よそみはだめです
それは初めて孤児院を訪れた日のことです。
明日もまた来ますと告げ、孤児院を後にする。
シスさんに帰り道を聞いたから帰れるはず。多分。おそらく。
不安を覚えて注意散漫になっていたのかもしれない。横から出てきた人影に気付かなかった。
「うわっと」
いたた、誰かとぶつかって尻もちついちゃった。
痛めたお尻を手で撫でていると、手を差し伸べてきてくれた。その手を取り立ち上がる。そしてお礼を言おうと顔を上げると、その人が男の人であることに気付いた。
男の人と接することがなかったので、つい慌ててしまって手を離してしまう。
彼はそれを私が怒っていると捉えたのだろうか。
「ごめんね。急いでいたか…」
彼の口が止まる。そしてその視線の先には…。
しまった。尻もちついた拍子にフードが…。
「あの、ごめんなさい。…ありがとうございますぅー」
私は慌ててフードを被りその場を去ろうとする。
「待って」
彼に素早く手を取られる。身の危険を感じ、恐る恐る振り返ると…。
「君と話がしたいな」
笑顔でそう言って手を放してくれた。だけど、冷静でなかった私は…。
「な、ナンパですか?!」
「えっと…、なんぱって何?」
ホントにわからないといった感じで困ってたので教えてあげた。今までにナンパされた覚えがないので(記憶が無いことを言い訳にプラスしつつ)自分なりの解釈で。
「下心を持って異性を口説くことですー」
こんな感じだよね?間違ってはないよね?
彼は最初、へ?って顔をしていたが、意味が分かったのだろう。急にきょどりだした。
「え?!あ、い、いや、そそそんなんじゃ…」
声まで裏返してひどく慌てるものだから、ついおかしくなっちゃって。
「あは、あははははははは」
思いっきり笑ってしまった。そんな私を見て彼は真っ赤な顔で弁明し続けた。
白く長い前髪のせいで目元がよく見えないけど…どうしてだろう?
私は彼を知っている。いや、知っている人に似ているんだろうか?有名人に似ているとかではなくもっと身近な…。彼のすべてが懐かしい感じがする。傍にいると気持ちが安心する。
だからだろうか、あまり複数の人間に言ってはいけないと思うんだけど、私の身の上を話してしまった。
だが、彼は驚いた様子を全く見せず、ただただ私の話に耳を傾けた。
「あの、良かったら明日も会えるかな?」
彼の問いかけに私は笑顔で答える。
「ナンパですか?」
彼はえっ、と驚くも、顔を真っ赤にしながら。
「そ、そうです。だから明日も…」
私は明日もこのあたりを通ることを伝えた。
それから毎日、孤児院に寄った帰りに、彼と他愛のない会話をするのだった。
みじかっ!
男より女の子がキャッキャウフフしてるのを書く方が楽しいからね。
しょうがないね。
次回は26日0時ではなく27日0時です。




