ようき
外に出てすぐクキョさんがあっと声を上げた。
「わりぃな。ちょっと用があった。そこで待っててくれるか?それとも先に帰ってるか?」
クマさんと顔を見合わせる。目が合うと、意見が一致した…気がする。
「私たちも一緒に行きますよ。いろいろなとこ見たいですし」
「えっ!あ、いや、オマエは…えっと、そこで待ってろ!」
そう言って、そそくさとどこかへ行ってしまった。
その様子を訝しく見ていたら、
「…ふぅ。しょうがない。―――こっち」
クマさんがお店の外に設置してある椅子に腰かけ、ポンポンと隣を叩いた。
ここに座れってことだよね?でもその前にため息ついてなかった?
とりあえず私も椅子に座り、ふぅと一息つく。
「……クマさんはどうして、ショトさんを嫌ってるの?」
暖かな陽気が私の思考力を蕩けさせていた。ハッとなった時にはすでにおすし。彼女の顔がかなり厳しいものになっていた。
「おばさんに、何か、言われた?」
「あ、その、ね?なんでかなって思っただけでね?ちょっと気になったとか、私もちょっと苦手っていうか、ほら!二人はレイセさんの部下って話だから仲良くした方が…今大変な時期らしいし?いつまた私みたいな面倒ごとが―――って何言ってるんだろうね?」
必死になって場の空気を換えようとしたが無理だった。喋れば喋るほど自分でも何が言いたいのか分からないことがべらべら出てくる。
こういうことはずっと気を付けてきた…の、に?
しばしの間、二人とも黙り込んでしまう。だけどその時間がクマさんを元に戻した。
「…設定、かぶってる。以上」
あ、うん。そうですよね。それが原因でしたね。
とりあえず良かった。口利いてくれて。もう!せっかく仲良くなったのになんでこんなこと…。
「…それが、アナタの、役回り。進行役。さす主」
コノコハナニイッテルノカナ?私は何も聞いてない、聞かなかったよ?
クマさんが遠くを見てる。一体何を見てるんだろう?
「……かぶってるのに、ワタシ……小さい…」
あー、あの人大きいね。……え?今なんて?ちいさい?
この子はこの子なりに気にしてる?…そっか、女の子だもんね。
「クマさん可愛いからそのままでいいと思うな?それにまだまだ、でしょ?」
「…せめて」
そう言いながら私のどこを見てるのかな?あと、自分のどこに手を当ててるのかな?怒らないから言ってほしいな?
励ますつもりが私の方が傷つくんですが…。これも私の役回り?
「…ショトさんも言ってたよ、かわいいって」
「アレは、誰にでも、言う。女なら、誰でも、いい」
多分そうなんでしょうね。今までの感じからそんな気はしてます。むしろ否定したかった。
「き、気になる子には意地悪したくなるって聞いたことあるよ!だからクマさんは特別なんだよ!」
擁護はする。擁護はするがこれが精いっぱい…。
クマさんはふーんと興味なさそうにそっぽを向いてしまった。耳もぱたんと閉じたように見える。
器用だなぁ…。―――ごめんね、ショトさん。私じゃ援護しきれなかったよ…。
「大丈夫、本気では、嫌ってない」
彼女がポツリと呟いた言葉は、風に乗って私の耳に届いた。
「…うん、分かるよ。だってクマさん、生き生きしてた」
「…え?」
短い時間だけどなんとなく分かった。この子は感情を出すのが苦手なんだ。不愛想な顔してることが多いし。
でもクキョさんやショトさん、二人の前では自分をさらけ出してる。本人は気づいてないのかもしれないけど。
私にも同じことが出来るんだろうか?……こうなる前は出来ていたんだろうか?
「大丈夫、いい人、だから……」
膝の上に置かれた手に彼女の手が重なる。その手は温かかった。
「ワタシを……あんな目で、見ない……二人と、同じ、目…だから……」
二人は何をするでもなく、ただボーっと座っていた。だけどその時間が心地良いものだった。
ふと空を見上げると、どこまでも広がる青が飛び込んできた。
今日も空は青い…。けどどこか違和感を感じる。
夜空は空気が澄んでると違って見えるって聞いたことがある。青空もそうなのかな?いつも見ていたものとどこか違って……ん?
クマさんの頭が私の腕に乗っている。彼女からはすやすやと寝息が聞こえてきた。
気持ちのいい天気だからね。まるで縁側で日向ぼっことしてるみたい。よくしてた――――
一方、クキョはというと――――
「預けてたモン、何か分かったか?」
「ああ!久しぶりだねぇ!元気してたぁ?いやぁ、アタイさぁ……」
「オマエも相変わらずだな。話はまた今度聞いてやるから…それより例の―――」
「アンタが拾ってきた武器だねぇ!いやぁ、アタイもあんなの初めて見たよ!どこで拾ってきたんだぃ?バラしていいかぃ?大丈夫、ちょっとだけだから!その後、ちょっと手を加えてみてもいいかぃ?実は試したいことが――――」
クキョは無言で睨みつけていた。それに気づいた彼女は頭を掻きながら、
「たはは!冗談、冗談だよ!アンタも相変わらずだねぇ!嬉しくなっちゃうねぇ!今度一緒にメシに行こう!そうだ、そうしよう!この前いいとこ見つけてねぇ!アンタの口にもきっと合うと思うんだ!それがさぁ――――」
慣れているクキョでも頭を抱えてしまうほど、彼女の口撃は止まらなかった。結局彼女から本題を聞き出せたのはずいぶんと時間が経ってからだった。
「随分時間を食っちまったな…そうだ!」
クキョは走りながら、屋台に並ぶ品の中から目当てのものを探していた。昨日、彼女が美味しいと言っていたものだ。
(おいおい…いつもはどこにでも置いてんだろ…。なんで今日に限って――――むっ!)
クキョの目が鋭く獲物を捕らえた。そして急停止したかと思えば、方向転換、急発進して屋台へと駆け込む。
「それ、三つくれ!」
「あいよ!キモチ三つだね!」
(これで大丈夫か?でもアイツもいたな。まぁ何とかなるだろ)
屋台のおじさんからそれを受け取った後、彼女は落とさないよう気を付けながらも急いで二人の元へと向かった。
『魔力を帯びてない鉱石なんて初めて見たよ!おまけに反応もない!またこの入れモンの装飾が見事だよねぇ!アタイもそっちは全然だけどそれでも感動しちゃう出来栄えだよねぇ!ほら、こういうものって必要ないからさ!なんで作ったのか意味があるのか謎が謎を呼んじゃうねぇ!持ち手も良いよねぇ!無駄がないっていうの?精練っていうの?もうちょっと時間くれたら―――え、だめ?なんでさぁ!こんなもんアタイに見せといてそりゃな――――』
(アイツでも分からない武器があるとはな…。この世は広ぇってことか!全くつまらねぇ前線にいるより楽しくなってきた!)
否が応でも高まる高揚感に、彼女は自然と笑みをたたえていた。そんな彼女が目にしたのは驚きの光景だった。
「おいおい、まじか…」
二人が肩を寄せ合って寝ていたのだ。出会ったばかりの彼女はともかく、クマがその彼女に無防備な姿を晒してるのが信じられなかった。
道行く人々は微笑まし気に見ていた。彼らには二人が仲の良い姉妹のように思えた。
「アタシでさえ、二日かかったのにな…。服んときといい…どうやったんだ…?」
クキョは二人の隣に腰掛ける。そして屋台で仕入れたキモチにかぶりついた。
二人を起こさずに待った結果、三つあったキモチは彼女の胃袋へと消えていった。




