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魔理  作者: 新戸kan
にぶ

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103/303

どうるいあいもとむ

「知り合いとは言いたくないんだけどね、めんどいからね。でもアイツならそれを創れるかもしれない。あー、でもねぇ…」


 頬の汚れを更に横に伸ばし空いてる右手で紙を摘まみ取る。

 芸術に生を捧げる人は少なく絵を見る機会もほとんどないというこの世界の人々。

 シジカさんもその例に漏れず、絵というのもおこがましい線と円の混合体を渋い顔で見ている。


 車椅子をシジカさんに作ってもらえるようになったのは良いものの、彼女には私の絵が黒い何かにしか見えないらしく、服屋さんに布でとも考えましたが今とても忙しいようですし?


「その方はどこに住んでらっしゃるんです?」


 獣の骨を加工し装飾品やら置物やらを創る骨細工職人、バンさんも言っていた方でしょうね。

 刀を模倣したように見本があればいいようで、その方が模型のようなものを作れるのではないかということです。


「ああ、こっちから行く必要はないよ。なんせ、毎日ウチに来るからねぇ。ホントめんどいったらありゃしないよぉ!アイツときたらね?」


 と、こっちのシジカさんの途切れない話を聞きながら待つことにした。



 そして愚痴の対象が別の人物に変わっていく。


「そういえばさぁ、おとん元気?全然ウチに帰ってこないんだよねぇ!アタイは別にいいんだけどさぁ、そしたらそしたで、めんどなこともあってさぁ!」


 まともに書き留めると広辞苑ほどの厚さがあったとしても溢れてしまうので程々にして、読み返しながら探す。

 おかんおとん、つまり親、つまり父、男。

 それを私に聞くということは城にいる男性、二人しか知りませんね。

 しかし容姿はどちらにも似ていない、髪も母親遺伝なのだろう。

 

 返事無しから伝わってないのが分かったようで、対応に早くも慣れたシジカさんがその名を呼ぶ。


「ああ、バンだよ、バン!料理してるよ!アイツの師だよ!あとは……筋肉すごいよ!髭もすごいよ!それから……顔は怖いけど優しいねって話は聞いたことあるよ!他は、他は…」


 私が知らないとも思っていたようで身体的特徴やら性格やら色々なことを暴露していく。

 今後弟子となるからには聞かない方がいいこともありそうなので未来の師の恥ずかしい話を質問で止めた。


「バンさんはどうして家に帰らないんです?城で寝ているような話は聞きましたが…」


 友達というものがいなかった私は会話能力が低かったのです。

 ですから聞かない方がいいことをつい聞いてしまったりしますね。条件反射のように。

 彼女は家庭の恥部を恥ずかしげもなく晒し始めた。


「おかんと喧嘩したんだよ!ああ見えておかんは怖いからねぇ!男って馬鹿だよねぇ、勝てるわけないのに挑むんだからさぁ!しかもさ、これ初めてじゃ…」

「…………」


 聞かなければよかったと、後悔する。

 いやそれよりも、次々と書き綴られる文字に対抗して慌てて消すかのように雑に白く塗り潰すもの。

 そうしなければならない理由……バンさんのことだけではない、私に古傷にも効く…。

 思い出すためか目を閉じて愚痴はなしに夢中のシジカさんはまだ気づいていないが、空気が悪くなってしまうのは必至。

 文字の一部が残っていようがその上から書き綴る。


「お母さんすごいですね!あのバンさんに…その、恐れ…?あ、いや…えっと……勝つ、なんて?どんな方なんですか?」


 は?と彼女が顔で言っているのは、私がまごまごしながら言葉を選んだからではない。

 ああ、今思えば私の絵を見た時もこんな顔してましたね。

 自信に満ちた私では、曇っていた目では脳内変換が余裕だったようです。


「いや、会ったよねぇ?でないとここには入れないし、声も聞いたし。ああ、そっかぁ。仮の姿に騙されてるんだねぇ!みんなそうなんだよぉ!あの二人しまいも最初見事に騙されていたからねぇ!」


 鈍感という言葉とは私は無縁だと思います。

 見切りの技術にも活かされていますからね。

 しかし感情まで殺せないのは修行不足でしょうか。

 答えが分かれば驚愕が表情となって表れてしまうのですから。


「あ、あの、看板娘の方ですか…?その笑顔は永久氷河まで溶かしてしまいそうなあの方がですか…?」


 信じられないと言葉を何とか紡ぐが、姉妹を小突いた時に見せた一瞬の顔、私でなければ見逃していたであろう、かくいう私も錯覚だと思っていた、怒り形態時のクママさんを思わせるあの顔は…!


「何言ってるか良く分からないんだけど…。知ってる人は少ないんだけどね!知る人はマモノのようだって言ってるよぉ!正面切って言っちゃだめだよぉ?おとんみたいになるよ!」


 魔物は言うほどあそこまでに怖い顔はしてませんよ。

 あ、感覚の問題でしたか。


「あれ?ということは…バンさんとあの方は…ふーふ?」


 頭の中で二人おやこの顔を組み合わせる。

 親子だけあって髪の色は同じ、顔つきも今はまだだけど大人になればそっくりだろうと将来性は感じる。

 だがしかしだ、親二人の顔を並べると、だ。

 美女と野獣、これ以外の言葉が思い浮かばない。とても失礼な話ではありますけれども!

 でもバンさんは見た目とは違い優しいし、あの天使のような?仙女のような?街一番といっても過言ではない美人さんが?鬼になる?

 …以外に上手くいくのかな?


「会うことがあったら言っといてよ!でないと、おかんが城に乗り込めーって言ってたからねぇ!娘としては城で痴態見せちゃったら完全に居場所が無くなっちゃうって心配なんだよねぇ!」


 仕事を終えた道具が収納された丸太をはははと笑いながらぺしぺし叩く娘を見れば、親子って似るとこは似るんだなと改めて思う。

 …私も他者から見ればそうなんでしょうね。

 

 しかし娘から聞く父親の話は何とも言えない気持ちになってしまうので話題を変えようと口を挟む。


「ところで素材の――――」

「たのもー!」

 

 この世界で初めて聞いたその言葉は、向こうでは何度か聞いた覚えのあるもの。

 古くからある剣術道場、ということで腕試しという名の道場破りがどいつもこいつも捻りなく同じ言葉を放ったものです。

 そんな訳で私は咄嗟に刀を左手に右手を柄に添え振り返り構える…癖が出た。


「ちょ!ちょっ何する?!…卑怯だぞ!兵士を呼ぶなんて!そんなに勝ち逃げしたいの!」

「あ…」


 一環の流れを終え我に返ったとでもいうべき私は、武器は所持していない、体が反応して防御姿勢をとった、如何様にも取れる態勢のままシジカさんに抗議する彼女の姿が目に入る。

 喉元にその切っ先を向けられていても、その強気だけは削がれていないようだが体は正直なようだ。


「震えてるよぉ!相変わらず口は強いねぇ!あと何度も言うけどアタイ達何で競うのさ?」

「口撃のシジカに褒められて光栄です!あと震えているわけではありません!ちょっと我慢してるだけ!」

「ウチで済ませてから来なよぉ!」


 二人が何やら口撃を始めたので私はそっと刀を仕舞う。

 面倒事はこうすれば勝手に去る、あにさまにそう教えられた癖が出てしまいました反省。

 ちなみに実際に突き付けるのではなく動きを見せるということです、つまり今のはやり過ぎ。

 元は挨拶と同時に死を告げる技らしく、あにさまの背を見ただけで逃げ出す挑戦者が多かったために見ることは終ぞ叶いませんでした。


 

 私が未熟なせいか面倒事は過熱し、子供の喧嘩へと衰退していく。

 聞いていて頭の痛くなるような会話に口を挟む勇気はなかなか持てねど、待っていたところで終わるとも限らないので、額をぶつけ合っている二人を刀で切り裂くつもりで話に割って入る。


「シジカさん、あの…彼女がそうですか?」


 これが私の精一杯でした…。

 刀を振るうのと言葉を振るうのは訳が違うのです…。


 しかしシジカさんの対応ぶりを見れば、面倒と蔑ろにしていた理由も分かり、彼女自身早々に切り上げたいのだろう、隠そうとしないでこに張り付けるように紙を押し付けた。


「ぶっ!?何をするか!…これは何だ?」

「アンタへの依頼、かな。残念だけどアタイではどうにもできなくてねぇ!」


 彼女はそれを勝利条件と勝手に受け取り、慌てて一時的に視界を奪い手をジタバタさせたそれに目を通す。

 シジカさんとは違い、それがどういった形状のものか分かっている目がキラッと、それに連動して頭頂部で結ばれた京藤の触角が犬の尻尾のように激しく動いている。

 そしてひどい絵の原型をくしゃと紙ごと変形させ、声高らかに宣告する。


「くふふふ、にゅはははは!つまりこれを創れば勝ちということだな!待ってろ、明日にでも持ってきてやる!」


 奇妙な高笑い、そして勝利宣言とばかりに指を突き付け、風を捲り上げ去って行く。

 古風にも感じる土埃と呆然とする私から哀愁まで漂う。

 彼女が用意した演出か何かでしょうか?嵐の跡とはこういうことですね。



「……彼女、どういった人なんですか…?」


 改めてシジカさんに問うほど、彼女という人物が分からなかった。

 話すのもめんどくさいと感じる口撃のシジカの沈黙。

 背中で語っているようにも見えるが、だが一言、今の彼女らしくない呟きをくれる。


「ヨウマインから」


 私にはその一言で十分だった…。


 天才と称されるシジカさんに挑んでいる一方的な好敵手関係。

 私とあにさまのような…?結局一度も勝てませんでしたが。



「さぁてと、次はアンタが言ってた素材の話しようかぁ!明日からすぐに取り掛かれるようにねぇ!」


 なるほど、全く認めてはいないということでは無いみたいですね。

 思わず漏れる息に彼女は不思議そうに見る。

 自分ではわかっていないシジカさんに刀を差し出した。


「これでお願いします」

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