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魔理  作者: 新戸kan
にぶ

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116/305

彼女がくれたもの

 別に気配を消したわけでもましてや物音すらも消した覚えはない。

 そもそもアタシにそんな繊細なことは出来ねぇ、というか出来るヤツがいねぇ。

 まぁ真実ほんとうかどうかは知らんが、世の中には魔力を完全に消すことが出来るやつがいると聞いたことはあるが、今はそんなことはいい。


「…よぉ、こっぴどくやられたみたいだな?」

「…お前、来てたのか…、どうやって来た?」


 木の幹に預けていた体が反応を見せ言葉だけが返る。

 アタシの声でやっと気付いたのか、リィダが喉に詰まらせたような声でらしくないことを聞いてくる。


「何言ってんだよ、オマエが昨日言ったんだろうが。頭も打ったか?」


 アタシの冗談を無視してリィダは緩やかに上がった坂上から一望とまではいかないが丘陵を見下ろす。

 その視線の先に二本の太くなった短い尻尾を確認できた。


「コ・ネコ…お前が連れてきたのか?」

「アタシだけじゃ無理だろ、彼女を連れてな。だが、抑えてるのがやっとだろうな。あっちに行くようなことがあればすぐに逃げ出す」

「…起こしたのか。無理を通すな…?」

「おいおい、アタシらは誰の部下だよ?それよりどうする?代理サマはあの調子だ」


 今回の隊長はリィダではなく彼女だと聞いていた。

 それに対する不満で口が滑ってしまった。

 その代理隊長は今はフコの治療に当たっているようだ。


「そう…言うな。私も、彼女のマグのおかげで大分回復した。もうじき歩けるようにはなる。…コ・ネコがいるなら撤退すべきだが……どうして聞いた?」

「聞かなくても分かるってか?付き合いが短いのによく分かるもんだ」

「あの生活のせいだろう?…お前はどうしてそれを着てきた?」

「あ?オマエらこそなんでんなもん着てる?」

「兵士がんなもんと言うのか?誉である白服を」


 戦時中もそれを着て戦った兵士がいると聞いていたから着てきたんだろうが、リィダが誉と言った服はボロボロになっている。


 アタシのと違ってな。


「クキョさんやタイチョーでさえ戦闘時は着ねえぞ?それにこれはアタシらにとっての――――






 普段であればアタシを映す窓も今日ばかりは隔てなく手入れの成果を確認させる。


 この空を一人で見るのは久しぶりだな。

 いつも誰かと一緒に見ていたからな。


 その経験が頭に次々と思い浮かぶがその中にあの人はいなかった。



 アイツラと顔を合わせたのは兵士になってからだが、大人しいヤツが多いせいか会話はあまり弾まなかったな。

 それでも今は静かすぎる……アタシ一人でいるには広すぎるな、この家は。


 今頃この空を見ているのだろうか?

 アイツも……クキョさんは見れないってのに…。

 思い出せば殴りたくなるほどに拳に力が入る。


 そんな時だ、外から奇妙な音が聞こえてきたのは。

 何かを引きずっている音だ。それも人によっては不快に感じるかもしれないもの。


 音はどんどん大きくなる。ということは目的地はこの家か。


 扉の前で音が止まり、別の、手を掛ける音がする。


 条件反射というやつか、アタシの体はいつもの行動をとろうとする。


 扉が開くと同時にアタシは客として迎え入れた。


『お帰りなさいませ、ご主人様!』





『…何の用っスか。ごしゅじんさま?』


 アタシはブスッとして客の対応をする。

 上司に対してそんな態度を取ればどんな目に合うのか、他の部隊なら除隊もあり得るだろうが、ウチは問題児の集まりで有名だ。

 だからこれで問題ない。


 それは目の前の彼女の表情にも表れている。

 いや、慣れていない人からすればこれも怖いのか。


『いやいや、アイツの言ったことを守っているようで何よりだよ。服も着てるし、任せたのは間違いではなかったようだ』


 やっぱりリィダと似てるよな。

 しれっと入れ替わっても他の隊のヤツらは気付かないんじゃないか?


 勿論外見は全然似ていないのだが、雰囲気というヤツだろうか、魔力だって違うのにどことなく似ているというか。

 この人みたいに殺風景ではないけどな。


『それよりタイチョー、何の用です?もしかして、アタシにも行けって命令ですか?』

『私が何て呼ばれているか知っているだろう?…あるものを届けに来た、それだけさ』

『あるもの?……ってタイチョー?』


 彼女は外へと出て行ってしまった。

 付いて来いとも言われていないが、あるものとやらを外に置いているのだろうとは想像に容易い。

 ――ということは、室内に入らないものだろうか、そう考え彼女を追って外に出た。


『こ、これ…もしかして…!』


 見覚えのある……いや、見間違えようがない。

 だってアタシのは模したものだ。

 憧れていた一部、彼女が振るった――――


『そう、アイツの大剣だ。持てなくはないが、適性が無いのを良いことに引きずってきたよ、ハハッ』


 あ、アンタはなんちゅうことを…。

 いや近所迷惑はこの際どうでもいい。アレな目には慣れてる。


『どうして、です?どうして、ここへ?』


 出発前リィダはタイチョーの許可を得たと言っていた。

 リィダは良くも悪くも真面目だ、誤魔化すような人間ではない…はずだ。参加は五人と報告したはず、アタシしかいないことはタイチョーは知っていたはずでは?


『君に渡すためだよ』

『は?』


 思わず変な声が出た。

 いやだって、タイチョーは知っているはずだ。

 アタシがあの魔力を継いだ娘だって――――


『あいつがどうやってマケンになったかは知っているだろう?つまりは、そういうことだ』

『…この剣は、クキョさんが専用に職人に作らせたと言っていました。アタシが使うのはまずいのでは?』

『君が言わなきゃ大丈夫だよ。…渡すものを渡したから帰るよ。明日もあいつの世話があるからね』


 手をひらひらと振って帰ろうとするタイチョーを慌てて呼び止めた。


『…アタシに行けってことじゃないんですか?!これを持って…!』

『……あれ?伝わらなかった?私は基本命令はしないんだよ。あいつにだって割と自由に任せていた。部下の要望を聞き入れるのも良い上司ってね』

『それ押し付けてただけじゃ……さすがひるまとう…』

『そう、それだよ。君は…いやお前は、その剣で何を成す?……あいつならどうすると思う?』


 つい出た暴言を何食わぬ顔……もとい無表情で受け問うてきたが、アタシは何も言えずただ視線を落としていた。

 その先にはセイマコウを一身に浴びて、逆に押し返さんと光を反射するクキョさんの大剣があった。


『コ・ネコは帰ってきている。あとは君に任せるよ。私はヒルマトウだからね。昼に働くんだ。ハハッ』

 

 去って行く背を見つめる。

 母が勝てなかった王国最強、それと渡り合った彼女の背と重なった。

 

 その背が忘れてたとピタッと止まる。


『その服、似合っているよ』






『あひひひひぃぃいいいいいいい?!』

『うっせぇ!少しは黙ってろ!つーか、オマエの仕事の内だろ!』


 同乗者がうるさい。

 それもこれもこのぼこぼこの悪路のせいだ。

 あ、初めて鞍を付けたせいでもあるな……それにしてもこれはひでぇ。


 しかしコイツがいなければ途中で合流したコ・ネコと一緒に引き返していたかもしれんし……ああ、考えるのはアイツの仕事だろうが!


 とにかく何かあったのは間違いないんだ。


『ほほほほ本当に行くんですか?たたたたたたタマがああなってるの、はははは初めて…』

アタシ(兵士)がいるんだ、心配すんな!それから……しっかりつかまってろ!』


 縁にしがみつく彼女はばれないと思っているのだろうか、アタシの恰好を見てこっそりと疑い深そうな目をしていた。

 終わったら、弄る!






 遠くからでも分かる主張の激しい図体。

 気合を入れて来てみたら、なんて様だ。

 見たことのねぇバカみたいにデカいマモノに、倒れている五人……こんなことなら意地張らず最初から来ておくべきだったか。


 何より、アイツが立っているのがムカつく!

 それにあの目……なんでここに、じゃなくてなんでその服って目で見てんじゃねぇ!

 コイツをやったら次はアイツ……今度はアタシが地を舐めさせてやる!



 と、意気込んだはいいが……なんだコイツの風は!?

 腕をただ振り下ろしているだけ、動きはそこらのマモノと変わらねぇただデカいだけだってのに…。

 前へと無理に行こうとすれば背後から振動と風が同時に襲ってくることになる。

 自然と距離を取らされる。


『はぁ、はぁ……』


 それに…重い…くそ重い…持つことも持ち上げることも出来るのに振れない。武器が意思を持つかのようにアタシの魔力を拒絶する。

 これじゃただの枷にしかなってねぇ。


 序にもう一つ、服がひらひらして動きにくいったらありゃしねぇ。

 頭のもズレ落ちそうだし、ぜってぇ戦闘用じゃねぇ!

 けどこれは――――


『もうじき服が届くと思う、オマエらの…オマエらだけの服だ。……今のところはな』


 ぽつりと付け加えるところがクキョさんらしい。


『これは……めいど服は…!アタシらの戦闘服だぁ!』



 そうだとも、これを着て、アイツの前で無様な戦いが出来るか……そう頭にちらつき、視線をそちらに向けた時だった。


(背中……アイツ、アタシの戦いを見てねぇ…!)


 一瞬の気の緩みが魔力の乱れを呼び、汗で滑ったかのように柄が抜けそうになる。

 更なる意識の妨害、剣を離してはいけないと完全に目の前の存在マモノが頭から消える。


(しまっ――――)


 剣を強く握り直し意識を魔物に向けたのと腕が振り下ろされたのはほぼ同時だった。






『痛ぇな、くそ……』


 アタシに流れる魔力のおかげか体は動く。

 一度は拒絶しておきながら結局それに助けられている。

 悔しさが幹に拳を叩きつけさせる。


『……立つんだよ。アタシはまだ戦える。そうだとも。クキョさんのように…』


 再び剣を手に立ち上がり、未だ揺れる現状を確かめようと目で追った。


 それは失敗だった。


 あの時のようにアタシの目は奪われていた。





「マモノは…どうした……?何故、震動が離れない?誰か戦っているのか…?」

「おいおい、今さら聞くのか?やっぱり頭打ってんじゃねえのか?」


 リィダの背中で光るマグの効果か、虚ろだった目が現状を把握しようとせわしなく動き脳に伝える。

 意識を取り戻してからも大地の鳴動は弱まることなく続いていた。

 それは即ち、マモノとの戦闘が継続されているとリィダは判断し問うた。


 だが仲間は一点に視線を固定し答えは返さない。


 重い頭を上げ彼女が見つめる先を追えば、答えがリィダの目を大きく開かせる。


 リィダは思い出した。

 どうして自分が彼女に憧れていたのか。

 親の反対を押し切ってまで入隊した理由を。


 羨望(二人の戦い)を見た時の衝撃を。



 リィダは何とか自立できるようになった体を起こしふらふらと彼女の隣に並ぶ。

 その際も頭部だけは添木をされたように動かない。

 今もその戦いに華を添える照明を観賞するときと同じように。


 そのせいか、彼女の言葉が理解できなかった。


「………ムカつくよな、アイツ。ホント……ムカつく」


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