ひとりでできるもん
0になったら時が戻ります。
夢を見ました。夢の内容はよく覚えてない。
体を起こし頭を押さえる。しっかり寝たとは思えないほど気分は優れなかった。
何なんだろう。いつも同じ夢を見てる気がする。記憶に関係あることなんだろうか。
思い出そうとすると、昨日の夜のことが先に思い出された。それで思わず顔がにやける。
いやぁ、いい夜だったなぁ。クキョさんのこといろいろ聞けたし。今日はどこに連れて行ってくれるんだろう?すごく楽しみだ。
優れなかった気分は嘘のように良くなっていた。
「悪いな。今日は任務がある」
食事をしながらそう告げられた。ひどく落ち込む。今なら背後にガーンという文字が見えるかもしれない。
「ある程度慣れるためにも今日は一人で行ってきな」
ひ、一人で?大丈夫なのかな。変な人に絡まれたりとか。
「戦争中とはいえ街はいつもと変わりない。だから大丈夫だ!…なはず」
今最後に何か付け加えませんでしたか?…でも、そうだよね。
不安はあるけど、いつまでもクキョさんに甘えているわけにもいかない。自立するためにも一人で街を探索してみよう。
さて、どうしよう?
とりあえずクキョさんに言われたのは…。
これ(フード)は被ること。
街の外れの方は行かないこと。
変な人についていかないこと。
おやつは…。
子供の遠足かな?失礼しちゃうわ、プンプン。
こうなったら、クキョさんが感心するようなお土産話を聞かせてやるんだから。
自分に気合を入れ歩き出した。
「マヨッタ」
だぁーっ!やってしまったぁー。(泣)
しかし慌ててはいけない。来た道を戻ればまだ間に合うはず…!
「ココハドコ」
完全にやってしまった。しかもここ、来てはいけない街の外れの方なのでは?周りの風景がいつもと感じが違うし…。
この辺りの建物は街の中心部のとは違う建築様式のようで、どこか古い印象を受けた。あまりにも違いすぎて、別の国に来てしまったかのように思えた。
どうしようかと慌てていると、何かの施設のような家が目に入った。
何故かは分からないがその家が無性に気になり訪ねることにした。
というのも、そこが背よりもはるかに高い塀で囲まれ、たくさんの窓が取り付けられていることから部屋が小分けされてると考え、周りの風景から見ても異質な感じにとらえられたからだ。
「す、すみませぇーん…」
恐る恐る扉を開け中に入ると、そこには何人かの子供たちがいた。
幼魔院かな…。でも前見たところと雰囲気が違うような。なんというか、一言で言うと暗い。ただただ暗い。
ここは子供特有の無邪気な明るさが感じられなかった。
「だ、誰ですか?!」
奥から一人の女性が出てきた。
ひどく警戒してるような?まさか不審者と思われてる?!
「あ、あの決して怪しいものでは…」
これ怪しい人が言うセリフでは?え、えっと、こ、こういうときは…。(汗)
慌てて誤解を解こうと四苦八苦していたら、一人の子供が私に抱き着いてきた。
「おかーさん…」
その子の発言に彼女も私も驚く。
お母さん?!そんな年に見えるの?!
ショックだった。今なら確実に背後にガーンという文字が見える。
気づけば私よりも先に彼女の方が冷静さを取り戻していた。
「あの、あなたは?」
その後彼女と話をした。道に迷ってしまってここまで来たこと、記憶を失くしていること、自分の事情全部。
ホントは言ってはいけないこともあったのかもしれない。けど、彼女を前にするとつい話してしまった。彼女の雰囲気がそうさせた。彼女は静かに私の話に耳を傾けていた。
「なるほど、そのような事情が…」
信じてくれるんだろうか。今までにない症例だというのに。
「信じます。貴女の目は嘘は言わないわ」
そんな言われ方をすると照れてしまう。
最初とは打って変わり彼女は優しさに満ちた微笑みを私に見せてくれた。
「自己紹介…、してませんでしたね。私はシスといいます。マガクの端くれです」
ということは、やはりここは幼魔院?
「ここは、孤児たちの面倒を見る場です…」
孤児院ということかな。それじゃあ、暗く感じたのは…。
「ここの子供たちは様々な理由で親から離れ離れになった子たちです」
それで彼女とは違う女性の私を見て抱き着いてきたのね。
不謹慎ながら納得と安心をする。
「私は彼らを救うためにここで面倒を見ているのです。ですが…」
下を向き、その緑の髪で目元が隠れる。それだけが理由ではないだろう、彼女の表情が暗くなったと感じた。
孤児たちは様々な理由で親から離れる。その時の出来事がショックで精神に異常をきたす。そしてそのまま成長すれば精神が魔力を制御できず暴走してしまう。その結果彼らは怒り、憎しみといった負の感情に支配され犯罪者としてでしか生きられなくなる。そうなる前に彼女は魔学として彼らの精神を救い、正しい魔力の使い方を教えようとしているのだが…。
「私では彼らを救えませんでした…」
彼らが犯罪を起こすせいで、街の人々は孤児だけでなく、面倒を見ているシスさんにまで冷たかった。だから、最初警戒されていたのだ。
彼女にかける言葉が見つからなかった。
でも、私も子供たちを助けたいという気持ちはあった。クキョさんたちが私を助けてくれているように、私も誰かを助けたいと思ったのだ。
だから…。
「私に何かできることはありませんか?」
自然と言葉が出た。
彼女や子供たちの着ている服は継ぎ接ぎだらけのボロボロな服で、この家も大分ガタがきてる。ギィと鳴る床は今にも抜けそうだ。
私にもできることは何かあるはず!
今まで彼らのことで誰にも優しくされなかったのだろう、彼女は涙を流しながら私の手を取った。
「お、お願いしまっ…す」
「子供たちに話を聞かせてあげてくれますか?貴女はこの国の人間ではないかもしれないそうですので、他の地の話であれば興味を持って聞いてくれるかもしれません」
シスさんは胸をたたいて、
「心を開いてくれれば、あとはマガクとしての私の出番です。彼らを正しき道へ導いてみせます!」
自信を持って笑顔でそう言った。
なるほど、クキョさんに話したようなことを聞かせてあげればいいのね。それなら…。
それから毎日ここへ通いました。初めは私に抱き着いてきた子しか聞いてくれませんでしたが、日を追うごとに一人二人と増えていき、今では全員が話を聞いてくれます。そして徐々にですが、彼らが笑顔を見せるようになったのです。
シスさんは泣いて喜びました。…ただ私は不安を覚えました。クキョさんと同じようにメイドの話を聞きたがるからです。
嫌な予感しかしない、とはこのことでしょうか。
ある日のことです。いつものように孤児院を訪ねると…。
「「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様っ!!!!!!」」」」」」
絶句した。子供たちがみんな(男の子含む)メイドのようにお辞儀をして私を迎えたのだ。
私は機械仕掛けの人形のようにギギギと首を動かし、シスさんを見つめた。
彼女はただただ、感動の涙を流し続けるだけであった。
数年後、彼らは王国初となるメイド喫茶第一号店をオープンし、立派に社会復帰を果たすのだが、それはまた別のお話…。




