かたなにねがいを
ワタシには戦うための力が必要だった。
想像なんて曖昧なものじゃない、確かなものが。
そしてワタシはそれを手に入れた。
――強くなった……つもりだったのだ。
光と服が溶け混じり合い新たな形を形成する。
服だけではなく、背中や頭にも主の力となるべく装飾が具現する。
更には右手に、左手の模造品とは違い、色鮮やかな杖(剣)が握られる。
そして…光煙から解き放たれた彼女は目を開け名乗りを上げる。
「…まじが、クマ。サンジョー…!」
とある少女が夢見た女傑が今ここに再誕した。
その名もマジガクマ。
この世界の人間には余程奇抜に見えるのだろう、集合したリィダさん達が揃いも揃ってあんぐりと口を開ける。
戦場に舞い降りた魔法少女、初めて見るのではその反応は間違いないと思う。
しかしながら私も彼女ら程大口ではないが、何故この機にと口を開いていた。
そのまま反応と所在を確かめるべく、隣に目をやる。
もしかして彼女を確実に確保するため、と考えが浮かぶが、それを邪魔するのは自分の声。
『いいですか、クマさん?変身するときは掛け声がありまして…』
律義に守って?
戦いを忘れた私達の視線を浴びながら、背丈に合わせた小太刀の様な大きさの魔法の刀を前にクマさんは構えた。
夜だと足がスース―する、なんか不思議な感じ。みずぎみたい。
魔物は……鈍い。けど油断はダメ。
まずは前面の壁を再展開。少しでも衝撃と前進を遅らせる。
ナタカが挿した場所を再確認、頭で力の方向を計算。
マモノ右腕部に集中、これなら右前方に、上手く木が絡んでくれれば時間がより稼げる。
ワタシの前にも壁を発動、これで自身と後ろのリィダたちを守る。
二人には木の陰にでもいるよう通達済み。後は行動するだけ。
『…ケンマ、以外が、創造すると、どうなるか?』
ナタカにとっては何気ない質問だったのかもしれない。そんな顔してた。
当然だ、生まれた世が違う彼女では当たり前を知っていなくても。
彼女もクキョ同様知りたいが強いのは知っている。
でも知られてはならないこともある。
その質問がどれだけワタシの心を抉ったのかを。
だからワタシは普通に教えた。
『禁じられてる。ナタカも、見たでしょ?ケンマが、失敗した、時を』
説明役と言いながら、言葉足らずとは自分でも思う。でもそれも含めてのキャラ作りだから。
ナタカはそれを聞いて何を思ったのか、顔が暗くなった。
もしかしたら王都防衛戦時の上の人達と同じ事を思いついたのかもしれない。
あの時は女王様とたいちょうが強く反対したらしいが。
おトーさん、おカーさん、ごめんなさい。
ワタシは禁を破ります。
でも二人には迷惑は掛けません。
だからワタシに魔力を貸して!
ケンマ以外の人間が創造しようと魔力を送れば例外なく爆発する。
その初事例とマケンが完成したのは同じ月だったという。
その時からずっと偉い人達に疑問視されていたのは言うまでもない。
だからこれはワタシが勝手にやったこと。
代理ではなく、今のたいちょうとして、みんなを守るために。
問題があるとすればワタシに出来るのかどうかということだけ。
こっそりと試したことが何度かある。
勿論お城ではやらない、即見つかる。いやワタシなら大丈夫か。
戦時、クキョと前線拠点に向かう途中とか帰りとか、そういう意味では識ることの出来た任務だった。自分の欠陥ぶりも…。
だからワタシはヘンシンした。
『魔法少女はですね、奇跡を起こすんです!』
興奮気味に話すナタカの言葉には相変わらず理解が追いつかない。
『…キセキ?』
『奇跡というのはですね、…そうですね………人の手で起こす、それこそ魔法みたいなものですね』
『…キセキ……マホウ……、人の手で起こす』
不覚にもキャラを忘れた。
ワタシにはそのキセキとやらが何なのか分からない。想像もつかない。
でもワタシは識っている。
それは人の手で起こせるものなんだって。
ワタシはナタカの扱う武器と同じ形をした魔力の剣を抜いた。
クマさんがたどたどしく刀を抜いた。
彼女は格好良く決めていたつもりだろうが、剣術道場の人間からすれば見ていて不安になる。
その後満足したらしく、抜く前に態々腰を下ろして地面に置いていた私の刀を再び手に取った。
(丁寧?真面目?なんかちょこちょこ動いてて可愛かった……って、これはまさかの二刀流?!)
クマさんは両手をやや上に上げて広げ、左右交互に前に出す。若干左手の方が下になっているだろうか。
設定等細かく教えたわけではないが、どうも彼女の中の魔法少女像が当て嵌まらないようだ。
しかし魔物は待ってくれない。重い体を更に重そうにしながら動き始める。
体を細かく震わせる揺れが伝わり、クマさんは決めあぐねていた姿勢を悩むことなく右前に決めた。
見るからに素人なのだが、クマさんは刀で戦うわけではない。
どうやら私の言った形に拘っているようだ。
(――ん?……あれ?!彼女がいない?!)
彼女はクマさんを見て眩暈を覚えたか今の私と同じく頭を押さえていたはずだが、目を離した隙にいなくなっていた。
もしもに備えて私も彼女を確保する手筈になっていたのに。
私もくらくらする程に首を振ったが、木の陰に隠れているようで見つからなかった。
こうなったらリィダさん達が彼女を捕捉しているに違いないと望みを託しそちらを見た。
出来の悪いキモチは歯にくっ付く。
そんな感じで、またさっきの、クキョの言葉が浮かぶ。
オマエ一人で、そう言われた時、ワタシは反発した。
一人で突っ込んで終わらせるヤツが何を言っているのかと。
あの時は若かった…今思えば自分が戦場を支配しているんだと自惚れていた部分があったのかもしれない。
帝国の…誰だっけ?あの……マケンと、一人で初めて戦った時も。
ワタシ達を先に行かせたたいちょうのように、ワタシも二人を先に行かせるんだって、一人でも戦えるんだって証明したかった。
そうでもしないと、クキョと…一人でも戦う彼女の傍にはいられないと思っていた。
結果は勝てなかったけど、ワタシは生きてる。たいちょうのおかげで。
『何言ってんだ?オマエがいるから安心して突撃できるんだろ?』
必要ない癖にと当時は思った。
今だってそうだ。ナタカのおかげでワタシはワタシの戦いを、マグを使うことが出来た。
ワタシがみんなを守る。その背中を。
二本の剣を振り上げ、声高らかに叫ぶ。
「ヒッサツ!」
激しい動悸に引っ張られて私は自分を一瞬見失う。そのせいか、はたまたおかげか、両手はだらりと力無く下がり、拙いながら一字一句間違いなく耳に届く。
それはクマさんには教えることができなかった、真剣子ちゃんの終幕の一撃。
「イットウ――リョーダン!」
おトーさん、おカーさん、ワタシに魔力を。
ケンマの魔力を貸して。
キセキってマホウはいらない。
ただ、みんなの様に失敗してくれるだけでいいの。
だってそれだって人だから起こすものでしょ?
ワタシにみんなを守らせて。
楽しそうに笑うナタカが脳裏を掠め、彼女が信じて挿してくれたマコウに願いを込めて魔力を送った。
クマさんが私に向けて剣を振ったのではないのに、心臓が直接削られたわけではないのに胸が痛い。
私は呆然と身を隠すのを忘れ、目を閉じるのを忘れ、視界まで白く染まる。
音は聞こえず、森はいつもの静けさを取り戻したかのようだった。
頭の中をぬめぬめと黴の如く根付いた黒い触手が這う、それを今ある全力で振り払った。
そして私はまた何か考えだす前に走り出した。
クマさんに次の手を、何より彼女が心配だった。
光が収束し、再び影が私を隠す。
その私を何かがキラッと照らしそちらを、チラリと横目で魔物を確認した時、足が止まった。
魔物は動かない。いや――動くことが出来ないのだ。
足の関節部に光を多角反射して美しい、透明な水晶のようなものが生えている。
そこだけじゃない、見上げていくと腕肩首、特に右腕部に集中している。
それが魔物の動きを止めていた。
耳を澄ませば聞こえてくる音、もう一つ異変に気付いた時、私は再び走り出した。
私の中に一つの考えが浮かんでいた。
そしてそれに囚われた。
「これ……どういうこと…?」
爆発しなかった、大失敗というわけでもないはずだ。
であれば、これは成功した結果ということ。
でもそれはおかしい。
ワタシはマグ、創造の出来ない、ケンマではないのに。
戸惑っているのはワタシだけではない、爆発の衝撃でマモノを倒したら一斉に駆け出すはずだったリィダたちも呆然としている。
しかしだ、ワタシではなく、魔物が何かした可能性が無いわけではない。頭を切り替え次の手を考えなくては。
そうワタシはマグ、戦場では一番冷静ではなくてはならない。
しかし考えども考えども、浮かぶのは一つの回答のみ。
それと一致した正解をナタカが持ってきた。
「クマさん、魔法です!氷の魔法です!」
いつもと違う感覚、ワタシの目は大きく見開かれていた。が、それ以上に続いた言葉がワタシから喜びを奪った。
「今しかありません!今が――――」
恐ろしく感じた顔でナタカが迫る。
「あいつを倒す好機です!」




