うごきはじめたとき
孤児院に通うようになって、何日か経った。
クキョさんのおかげか、今はこれが私にできること―――そう思い子供たちにお話を聞かせる日々が続いていた。
そんなある日のこと、クキョさんから唐突に話があると言われた。
何だろう、もしかして私の行動で何か迷惑でも?なんとなく思い当たる点があるような、ないような…。
ここは、先手必勝!
「ごめんなさい!」
「あ?何がだよ?」
ここは一気に畳みかける!
「私のことでいろいろとご迷惑を…」
「何を言っているか意味が分からんぞ…。それより話がある」
あれ?違った?
このままでは話が進まないと思ったので、おとなしく聞くことにした。
「数日後、任務で王都を離れる」
いきなりだったので、ひどく動揺した。でも、そういえばこの国は…。
「戦争ですか?」
そう、戦争中だった。街は日常にあふれていて、非日常を忘れていた。
彼女も魔剣と呼ばれる者。街で遊んでいるわけには行かないよね。
なんとか笑顔を作り送り出そうとしたが。
「違う。アタシが行くのは別の場所だ」
彼女の答えに安堵した。彼女が強いとはいっても戦争では何が起こるか分からない。今も戦っている人たちには申し訳ないけど、クキョさんには戦地に行ってほしくなかった。
「そんな訳でしばらくウチをあける。結構遠いらしいからな」
「さみしくなりますね…」
クキョさんがいないのはホントにさみしい。けど、任務じゃしょうがないよね?
そうだ、クキョさんが帰ってきたときにサプライズなことでも!
そうだなぁ……ここの食材で私のとこの料理、何か作れないかなぁ…?お肉と謎の野菜でなにか……。部下さんに作ってもらわないとだから、簡単なもので……。あ、でも…調味料、どうしよう?料理じゃなくて、他のことで?えっと、御夕飯にします?それともお風呂にします?それとも――――
なーんて考えてたら。
「は?何言ってんだ。オマエも行くんだよ。だから準備しとけって話だ」
ザ・ワー〇ドだった。直訳すると時が止まった。
え?なんでクキョさんの任務に私が?役に立てるとは到底思えないんですけど。
「なんで私も?」
今度はクキョさんが慌てだした。何も言わず素直についてくると思っていたんだろうか?
「え、あ、いや?面倒見るって言ったし?部下に任せるのはダメだろ?」
それはそうだけど、街の外に出たら危険なのでは?街の中でさえフードを被って、面倒が起きないようにしていたのに?
「ホラ、荷物持ちだ、荷物持ち!」
むー、怪しいなぁ、怪しいなぁ。筋肉マッチョなクキョさんがいて私が荷物持ち?他にも部下さんとか適任はいるのに?それにさっき任務って…。
「そ、そうだ!しばらく帰れないから、挨拶とかしといたほうがいいぞ?」
そっか、しばらく帰れないんじゃ、孤児院のみんなや彼が心配しちゃうなぁ。明日にでも伝えに…。って何で知ってるの?!心配かけないように話してなかったのに。
「え?あっ、いや、えっと?」
彼女を問い詰めると、ここ数日よく見ていた身振りをしだした。それに加え、目蓋が高速で開閉していた。
うー、怪しすぎる。その証拠に、さっきから世界レベルで目が泳ぎまくってる。こんなクキョさんは見たことない。絶対何か隠してる!
私が疑いの目でクキョさんを見続けていると、誰かが部屋に入ってきた。
足音でその来訪者に気付き、そちらを見ると。
「クマちゃん!久しぶりだね」
彼女の顔が一気に不機嫌になる。
しまった、忘れてた。最近子供たちに話聞かせたから、つい…。
私が慌てて取り繕おうとしている隙に、クキョさんが彼女に近づき耳打ちをする。
「…(わりぃ、何とかごまかしてくれ)」
その一言で察したのだろう、彼女は今回の旅の目的を話し始めた。




