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魔理  作者: 新戸kan
にぶ

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126/307

じゆうとせんたく

 脱げてしまわないよう頭を押さえながら走ること四半刻、時計が無いので正確な時間は分かりませんが、そんなところでしょう。

 だが思ったよりも息が上がっていない。無意識に速度を落とした結果でしょうか?

 兎も角着きました、お城側から見て左後方、以前と比べると雰囲気が随分変わったお仕置き街、その隅っこ孤児院です。


 違和感しかないいつものを済ませて中へ、更にはすぐに抱き着いてくるはずのさくらがこの日に限ってもじもじとしている。可愛らしい顔も見せてくれない。側にはれぶんが立っていて、何か促している。


「ほら。代わりにボクが言おうか?」


 さくらは首を振り拒んだが、話そうという感じではなく、れぶんも困り顔をしていた。

 伝播による戸惑いの増幅により、私は視界の正面を別に移す。

 他の子達は見かけない子等と何やら話していて、その中には田中さん……ではなかった、ドリーさんの娘さんもいた。

 ただ一人、喧しいほどの賑やかな子が妙に大人しいのが気になった。

 どちらも放ってはおけない状況の中、シスさんが私を呼んだ。


「ごめんね二人とも。少しお姉さんを私に預けて、ね?」


 子供らには優しい笑顔を向けるはずのシスさんが真剣な顔をしている。何か起こったのかと心が騒ぎ、さくらの頭を撫でてからまた後でと、シスさんの部屋へと向かった。


 シスさんは扉を閉める際にも隙間から目をやりと外に気を配っていた。私を椅子に座らせるでもなく、そのまま扉に聞き耳を立てこちらを見ていた。

 部屋に鍵のようなものは無く、子供らが大きな声を出せば聞こえてくるほど、壁は厚くない。

 よほど聞かれたくない話なのか、彼女は小声で話し始めた。


「ナタカさんは、私達マガクという職についてご存じでしたよね?」

「確か子供たちに魔力の扱い方を教える、と聞きました」


 学校の先生みたいなものと認識した記憶がある。

 しかしその答えでは不十分だったようで、


「代々宿るマリョクガンという力があるんです。今……あ、そうでしたね」


 シスさんは目元を指差しているものの変化があるようには見えない。先に気付いたのは彼女の方で説明をしてくれた。

 見た目上は魔具で強化した時の様に炎みたいに魔力を目に帯びるのだという。

 そしてその力が示すものは。


「その方の魔力の適性を見極めることができるのです」


 クマさんは幼魔院で魔具の才が判明したと聞いた。つまりシスさん、魔学でないと真の才能が分からないということでいいのだろうか。

 私の問いに彼女は解をくれた。


「サクラがあることを………これは後で直接聞いてあげてくださいね。念のためということではないのですが、子供たちをてみたのです」


 今ままで見なかったのはあの子達の意思を尊重したいという考えだったそうだ。その道に囚われることなく選んでほしいと。

 しかし彼女自身服装の移り変わりと、世の中の変化を目の当たりにし、選択肢が多い方があの子達の為でもあると考え直したようだ。

 軽くは捉えていなかった彼女だったが、結果は重かった……いや重すぎた。何度も頭を抱える程に。だから私に相談しようとしたのだ。


「五人は良くも悪くも普通でした。ただ一人、類稀な才能を持つ子がいたのです」

「一体何の…?」


 幼い頃の私と重ね合わせたのかもしれない。誰かと聞くよりも先に才能を問う自分がいた。


「マケンや、マソウといった方をご存じでしょうか?武器を扱う者の中でも特に優れた方に送られるものです」


 他にもいるそうだがこの国では剣と槍が一般的なものでシスさんが咄嗟に出した例がその二つだった。

 頷き、二人の顔が浮かび上がる。

 ということは、さくら、しのぶ、さつき、ひめこの四人のうちの誰か。そういえばさっきあの子の様子が変だった…。もしかして気付いて?

 けど彼女は私の予想を裏切る。


「男の子でその才が発覚したのは長い歴史の中でも数件と聞いています。ですからどうしたものかと」

「え?!待ってください、男の子って……?!」

「……レブンです。あの子には、マレンの才があります」


 言葉が出なかった。が、頭の中は意外と冷静で、初めて聞く言葉だったのにも拘らず、漢字がぴったりと当て嵌まる。

 ここへ来る直前、工房でその武器を目にしていた。

 魂すら刈り取ってしまいそうなほど異形な武器はべったりと張り付いて剥がれていなかった。




「あ、お姉ちゃん、戻ってきたぞ!」


 れぶんが嬉しそうにさくらに声を掛ける。私は彼に笑顔で返した。


「…さくら、おいで?」


 腰を下ろし両手を広げてさくらを呼ぶ。この方が話しやすいと思って実行に移した。

 まだ少し重そうな背をしていたので、押すように微笑みかける。こうすると、躊躇いは何の障壁にもならないようで、さくらは飛び込んでくる。それを喜ばしく見ていたれぶんにも声を掛けたが、一番お兄ちゃんに見えるためか照れ隠しで顔を突っ撥ねた。


「おねえちゃん、さくらね、さくらたちね…」


 耳に息がかかってやっと届くか細い声。けれど心にまで届いた。


「めいどきっさ、やりたい…!」

「……そっか、うん。お姉ちゃんはいいと思うよ」


 とは言ったものの………心の中でガッと口を開け両目を覆いぷるぷる震える私の姿があった。


「達ってことはれぶんも……?」

「そうだよ!おうとで一番のお店にするんだ!」


 それなら私は応援するしかない。



『私は反対です』


 別に自分を重ねたせいじゃない。ただあの悲劇が二度と起こらないとは限らない。魔物との戦いだってある。あの魔鉱の魔物みたいな未発見との戦いだって。

 だから考える間もなく反対していた。私がそれ以外の未来を作ってあげるって。感情的になったわけでは無く、むしろ気持ちは落ち着いていた。

 孤児院を経営している以上シスさんも反対だったようで、れぶんには言わないことにした。

 これが正しいんだって疑う余地はなかった。



「だからね、めいどきっさのこと、もっと知りたいの!」


 そう言われてもあの時の私はどこからその知識を持ってきたのか分からない。まるで記憶喪失で元の自分に戻ったかのように記憶にない。


(私が知らなかったことだけ覚えてない、全部が全部そうでは無いんですが…)


 話した内容は覚えている。記憶力には自信があるのです。(二度目)

 めいど喫茶、その名からめいどさんが接客する喫茶店なのでしょうが…。

 この世界での飲み物は水のみ。嗜好に走らないせいか文化的発展が原始と変わらないように思う。もしかしたら魔力が欲求を抑えているのかもと学者染みた考え方までしてしまう。


 意識を戻せば子供たちが不安そうな顔をしている。

 止まるなは進め、ならば無ければ作るまで。


「お姉ちゃんに任せなさい!お店の献立、私が作る!」


 めいど喫茶設立を表明した私に駆け寄る子供たち。ここの子達でない子らまでも。


 しかし一人、膝を抱え塞ぎ切っている子がいた。初めて見た時と変わらない姿で、ひめこはそこにいないほど存在を薄れさせていた。



「シスさん、ひめこは…?」

 

 再び彼女と一緒に部屋へと戻り話を聞くことにした。

 頭を悩ませることが二つもあると、同時に対処できるほど器用な人ではないようで、いつもと変わらないことは後回しにされてしまったようだ。


「昨夜の、セイマコウのせいです。ひめこにとって、とても辛い日のようなのです。…忘れないようにしていたのに……」


 配慮が足りなかったと私に謝罪する。

 土産話、子供たちとの共通の話題ができたと私は何も知らずに浮かれていたというのに。

 自分が癒されたい一心で来た私の方こそ謝らなければならない。


「…ごめんなさい、一度お城に戻ります」

「一度?」

「今夜はここに、子供たちと一緒に寝てもいいですか?あ、明日は朝早くに戻りますけど」


 クキョさんのお世話がありますからね。


「…子供たちも喜ぶでしょう」


 私はもっと知らなければいけない。子供たちのことも、クキョさんの様にもっともっと知らなければならない。


 ひめこにだけまた後でねと耳打ちする。だが反応は無かった。他の子達は普段よりも早く帰ろうとする私を悲しげに見ていたが、内緒にしていた方が喜びが増すかなと考えてのことだ。

 記憶が無かった時にも画策――その時は思考だけに留まったが、私はそういう演出が好きだったんだろうかと考えさせられた。



(あの子達にも見せられない……いえ、例え違うものだったとしても…!)


 恒例行事を済ませ外へ、あの子達には必要ないものと、外壁に預けていた刀を手に走り出す。


「…よし!」


 また一つ、やらなければいけないことができた。そう思うと胸が高鳴る。足が軽い。



 その後、クマさんへの許可取りと着替え、レイセさんにも連絡クキョさんの様子見と、忙しなく用事を済ませ孤児院へと戻った。

 クママさんは子供っぽく寂しそうにしていたが姉は妹の我儘を受け入れてくれたのが有難かった。

 顔を紅に染め、途中足止め案件もあったが、夏のように日は長く暗くなる前には戻ってこれた。

 子供らは帰ってきた私を見るなりいつものを中断した。ついしてやったり顔をしてしまった。

 ひめこを誘っての食事の支度やお風呂の準備、共に過ごした時間は彼女が調子を取り戻すには十分なものだった。



「おねーちゃん……あのね」


 ここでも布団は敷き布呼びだった。その上でみんなで横になる。不思議と薄っすらとした暗闇が怖くなかった。

 右隣にはさくらがいて、反対にいたひめこが他の子を起こさないようぼそぼそと、らしくない配慮が感じられる息遣いで声を掛けてきた。


「また、あの日が来たら………あたしと一緒に寝てくれる?」


 一年に数回程度の星魔光の日、彼女にとっては心を塞いでしまうほどの日。見た目は十にもならない幼子なのにその日だけでと遠慮が見えた。

 この子等にとって私はお姉さんだから。そうありたいから。


「ひめこが望むなら、いつだって一緒に寝るよ?」


 旅をしようと考えている人間の無責任な発言だとは知っている。

 けど、この子達の傷の深さを私は知らなかった。今の笑顔に満足してしまっていた。

 一年三百日、毎日が笑顔でいられるように、二度と傷つけられないように、私が守ってあげたい。


 答えの代わりにとても静かな寝息が聞こえてくる。起きている時とは正反対、私は薄明かりの中、笑みを零す。繋いだ手に軽く力を入れてやると、ギュッと返ってくる。そんな心地よさと眠気に意識を染めていった。




 ここで閑話を一つ。

 私が孤児院へと戻る途中、街の人から話しかけられた。

 その方の目撃情報では変な声を上げて猛然と走り去った兵士さんが、しばらくした後、酷く肩を落とし顔が窶れているようにすら見えたのだとか。

 他にも外套を纏った人物が同様に、いやそれ以上の速度で走り去ったとかで、不穏を感じたらしく見回りの強化を求められたのだ。

 乾いた笑いで誤魔化しました。

 私は兎も角?リィダさん、何があったんですか…?

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