉を失うのだった。
今後も長かったり短かったりします。