なんでもいいからてつだいたい
昨日は昨日、今日は今日!
ということで、めげずにできることを模索する朝…のつもりだった――――
「料理は何故か自信あったのになぁ…」
と声に出して呟いてしまうほど、落ち込んでいた。
それというのも昨晩、夕飯作りを買って出たんだけど――――
まずは、食材を切るところから!えっと、包丁は…これね!
また魔鉱かと思ったんだけど、普通の金属を使ってるらしい。もちろん魔鉱製もある。が、クキョさん邸ではこちらを使うみたい。古き良き何とか、とか?
最初はお肉から。相変わらず何のケモノか分からない。見た目は完全な赤身。脂肪部分は全くついていなかった。
その大きなお肉の塊を掴んで刃を当てる。肉質は硬い様なので力を入れて包丁を押すが…。
動かない…。この感じ、クキョさんと戦った時と同じ…。
と、またも魔力に立ちはだかられ、志半ばで食材斬りを諦めたのでございます。
それなら、味付けで腕を、と思いましたが…。
置いてある調味料全て味見させてもらいましたが、今まで味わったことのない風味で、どう組み合わせていいのか分からず料理を諦めた次第でございます。
――――はぁ…。
続いては買い物です。
これなら、と思いましたが…忘れていたことがちらほら。
まず食材に関してです。
肉や木の実は分かります。見たまんまですから。
問題は謎の野菜です。野菜と言っていいのか分かりませんが、よく食卓に並ぶことからここでは一般的なものなのでしょう。ですが…私のいたとこでは見たことのない色形。それはまるで毒を持っている生物のような…警戒色。屋台に置いてある以上食べられるのでしょうが…。
初めて食べたときは勇気がいったものです。
それともう一つ。
アレやソレといった指示詞が飛び交い品名が分からず、どれが何を差しているのか分からないのです。何かに書いてもらえばと思いましたが、字が読めないことに気付いて…。
こうして買い物も諦めた次第でございます。
――――はぁ…。
落ち込みすぎていつもの自分とは違う気がする…。でもホント…何もできないなぁ。
ベッドの上で膝を抱えて頭を埋める。私からはため息しか出てこなかった。
「おう!入るぞ!」
扉を叩いてすぐ入ってくるのは、この家の主様ですね。普通は返事を聞いてから入ってくるものではないでしょうか?
顔だけ上げて扉の方を向く。その表情はどんよりした曇り空だったかもしれない。
(あー…なんか違うな。カイモノ?とか言って食料調達に行きたいって言いだした時は焦ったぜ。でもしょうがねぇよな。人が多いとこはいろいろ大変だったしな。頭出させたらそれはそれでなぁ…)
「……なにか用ですか?」
なんとか出した声はやる気も全く感じず、引き籠って何年目ですかっといったところだ。
(……ここはいっちょ…!)
「今日もこれから出かけんだろ?ただし、早く帰れよ―――」
「なにか用ですか!!!」
ダダダと一瞬で距離を詰め、クキョさんに迫る。その時発した声はこの広いクキョさん邸の隅々にまで届いたという。
嬉々とした顔でぐいぐい迫る私を前に、クキョさんは体を後ろに仰け反らせ尻込みしている。
「お…おう……帰ったら、教えてやるから…」
目をキラキラと輝かせ、孤児院へと向かう足取りは、自分でも驚きの軽さだった。
クキョさんの言いつけ通り、昼過ぎには孤児院を発った。
いつもよりも早い時間なので彼には会えないと思っていたが、彼の方も仕事が早く終わったとかでいつもの場所で会うことができた。
長年放置されているであろう朽ちかけた椅子に座り、彼と話し始めた。
会話というよりも私が一方的に話す感じ。彼もそれを望んでいた。
その話が彼の興味を誘うものなのか、よく白い歯が見える。その笑顔にもどこか懐かしさを感じた。
「ごめんなさい!今日は早く帰らないといけないの!」
いつもは空の色が変わり始めるまで話をしていたりする。
この街は街灯が無いのか、夜は家から漏れる明かりだけが街を照らす。そのため、夜外出する人間はほとんどいないらしいが、それでも危険は考えられる。なので、普段は彼の方から話を止められていた。
彼に手を振り、別れの合図とする。
これがいつもだったら、明日はどんな話をしようか考えながら帰るが、今日は違った。クキョさんの言葉が頭の中で走り回ってたから。
一体何を教えてくれるんだろう?今度こそ私にもできることかな?
今までの失敗はどこへいったのか、期待だけが私を満たしていた。




