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魔理  作者: 新戸kan
あなたとのひびと

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18/301

れいせ しごとがんばる

 トスファ王国、謁見の間にて。


「なんじゃ、お主か。わらわはあの報告以外聞く気はないゾ」



 【第295代女王ナディ】


 15の時、女王として即位し今に至る。独身。年齢ヒミツ。



 ナディは玉座に深々と腰掛け、宙ぶらりんとなった足をせわしなく揺らしていた。しかしどこか気怠そうに、肘掛けに頬杖をついている。その姿に威厳もへったくれもなかった。


 周りの衛兵や重臣たちはそれを見て見ぬふりをしていた。今の彼女の機嫌を損ねることは自らの立場を苦しめることになるからだ。

 しかし、彼女の前に立っている者は違った。


「本日は大変お日柄もよく、女王様におかれましては…」

 その者は片膝をつき、うやうやしく頭を下げる。だが彼女の話し方が気に入らないのか、ナディが割り込んだ。

「レイセ…、なんじゃそのしゃべり方は。お主、そのようなしゃべり方ではなかったはずじゃろ?」

 ナディの指摘にレイセは表情を変えず。

「このような場は久しぶりで。ハハッ」


 女王を前にしても、いつもと変わらぬレイセの態度にナディは頭を抱える。それを見た周りの衛兵たちが武器を構えレイセに向ける。

「…よい、普通に話せ。許す」

 ナディは衛兵に向け手を振り、武器を降ろさせる。イライラを抑えるためか、煌びやかな耳飾りをいじっている。

 彼女が呆れ妥協するほど、レイセはいつも通りだった。城の中ではレイセのことを知らない者はいないのだ。悪い意味で。


 ナディは玉座に座り直し、聞く態勢を整える。公務とあればきちんと果たす。それが彼女がだらけるための言い訳となっている。


「では、失礼して。フウマの者どもが使いを要求しております」

 ナディはその報告に眉をひそめた。そして不快感を表す。開戦時、万が一に備えフウマに使いを出していたからだ。

「わらわの呼びかけに応じなかった者どもが、いまさら何用じゃ?」

「あの者を使いによこせ、と」

 あの者と聞き、ナディは以前半ば聞き流していた報告を思い出した。

 態度がそうであっても中身が伴っているとは限らない。気分が乗った時に周りから再度聞く、ということも度々あった。

「報告にあった娘のことか?して、なぜじゃ?」

「理由は分かりませんが、此度の異変に関係あるかと…」

「お主はどう考えておる?」


「ひと月前の帝国の急な宣戦布告。向こうから開戦したにもかかわらず、攻めてくる様子を全く見せず国境付近での小競り合いのみ。そしてフウマ一族の謎の沈黙、謎の娘と様々なことがここ最近立て続けに起きております。これらが全く関係がないとは到底考えられません」


「そうじゃのぉ。王国から帝国へ、しかも自身の名を付け、変えるなど…。そのような男には見えんかったがの…。」


「それに女王様の件も…」

 自身の件と言われ、何かにプルプルと震えだすナディ。

「アヤツが結婚してからもう二年か…。それなのに、わらわは、わらわは…!」

 震えの原因は怒りと嫉妬であった。衛兵たちは落ち着かせようと慌てふためくが、レイセは動じない。

「その件に関してもフウマに尋ねてみるのがいいかと…。なので、許可ください!」

「お主、いきなり変わりすぎじゃろ」

 いきなり素に戻るレイセにナディは怒りを忘れツッコむ。右手のツッコみは欠かさない。

「私にはもう耐えられません。ハハッ」

 レイセがめんどくさくなったのだろう、ナディは投げっぱなしジャーマンを決めた。

「わかった。お主に任す」


「では、そのように」

 レイセが去った後、ナディは大きくため息をついた。



「それで、民の様子は?」

 ナディは傍に控えている男に話しかけた。

 女性優位な社会ではあるが、城内に全く男がいないわけではない。魔力が優秀な者は彼のように重臣として取り立てられることもある。

「いつもと変わりなく。それも女王様のお言葉あってかと」

 ナディは布告を受けすぐに民の前に立ち演説を行った。それが功を奏し、国民は変わらぬ日常を過ごしていた。

「………ふふ。あれはな、134代の…」

 思わず引用先を口走ろうとしていた口を両手で塞ぐナディであった。





「というわけで、護衛を兼ねてお前も行け」


 レイセは自身の部屋でクキョに任務内容を伝えていた。テーブルを囲み、クキョは豪快に肉にかぶりつき、レイセはマナーの見本のような作法で食事をしている。


「それはいいが、なぜアイツなんだ?」


「それを確かめるのもお前の任務だ」

 クキョが食べ物を口に入れて話していても、レイセは気にしない。それどころか時折口元を拭いてあげている。

「わかった。もしもに備えてアイツも連れてくぞ」


「それは最初から想定している。問題ない」

 名前を言わずとも伝わる、長年の付き合い。クキョが名前を覚えない理由の一つでもある。

「指名のことは彼女には言うなよ」


「なんでだよ?まだアイツを疑ってんのかよ?アタシに監視までさせて、それも毎日毎日…」 

 クキョは怒りを隠さずレイセを睨みつける。が、睨まれた当人はそれを全く気にせず流して答える。

「私ではないよ。思い当たるやつらがいるだろう?」

 すぐに該当者が思い浮かんだのだろう、忌々しそうに愚痴る。

「相変わらずうっせぇな?」


「しょうがないさ。私たちは問題児の集まりだからね。ハハッ」


「その代表が何言ってやがる」

 呆れながらもクキョは笑っていた。



(しかし、アイツ何モンだ?男のくせにアタシに気付いてやがった。大した魔力は持ってねぇようだから問題ないと思うが)


「何か問題でもあったかい?」


「…いや、なんでもねぇよ」

 何でもないことはレイセにはわかっていたが、彼女は聞かなかった。


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