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魔理  作者: 新戸kan
にぶ

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110/303

たびのおもいでは 〇〇とともに

 時の流れが早く感じる程に目まぐるしく景色が移り変わる。

 著名な芸術家の油絵を見ているような、向こうの紅葉画とは違う、地に足を付けゆっくりと散策すれば幻想的にも思える光景。



 覚えがあるのは一度だけ、往路で感じた世界の広狭、そして美しさ。

 一度は記憶の底に沈んでしまったそれが再び浮上し比較対象となる―――



 がたんごとん、電車の揺れを表現するならこう書かれるのが一般的ではないだろうか。

 人によってはその揺れは心地よく安眠(乗り過ごし)を招き、人によっては心的外傷を引き起こす程の絶望を与えてくれる。


 今の私は後者だった。


「…うぅ……これどうにか…わっぷ?!」


 これはどう表現すればいい?


 数代にも渡り放置されたという鉱山、そこへ至る道は当然廃れる。

 だからといって凸凹と漢字で書くにふさわしい体の浮き沈み、荒れているどころの話ではありません。


 街を出発したばかりの頃はまだ平坦な道が続いて、それはそれは快適なものでした。

 この子には付いてませんねやら、久方ぶりの異郷の景色を楽しむ余裕さえありました。

 私とクマさん、部下さん方の計七人を乗せ、更には採掘した鉱石、その為の鶴嘴やらその他野営のための道具を乗せるための荷台――蓋の無い直方体の木箱に大きな車輪を二つ付けただけという単純な造りのものであったのにも関わらず、です。

 


 今はその簡易さが憎い。

 道中で壊れてしまうのではないかと不安にもなる。

 しかしそれらを吹き飛ばすのが今の気分の悪さ。


「こ、ここまで、ひどい、なん……うぇえ」


 街を出て数刻、快適は地獄の旅へと早変わり。


 でも縦だけの変化ならまだ何とかなった。

 そこへ――――


「ま、また?!」


 体に遠心力が加わり、今の状態では耐えられない私は6畳はあるんじゃないかという荷台の中、右端から左端へ一人強制席替えを行う。

 何代目かは分からないタマちゃんが急な進路変更を行ったのだ。


 暴走列車のようにものすごい勢いで駆け、体躯が同じなら世界記録を余裕で更新する跳躍力…猫の身体能力の高さは知っていた。

 だから初めは不安に思っていた。

 大型車よりも大きな体、更にはこんな荷台で全力疾走されたら下手な遊具よりも恐ろしいのではないかと。

 そこでアプテさんが拘束の為と言った猫用鞍の出番。背中に違和感を与えることで、猫に荷台を引かせていると自覚させるのだ。


 だからといって歩きというわけではなく、人間でいう早歩きみたいなものでしょうか?何か気になるものを見つけたかのようにトットットと軽快に駆けていた。

 

 話は戻しますが進路変更の理由ですね。

 何も無ければ障害物等は飛び越えていくのが普通ですが、それも鞍によって制御されているのです。

 であるからして例え飛び越えられる倒木があろうとも迂回せざるを得ないのです。


 でも急に曲がることは無いんじゃないですか!?

 余裕を持っていれば……猫って目がそんなに良くないんでしたっけ?


 兎も角、近所の畦道を自転車で走る方が楽だと確言できる道に、何故か何本も横たわっている木のための迂回、縦と横の激しい動きで私はもうふらふらです。



 しかし私以外は平気なようで。


「マモノかケモノの仕業でしょう。爪痕が残されていましたからね」


 とリィダさんが倒木の理由を分析し、クマさんは後ろのコ・ネコを眺めている。


 人不足もありコ・ネコには御者のような存在がおらず、完全に彼らに任せている。

 縄張りとして教え込み、そこを往復させるのだという。

 今タマちゃんの後ろを付いてきている子はやや小さく、口周りや手足、腹が白い…二匹は親子なのではないかと推測できる。

 タマちゃんが引退を迎えた時、この子に引き継がせるため今から覚えさせるのだろう。

 廃坑へ向かう道を覚えさせる必要があるのかは疑問だが、今はそれどころではないので。

 


「はぁはぁ…」


 気を紛らわせるため意識を呼吸に集めるも、所詮は素人の浅知恵。

 目も力無く到着まで横になっていた方が良いのではないかと自分でも思うが何故か意地を張る。


 そうです、私が彼女らに頼んだのですから。

 一人楽をするわけには…。


 と思考まで変になっている。

 背を縁に預け体を固定し駄弁る、修学旅行の道中のように彼女らは思い思いに初めての旅を楽しんでいるというのに。

 次々と口に消えていく持ち込んだ木の実が駄菓子のようだ。

 

 そうです、呼吸が駄目なら思考…会話で気を紛らわせるのです。

 リィダさんが言っていましたね、魔物とか獣とか。


「…も、もし、魔物が出たら…?」


 息を通せばモノも通っていきそうで、狭めたつもりの喉から何とか言葉を紡ぐ。

 みなさん空気が読めるのか、揃ってクマさんにどうぞとばかりに手を差し出した。

 音響機器を渡しお前歌えよーみたいな感じでしょうか。

 それなら私の状態異常にも気付いてほしいのですが?


 クマさんは誰かさんみたいにしょうがねえなと咳払い一つで装いながらも今も不安定な足場で立ち上がる。

 そして彼女は魔具を取り出し中指と親指で挟んで向ける。

 ん、と言われても見ただけで判別できるのはクマさんだけのようで皆一様に首を傾げる。

 せめてシジカさんのように形を分かりやすくする等の工夫があれば見分けられるのですが。


「これは、調べる、もの」

「あぁ…フウマの里に向かう時の……」


 荒い息に混じらせ声を出す。

 胸を摩るとおじいさんの顔まで浮かぶ。


(報告に行くべき、ですよね…)



「マモノは、この、くらい」


 役を全うしているクマさんが反対の親指と人差し指でコの字を作る。

 確か魔具が放つ光の輝き?大きさ?で魔力量の目安が分かると言っていた。

 そして比較対象は今も気ままに前を行くタマちゃん。


「コ、ネコは、この、くらいぃぃ」


 誇張しているのではと、クマさんが目一杯両手を広げた時だった。

 またも体が瞬間的に重力から解放される。


「…お、お、おぉ…」

「クマさん?!」


 体勢を維持していたのが足裏だけとなれば今の状況は彼女にとって如何ともしがたいわけで。


「おぉぉぉ…」


 はねの無いオの字で空気の寝床に身を委ね、色彩豊かな葉の隙間から天気まで確認できているのではないだろうか。

 彼女が余裕を持っていたなら、だけど。


「ぉふ」

「大丈夫ですか?!」


 遊園地など無いこの世界では中々味わえない浮遊感。

 目を見る限りでは堪能していたようだ。

 みんな身構えていたが位置的に落下点にいたのは私だけだった。


 そのまま立ち上がればお姫様抱っこ、だけど今の私にはそんな余裕はなく、んだどもクマさんは空は青かったといつもの親指、しばしの間見つめ合う。


「マモノはコ・ネコを恐れて出てきませんよ」


 部下さん達が思わず笑みをこぼしているものの私はそうではない。

 

 ホッとするも膨れる頬。

 気を緩めれば湧き上がる内容物。

 このままでは始まってしまう一方的な言い争い。


 それだけは避けたいのですよぉぉぉおお!




「我慢は、よく、ない」

「すみません…」


 今度は私が空を見る番。

 クマさんと違う点は彼女が視界に入っていることだろうか。

 …またあの(一人だけ)珍道中を思い出しますね、あの時とは状況が違いますが。



「…これ、揺れはどうしてるんです?」


 絶叫を提供してくれる遊具が鳴りを潜めている。


 戦時なら未だしも平和であれば使う機会はあまりないため、乗り物酔いという感覚が分からなかったようです。

 手に握らされているのは魔具だと分かるのですが…。


 クマさんはやや逡巡した後、髪を撫で始めた。


「……覚えてる?皇帝に、初めて、会った、時」

「…………忘れられませんよ」


 ロディ(かれ)は既に囚われていたのでしょう。

 あの時私に力があれば、と過去を見ることもあります。

 でもそれ以上に彼女がくれた言葉がありますから。


 だから私は悲しい顔を見せません。

 …彼女の手が少し、くすぐったいですし、ね。



「…あの時はごめんね、守れなくて」


 クマさんが私の顔を抱いておでこを合わせる。

 そのせいで表情が見えないけど、きゃらが違うから分かってしまいますよ?


「でも次はないから、ワタシが必ず守るから」

「……駄目ですよ、クマさん。みんないるんですから…」


 バッとクマさんが顔を上げると、しどろもどろになりながら会話を再開するリィダさん達。


 そういう意味ではなかったのですが、伝わってはいます…よね?



 額はまた冷たくなり、後頭部に伝わるのは柔らかな感触とぬくもり。


 いただきますと手を合わせたり、この世界の人々がしないことをするとクマさんが真似をすることがあった。


「…クマさん、いつの間に正座が出来るようになったんですか…?」

「妹に、できて、姉に、できない、ことは、ない」


 姉理論といつもの顔、思わず漏れてしまった息に身を任せる。



 がとんごとん、揺れる荷台が心地良くて、私の意識は深淵に沈んでいった。

がたんごとん、この言葉の引用は大丈夫でしょうか。

駄目なら書き直し!

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