こうじまおおし
残念なお知らせ、それは顔を見れば分かるもの。
どう謝罪しようか、面倒、私関無、その他と人によるが表情に出る。
それは瞬間的なものであっても爛々と期待した目でじっと見ていれば分かる。
いやシジカさんの場合は分かりやすい。
「ごめんねぇ、それに使ったのが最後でさぁ、もう無いんだよねぇ!説明しなかったアタイも悪いんだけど、マコウか、それ以外かの二つしか選択肢無いんだよねぇ!で、そのうちの一つが…」
謝罪とは別の顔、所謂笑って誤魔化し作戦を展開しつつ、シジカさんの指の先は今にも重力に負けそうな手の中にある刀。
魔鉱でしか作成できないとなると、他に押してもらう人材がいる?
他の問題に対処してもらうためについてきてもらう予定なのに更に仕事を増やす?
もしかして単なる自己満足に過ぎない?
思考がそのままぶらんぶらんと振り子のように刀を揺らし、目にまでその色が出ている。
ああでもない、こうでもないと解決策を探すも答えは導き出せず、シジカさんが解答しているのにもかかわらず、頁を速読の如く捲っていた。
「冷た?!」
ぽんと両頬に当てられた手、焦点を彼女に合わせると握ったものと白い歯を見せてくれた。
「これをねぇ、防具に入れてね、熱さを抑えるんだよぉ!便利な世の中だよね!これがあるから何日でも籠れちゃうねぇ!」
身に付けている防具には差込口のようなものがあり、板状の魔鉱を差して戻す。
シジカさん考案、熱さから守るちゃん。
命名感覚よりも冷蔵の魔具自体は古くからあるのに今まで使われてなかったのが不思議に思うと同時に陳謝の言葉を口にする。
「いいよ、別に。話続けるけど良いかな?大事なとこだよぉ!最初からいくよぉ!今はさ、マコウしか使わないんだよね。だからそれに使ったのも昔取ったものを保存していた人からもらったのね」
私でも軽々持てる刀を指差すシジカさんは、おそらく思考に耽っている間にしていたであろう話を一からしてくれる。
無駄を省いて纏めると、今は魔鉱しか需要が無いため、それだけが取れる鉱山にしか人を派遣しないのだという。
ここで世界の違いがある。
向こうでは鉱石から金属を溶かし出しその過程で様々な副産物が取れるが、こちらではそうではない。
魔鉱はそれのみで構成されているため抽出の必要が無い、取ってきたものをそのまま武器なり魔具なりと直接加工していくのだ。
要は世間に出回る金属は魔鉱のみってことですね…とため息が出そうになるがあることを思い出す。
「不要になった製品を集めるのはどうですか?」
クキョさん邸には魔鉱製でない包丁があった。
他の家庭にもそういったお宝が眠っているかもしれない。
塵も積もればいけるのではないでしょうか?
「残念だけど、ホントに貴重品なんだよ。持ってる人が珍しいくらいだよ?というかアイツ持ってたのかぁ!そういうのはとりあえずアタイに見せろって言ってたのにぃ」
シジカさんは知らなかったようで再び床掃除に入ろうとしていた。
それを止めながらクキョさんが話さなかった理由を察してしまった。
類友、つまり彼女自身も言っていたが、面倒。
精神的に疲れると体力も損なわれていくのだ。
「どうしたらいいですかね…?」
目に口にも力無く尋ねる。
そんな私を見てシジカさんは勿体ぶった様子で……いや我慢しきれずに体がうずうずしちゃってるじゃないですか…。
椅子代わりの丸太に手を置き限界を迎えた上体をゆらゆら揺する姿はどうしても目に入る。
そして私が目を向けると顔を逸らすが目は残す。
けど体と同じようにじっとせず外す。これがチラ見?
シジカさん、そういうところではないですか?
聞かなれば話は進まない、それもお姉さんに教えてほしいなと子供の機嫌を伺うように。
私は無理やりに笑顔を作った。
「良いお考えをお持ちなのですね?私に教えていただけませんか?」
待ってましたとばかりにニヤァと口角を上げ体の動きも解放し、それこそ子供のように目をキラキラさせて語りだした。
「それがね、あったんだよ昔。両方取れる鉱山。でもマコウだけが取れるならそっちの方が効率良いよね?てな訳で廃坑になった鉱山があるわけ!」
「…そこへ行って取って来いということですね!」
思ってた以上の答えに私も乗っかり再び目に火を灯すも、解に対するシジカさんの顔はそこまで喜ばしいものではない。
何らかの問題があることは間違いない。
しかしそれ以外に方法が無いわけで、代案があれば…記憶の無かった私が墨もどきを作り出したような発想ができれば…。
と暗くなると怒られてしまうので慌てて燃料を追加してシジカさんを見据える。
専門外のことは喋りが遅くなるようで、思い出しながらといった感じで間を取りつつ、その顔の訳を話した。
「マモノは知ってるよね?アイツらが夜活性化するのは知ってるかな?…それがさ、数か月前…戦争が終わったくらいからかな?昼間でも活性化……強くなってるんだよね」
そんな話は聞いてない…。
兵士であるクマさん、レイセさんからも。
「まぁ兵士なら対応はできるからね。定期的に狩りに行ってるって話だし。街の人たちへの被害も舐めて挑んで怪我して逃げ帰った程度のものだから。街の近くまで戻ってこれたら寄ってこないからね、縄張りで危険…」
クキョさんもそう言ってましたね……ん、縄張り?
魔物に縄張り?いや、女王様の魔力がすごいってことだから女王様の…?
今主いませんけど…。
「その鉱山、随分昔のものだからマモノが巣くってるんじゃないかなってね。だから行くなら兵士を何人か連れて行かないと駄目だよ。ただ今お城は忙しいって話も聞いたからね、その辺解消すれば問題ないかな」
採掘する人員も欲しいですからね。
鶴嘴も魔鉱製でしょうから、私振れないですし……私行く意味ありますか?
「…兵士さんについては彼女たちに頼もうと思っています。いい加減会いに行かなければいけませんし」
「調達をどうするかはアンタに任せるよぉ!余分に採って来てくれたらアタイは嬉しいねぇ!それ作り直したいし、他にもいろいろ…」
シジカさんが言ったそれを手にする。
「これ、貰ってもいいですか?」
あの刀はもう無い。
それに魔力が見えなくなった私にはあの頃のように意味は無いのかもしれない。
けれどあの時のように私が持つことで意味はあるのかもしれない。
そんな想いから、口撃を止めてまで要求を出した。
職人としては失敗作を他人に使われるのを嫌がるかもしれないなんて考えもせずに。
だからその沈黙は拒否だと判断した。
「あ、やっぱりいいです。ごめんなさい、変なこと言っちゃって…」
「いいよぉ」
「え?」
二呼吸もあった沈黙は何だったのか、彼女の即答に耳が追いつかず惚けた声が出てしまった。
「創る者としては使う者の意見は聞きたいからねぇ!その代わり何かあったら遠慮なく言ってほしいんだ。あとはそうだねぇ…本物!本物見つかったら、アタイに見せること!それと…」
もしかしてもう一人の彼女と相談してたのかな?
これは彼女が創ったのかな?
僅かに晒した刀身に自分の姿を映し出す。
でもやはりそこには彼女を感じない。
本当に込められていないのか、私が魔力を持たないせいかは分からない。
けれど力は貸してくれると確信した。
「見せるのは良いですけど、ばらしちゃ駄目ですよ?」
「えぇ!そりゃないよ!真の姿を見ないと完全な模倣は出来ないんだよ?それが違いにも繋がるっていうか…」
手を上下に振る、クキョさんと類友な動きで言い訳をするシジカさん。
それが可笑しくて、更には悪い私まで出てきて粗を探してやろうと刀に目を落とした時に初めて気づいた。
「…家紋?入ってましたか…?」
柄の丁度右掌が当たる位置、そして鞘にもあるそれが、有名どころ以外は覚えてないため、見たことのない紋が私の目を掴んで離さない。
それが何を意味するのか分からないシジカさんは私の視線を追い、拗ねた顔を見せる。
「あったよぉ!人によっては個性とか言って自分を追加したがるヤツがいるけど、アタイは忠実に作るよぉ!」
それなら本物でもあった?
でもそれならこんな位置に刻むだろうか?
鞘の方も鍔に近い位置にあった。
吊り上がった眉と細めた目で失礼な奴だなと言われている気がしないでないが、それには構わず、というよりも目を離してくれない。
真円の右上から左下へ斬り下ろしたかのように二本の曲線が南南西辺りで合流するだけの紋。
記憶には無いはずなのにどうしてこんなに心が震える?
「熱ぅ?!」
懐炉を直当て放置したような、熱々おでんを頬に当てられたような、どちらにせよ頬が熱い。
見ればシジカさんの手には同じく板状、けれど角を丸くした魔鉱が握られている。
その加工は冷熱見分ける為、そちらは足を畳めば横になって寝れそうな金床に投げ置いた。
いや職人でしたら道具は丁寧に扱いましょう?
普段は違うのだろう、シジカさんはぷうぷうと膨れた頬から息を漏らしている。
「それ持ってさっさと帰ったら!アタイは忙しいんだよ?明日からの為に寝駄目しないといけないんだよぉ?」
職人の魂である道具に手を掛けるのを見れば今日は撤退せざるを得ない。
しかしながら追っ払う理由から照れを感じるんですが?
これが脛照?
「あっと?!」
何かが壁に当たって甲高い音がした。
避けていなければ違う音と痛みがしたでしょう。
天才様的には私の顔がそうさせるには十分なもののようです。
というわけで明日に向かって戦略的撤退です。
「熱ぅ?!」
私が出ていった直後…工房からも甲高い声が聞こえてくる。
ああ、おそらくですが魔具の効果が発動したままだったんですね…。
火傷で仕事に影響が出ないと良いですけど。
しかし本当に寝床にしてるとは…。
あれがこの世界の職人魂?と考えながら店部分へと戻る。
まだ問題は解決していないのに浮かれていた私はこの後、姉妹から爆笑されることになる。
その後、借りてきた猫のような姉妹はそれこそ視界の隅っこに、シジカさんの母親であるこの店の表の癒し『カンコ』さんから濡れ布を借り、笑いの原因を拭き取る。
黒く汚れてしまった布を申し訳なく思いながらご好意を受けて返し、恥ずかしかったこともあって別れを早々に済ませ帰路に就く。
けれど気分は悪くない。
まずは一歩先へと進んだ。
いずれは頂へ…そうだ、少しずつでも回復へと向かう。必ず私たちが治してみせる。
空を見れば、明日の天気もよさそうだ。
足音にまで心の状態が顕著に現れる。
人目も憚らず舞踏のようにくるくる回ったり、頂戴したばかりの刀を店に置いてきてしまうほどだったり、暗くなる前に城に戻ることを失念していたりと酷い浮かれようだった。
爆発事故が起きているなんて万に一つも考えなかったのです。
まとめ上げは今後もやるかもしれませぬ。




