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魔理  作者: 新戸kan
にぶ

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102/303

ぶき

 最近お姉ちゃん成分が足りない……。

 文字を書く、その為だけのマグを先端に取り付けた木の棒尻で頬を突きながら考えるのは最近ご無沙汰の妹のことばかり。

 そのせいで突く度に漏れる息も溜息に変わるしで、書漁りにもべんきょうにも魔が入らない。

 尤も、べんきょうには魔力が必要ない…いえ、使えないのよね。


 あの子のためにもこんなことではいけないのだけれど、一度経験してしまうとあの言葉には抗い違い魔力がある。


 もしかして彼女にも魔力が…?なんて馬鹿なことを考えてしまうほどお姉ちゃん成分が、と深い溜息と同時に扉が開かれる。

 ショトさんと名を呼ばれて振り返るもその呼び方では満足できず、けれど嬉々としてナタカを出迎える。

 でもここで焦って両手を広げてはダメ、彼女が怯えて可愛い顔を歪ませてしまうの。

 だからゆっくりと近付いて肩を抱き寄せ包み込む…即ち包容力。

 そんな訳で挨拶代わりの抱き着き……そうするよりも早く同じ顔をした彼女は相談を持ち掛けてきた。


 先制の一歩を躱されてしまったワタシは表面上は不満げに接するも頼ってくれることは凄く嬉しくて全身ぞくぞくしちゃう。

 口がぴくぴく動いて維持するのが大変。

 そんなお姉ちゃんの気苦労も知らずに妹は更に悩ませるの。


『クキョさんと旅に出ようと思うのですが…』 


 ワタシは断固反対した。

 ワタシではついていけないし、多分おチビちゃんも一緒。

 これ以上差が付くのはどうしても避けたい。

 この前の感じでは相当な差がある、それは魔力と同じくらいの差が。


 妹の気持ちを考えず、嫉妬心のみでそれもこの国の知識たるマショのワタシが、ただ反対した。


 理由を述べず落胆させるには十分な…だけど彼女は次の質問を投げかけてくる。


 ワタシは外に出ることがほとんどないため、窓越しの空ばかり見る。

 だからというわけではないが、彼女の顔はワタシの目には眩しすぎて、隙間まできっちりと埋められてしまった。


 ででででーん。

 ショトの好感度が(勝手に)上がった!





「ふむ、まずはマコウのことが知りたいんだねぇ?それはだね、いつだったか忘れたけど突然この世に出現したかのように発見でき…」


 記録による知識と記憶による知識、それらを合わせて魔鉱が素材として、更には私が使えるのか判断する。


 車輪があっても本体が重ければ意味がない。

 それは魔研の扉で体験済み、それというのもあの扉は以前専門の開閉人がいたらしい。

 そんな立って待って開け閉めするだけな人員的無駄を省くため改良したのが目の前の今も喋り続けているシジカさんだ。


「不思議な鉱石だよね。同じ大きさでも魔力の違いによって重さに個人差があるなんてさ…」


 どうも向こうの理論が通じないんですよね。

 小さければ小さいほど影響は少なく、大きければ大きいほど魔力の影響を受ける。

 1の重さは1だけど、100の重さは200、1000の重さは1万と、例えるならこんな感じでしょうか、大分大雑把ですが。

 魔力の多い人であれば100を50に1000を200にと出来るわけですね。

 話を聞くと益々意味が分からなくなる。

 それなら同じ魔鉱を使う魔具はどういう理論なの、と…まぁ今は関係ないので頁の欄外(頭の隅っこ)にでも書いておきますが。


 私の思考の沈黙を余所に、シジカさんは延々と知識を語るが、それらを全て脳内に放り込むのは無理、必要な部分だけ空いてる頁に書き取っていく。


「だからね、武器以外にも改良の依頼が来るんだよ。例えば水汲み場のマグとかね。ほら、みんなが使うものだから魔力の少ない人だとそれだけ人を待たせちゃうからね。いくらあちこちにあるからって…」

「ああ、そういうことだったんですね。私にもお城にあるのが使えたから…」


 私が口を挟むと彼女の口撃が止んだ。


「おかしいね、それは……」


 一頻りの思考を終えた彼女はそう結論した。

 顔にまで出してじろじろと見てくるシジカさんに何やら圧され、変なことを言ってしまったんだろうかと不安になるも、私が言った以上の言葉の意味はないので視線は残して顔だけ背ける。

 この間に流れる空気と珍しい沈黙はシジカさんの苦手するものか、いや本当に忘れていただけなのか彼女はぽんと可愛らしく手を鳴らす。


「そうだった、思い出した!兵士には必要ないけど、それ以外の人もいるから一か所だけ新しいのに変えたんだった!それに防具は使えたってアイツから聞いてたよ!見た目によらず筋肉…」


 次の話題に移行しそうだったので挿む話題作成に思考を譲る。

 話の流れからアイツとはクキョさん、そして私が使った防具というと、稽古時に使ったものでしょうか?

 あれが魔鉱製であったのなら、ああも部下さんの攻撃を躱せなかったはず。私の動きを全く邪魔しませんでしたからね。


「あれもシジカさんが?」

「あれはねヨウマインの頃に作ったんだよ!実戦用はさ、個人専用で作るしその人の魔力を増幅させるだけの効果が見られればいいけどさ、訓練用はある程度使い回しが必要だろう?でも兵士にだって魔力には個人差がある。加えて耐久性も維持しなければ訓練用防具として意味はないよね。そこで軽量化しつつ如何に耐久面を追求していくかでさ…」


 知らないと信じられない話ですが、防具はあくまで防御に回す魔力増幅を助けるためのもの、刃による物理ではなく魔力による攻撃を防ぐためということですね。

 魔力による防壁を破ってようやく物理が届くと、私はクキョさん相手に体験しているのでなるほどといった感じですが。


 それよりも今何かとんでもないこと言いませんでしたか?

 幼魔院?保育所みたいに生まれて数年の子が通うところですよ?

 天才とはまさにそのことです?


 丸太に生えているようにも見える仕事道具に手を掛けながら彼女は話を続ける。


「いやぁアタイすごいね!訓練用だから魔力を反発させれば良いって割り切っちゃう辺りがさ!でもね、そのための素材探しは苦労したもんだよ?なんせ、金属以外は専門外だからね?それだけはアイツに感謝…」


 このアイツはクキョさんではありませんね…。

 戦闘大好き娘ですし。

 それよりも軽量化には成功してるってことですよね?それなら…。


「けどね、武器はそうもいかないんだよね!中身スカスカにしたんじゃ大きくした意味ないし、そもそも鉱石自体が自分で耐えられないとか何の冗談だよって、ね…」


 本日の仕事はもう終わりと、黒鎚の手入れをしながら彼女が話す内容は私にはさっぱりなので適度に聞き流しつつ頁を捲る。

 そこに描かれている図形は骨のように細い部品で構成されている。

 彼女をそれに乗せる以上耐久性は欲しいし、私が押す以上魔鉱を素材として使うのならば軽量化もしたい。

 武器ではないが、乗り物には適用されるのだろうか?と、彼女の手入れが終わるまで考えていた時間を無駄と知る。

 そうです、目の前にいる方は専門家なのですから聞けばいいのです。

 私は腰辺りの衣嚢から1枚の紙を取り出す。

 そこには私の努力が描かれているのです!


 シジカさんにそれを差し出すと、話を止め両手で受け取り目を落とす。

 と同時に首を傾げ、上下を逆さまにしもう一度首を傾げ、もうこれ以上曲げれないとばかりに今度は逆に曲げてそれに合わせて紙も横に向ける。


「……これは何かな?」


 ふふ、その質問は想定内です。それに理解不能といった反応も。何せ、この世界には無いものですからね。

 両手をパンと腿にぶつけて置き前のめりに、私が発明したわけでもないのに自慢するように答えた。


「車椅子というものです!」


 クキョさんのお世話後空いた時間を使って毎日毎日描いてまいりました。

 適当に描いためいど服や水着と違い、丁寧に丁寧に細部まで描き込みました。

 誰がどう見ても車椅子です!


 しかしシジカさんの反応は私の顔を曇らせる。


「…くるま…いす……。椅子なのかいこれ?」


 いくら車輪が付いているからとはいえ、私の美術の成績が悪かったとはいえ、椅子にすら見えないなんてそんなことは……と彼女の顔を上から覗き込むも皺のある眉間で答えが出ている。


 服屋さんはこれよりもひどい絵であの完成度でしたよ?

 あれ?これもしかしなくても車椅子で旅しよう計画破綻ですか?


 口撃のシジカがその口を止めている。

 先に気付けていれば落ち込み加減は減ったのでしょうか?

 そうですよ、10段階評価で1でしたよ。

 小学生の時なんて慰めの言葉まで書かれていましたよ。

 遺伝なようで玄関に飾ってあったのはそういうことですよ。


 現実という本が借りられてしまったようで風景の一部がどう動こうか視認できず、先が折れた紙から遠慮がちに覗く上目が同情を宿していようが知る由もなく。


「あーうん、アタイもこういうのは疎いからね。どういったものか説明してくれるかな?」


 何故か視界の下の方が滲んできている気がした。




「最近見ないと思ったら……そんなことになってたんだねぇ。らしいと言えばらしいけど。で、治すために…くるま…いすだっけ?乗せて旅に出ると…」


 レイセさんの配慮か、シジカさんは知らなかったようだ。

 シスさんも知らなかったようだし、城にいる人間しか知らない?箝口令でも敷かれているのだろうか。

 もしかしてご両親にも……?いくら何でもそれは…。


 私の視界に線と曲線でごちゃごちゃした絵が入ってくる。

 彼女がそっと私の腿上に戻したようだ。

 つまり私が描いた車椅子、うん自分で言うのもあれだけど一種の芸術ですねこれは。

 彼女が立ち上がった気配を感じ、現実をそちらに逃がした。


「マコウでアンタの武器を創る話だと思ったんだけどね、アタイは。これなら他の人間でもいいだろう?」

「えぇ?!さっきは防具の改良の話とかしてたじゃないですか…?」

「あれはコイツ。アタイは武器しか作らない」


 そう言って自分を指差し醸し出す雰囲気は先程の……やはり二重人格とかですか?

 言葉も少ないですし、その背には大きく見せるような気迫を感じます。

 魔力でそうさせているのなら私には見えない、ならばこれは単純に職人としての…?


「変人と呼ばれているのは知っているだろう?戦いのない世で武器を究めようとすればそう言われても仕方のない話ではあるが。それが皮肉にもアタイが生きているうちに起っちまった」


 振り向いた彼女は寂しそうに笑う。

 もう一人のシジカが見せない顔。

 私がそんな顔をすれば姉達が叱ってくれるでしょう。

 ですからその弱音、私が受け止めます、そう目で訴えたが彼女は顔を逸らす(逃げた)


「コイツが何て呼ばれてるか知っているか?稀代の変人、次代の戦導ってな。武器があればまた争いが起きるってことさ」


 その未来を見てしまって目を細めていたのか、印象が変わるのと同時に彼女から同じものを感じた。

 だから――――


 それは違うはずだ。

 武器が意思を持って自ら戦うのなら兎も角、使うのは人。

 けれどこの世界の普通ではそれは言い訳に過ぎないのか。

 大衆みんなも分かっているはずなのに。


 そうです、今の私なら否定します。


「でも必要だろ?だからコイツは……アタイは創り続ける」


 丈夫そうな革に穴が開きそうなほどに強く拳を握り、壁に並んだ誇り達に目を向ける。

 あの目は平和な世で刀を作り続けている職人さんと同じものだった。

 こちらからは見えませんが分かります。今の目も同じですよね?


「であれば猶更、貴女に作ってもらたいのですが」


 反論するかのように咄嗟に体がぴくっと反応するが彼女は沈黙を答えとし無視をする。


 ならば私も武器を取らせていただきます。


「武器とはその人が何かを成し遂げるための手助けをする道具です。クキョさんは言っていました。知らないを知りたいと。その為の武器なんですよ。違いますか?」


 気合を入れる、弱音を消し去る、そんな乾いた音とは違い、手袋の汚れだけが付いたように見える彼女の頬叩き。

 何を意味しているのか分からない、だから私は話を続ける。

 言葉という武器を手に。


「言っちゃえば何でも武器ですよ。お客さんを呼ぶための大声であったり、洗濯するための腕であったり、料理の味を決める舌であったり、シジカさんのその心構えも。魔剣や魔槍がいる様に武器の形は人それぞれ、です」


 天井は目と鼻の先とでも言うのか、だけど彼女はそれよりももっと高いものを見ていた。


「………センセイ…」


 聞かれるのを拒むような掠れた声は私の耳に届く前に消えていく。

 それは目の前の彼女も同じようで。

 

「……ごめんねぇ!アタイ時々めんどくさいとこあってさぁ!それでも良かったらアタイに任せてくれるかい?」


 振り向く前、入れ替わる前にそうなったのだろう、彼女の顔の汚れは少し滲んでいた。

 

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