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誰もが、皆

出張に行きたくない現実逃避の心が俺をPCに向かわせる……。



 オクサヌーンはごった返していた。片っ端から人間をアウダー大陸に送り出していながら、まだこれ程、と思う程度には人が居た。


 傷つき、疲れ果てた兵士達は脱出と抵抗の準備を進めている。

 時折、民間の特殊技術者の姿も見える。医師やエンジニア等だ。彼等も一時的に方面軍指揮下に編成され、各々が出来る事に従事している。

 変わり種ではオクサヌーン高級レストランのシェフが炊き出しの陣頭指揮を取っていたりもした。


 3552がオクサヌーンの検問所に辿り着いた時、居並ぶ兵士達は最敬礼で出迎えた。


 「ダイヤモンドフレームに!」

 「fighting for curaf! 補給の準備は出来てるぞ!」


 兵士達はクルークの到着を待ち構えていたようで、即座に水と食料と毛布を持って少年兵達をもみくちゃにする。

 オクサヌーンに居残っていた命知らずの戦場カメラマンがここぞとばかりにフラッシュを焚いた。彼等はこれを思う侭の美談に仕立て上げるだろう。


 「イオ軍曹、無事で何よりだ。まぁ貴方が死ぬとは思っていなかったが」


 沸き立つ兵士達を掻き分け現れたのは完全武装のハーティー・グッドマン。

 褐色のスキンヘッドは周囲に威圧感を振りまきながら拳を差し出して来た。


 イオはハーティーの拳に己のそれを打ち付けながら尋ねた。


 「ハーティー、オクサヌーンの防備は?」

 「先の襲撃から昼夜を問わず復旧が進められたが完全じゃないようだ。

  オクサヌーン防衛機構の稼働率は7割と言った所だな。

  それにしても……凄い有様だな。貴方でなければ今直ぐ緊急治療用のカプセルベッドに放り込んでる所だぞ」


 ハーティーはイオの頭から爪先までを観察して何とも言えない顔をする。


 「お前が手伝ってくれたら楽が出来たんだがな」

 「俺にも任務がある。だが気持ちは……貴方達と共に戦いたかった。

  聞いたぞ、あのお姫様の作戦指揮で少年兵部隊を見事に脱出させたそうだな。

  名誉な作戦だ。シタルスキア万歳、カラフ方面軍万歳、さ」


 返答に困る言葉だ。ハーティーは司令部直下の作戦部隊だが、イオとユアリスの裏取引まで知る筈がない


 「あぁ、……そうか」

 「ユアリス中将が……あー、別に会いたがっては居ないが、防衛プランに関して話があると」

 「テキストで済むだろ。それより逃げ遅れた子供達がいる」

 「乗船計画に関しては知らないが、無碍にはされない筈だ。安心して良いと思う。

  大丈夫さ、最後の船に乗る奴らはほぼ全員貴方の“ファン”だからな。どうとでもしてくれるだろう」

 「お前は乗らないのか?」

 「あぁ、まぁな」


 何の気負いも無く言うハーティーは薄らと笑ってすら居た。境遇を受け入れた、覚悟を決めた人間の顔だ。


 「兵站将校に顔が利く。貴方の為の装備を頼んでおいた。

  選り取り見取りだぞ。オクサヌーンメインポートの集積所を訪ねてくれ」

 「へぇ、選び放題か?」

 「最後まで踏み止まる貴方や俺達の為に、な。

  サルマティアのアサルトアーマーすら供与の申し出があった。

  使いこなすには特殊な訓練が必要だというのに……」

 「出し惜しみは無しって訳か」


 周辺を見遣る。野次馬や幾人もの兵士達がイオに群がりたくて仕方なさそうな顔をしているが、ハーティーの部下らしき者達がそれをシャットアウトしている。


 代わりにクルーク等はもみくちゃだ。イオは思わず笑った。


 「この血みどろの撤退戦もこれが最後になりそうだ。

  兵器がどれほど発展しようが……、やっぱり、最後の最後は俺達歩兵隊なのさ。

  そうだよな、イオ軍曹」

 「そうかもな、ハーティー軍曹」


 遠くから重症者搬送用のパワーキャリアが走ってくる。どうやらイオを治療設備にぶち込むのが目的らしい。


 トカゲの攻撃が始まるまで猶予が無い。当初の見立て通り、最終便を安全に脱出させるには時間が足りないだろう。


 最後の補給になりそうだった。



――



 治療ベッドのお隣さんは太い顎、分厚い胸板の大男だった。

 焦げ茶の角刈りに髭を拵えていて、彼は運び込まれてきたイオを見るなり陽気そうに手を挙げた。


 「よぅ、イオ! ここに運び込まれてきたって事は、どうやらお前も人間だったらしいな」

 「……? その声は」

 「そういや顔を見せるのは初めてか?

  一応俺達の個人データは機密なんだぜ。記念撮影は勘弁しといてくれ」

 「お前、ブーマーか」


 いつもグレネードのエンブレムが施されたアーマーで全身を包んでいたから顔は知らなかった。

 デカい図体だとは思っていたが、アーマーを脱いでもやはりデカい。


 ブーマー、彼は重傷者用ベッドに縛り付けられ投薬処置を受けていながら、奇妙にハイテンションだった。

 濃紺の抗菌服に身を包んだ医師達が周辺を行き交い、ブーマーのバイタルデータをチェックしている。


 「ブーマー、遅延作戦はどうなった?」


 ベッドに寝かせられながらイオは尋ねる。


 「出鱈目の滅茶苦茶さ。ウィードランどもの作戦展開速度がこちらの予想を上回ってやがる。

  奴等、相当入念な準備をしてきたらしい。おかげでこのザマだ」

 「失敗したのか?」

 「目的は達成した。だが、代償が大きかったって事だ」


 ブーマーは身を起こそうとするが医師の一人によって強引に寝かし付けられる。


 「起きるんじゃない。これ以上俺達の手間を増やさないでくれ」

 「ぬ、あぁぁっ! ……い、一応俺は重症なんだぞ」


 どこかの傷口に響いたようで山羊の鳴き声のような情けない悲鳴を上げた。


 「……奴らの地下道一つと集積所二つ、奪取された拠点を三つ吹き飛ばしてやった。奴等、火だるまになって踊り狂いながら死んでいったぜ」

 「本当なら大した戦果だ」

 「ウソなんか吐くかよ。

  言っとくが俺は潜入と工作に関しちゃリーパーよりも成績が良いんだぜ」

 「シンクレアの選抜訓練所のお勉強が役に立ったか」

 「実の所、あんまりだな。あそこの訓練で役に立ったのは野生動物の捌き方くらいだ」

 「お前達のファンが聞いたらがっかりするだろうよ」


 二人揃って治療を受けながら懲りずに話を続ける。

 イオの治療を担当する者達は何かしらの機材を当てては首を傾げた。何が何だか分からないと言った様子で、困惑を隠せずにいる。


 「……ミスタ・イオ。貴方の体は……既に治癒が完了しつつある。

  どうなっているんだ? ナノマシンが大きく影響しているのは分かるが、この回復速度は明らかに異常だ。

  カロリーの消耗と蛋白質の推移をモニタしたが、えぇと、全く、その、なんだ」

 「もう戦えるって事で良いな?」

 「いや、いや、そうなのだが、そういう問題では……。

  これが休戦期以前の強化兵だと言う事なのか……。貴方の体の謎を解明出来れば、人類は」

 「止せよ。今は他にすべき事がある筈だ」

 「しかし余りにも惜しい」


 その初老の医師は興奮しきりで肩を震わせている。

 顰め面でブーマーを見遣れば彼は医師に向かって中指を立てた。


 「そいつであれこれ実験しようってんなら考え直した方が良いぜ。

  オクサヌーンに居る全ての兵士がアンタの敵になる。

  手始めに俺がケツの穴を二つに増やしてやるよ」

 「……わ、分かった。医師として、義務を果たすとしよう」


 言い方は陽気だが恐ろしい目つきだった。

 イオは鼻を鳴らし、ベッドから身を起こす。


 「イオ」


 ブーマーが天井を見つめながら呼び止めた。


 「伝えるべきかどうか少し迷ったんだがな」

 「なんだ」

 「リーパーに会ってやって欲しい。忙しい所、悪いが」

 「奴に何か問題が?」

 「シャワーバグに吹き飛ばされた。

  ……俺達はいつだって覚悟してる。仲間や自分が傷つくのも、或いは死ぬのも。

  だが、今のアイツは少し辛そうだ……」



――


 処置済み重傷者用区画。

 ベッドに縛り付けられたサーベルタイガーがもがいていた。

 彼女は高熱にうなされ、酷く汗を掻き、身を捩りながら、時折何か呟いている。

 投薬処置の為に彼女に繋がれた幾つものチューブが痛々しい。


 「…………リーパー」


 呼び掛けながらベッドの傍に立つ。

 イオは動揺した。何故かは分からなかった。殺しても死にそうに無いような女が、目も当てられない重傷を負って昏睡状態にあるからだろうか。


 リーパーには、右腕が無かった。


 「畜生、まだ、まだ……」


 苦痛に喘ぐ彼女の額を、近くに置いてあった清潔な布で拭く。発汗が多い。


 「こいつの容体は?」

 「重症ですが、死にはしません」


 ここまで案内してくれた医師が答える。

 彼は役割を果たすと職務の為に足早に立ち去った。


 「リーパー」


 次は頬を拭く。傷を負って尚美しい女だった。

 イオの手を、リーパーの左手が掴んだ。重傷者とは思えない異常な握力だ。彼女は薄らと目を開く。


 「イ……オ……」

 「目を覚ましたのか? 無理するな。楽にしてろ」

 「あ、アタシは……」


 手を解かせ、彼女の姿勢を整えてやる。

 肘から先が失われた右腕。酷く痛むのか、また喘ぐ。


 鎮痛剤の投与は行われている筈だがこの苦しみ様だ。失神していた方が楽だろう。

 目覚めずに、ずっと寝ていればいいのに。彼女の心は張り詰めたままだ。


 「死にたくない……」


 意外な言葉だった。


 「……感染者に噛まれても平然としてた癖に、弱気になるな。

  お前は死なないらしいぞ」

 「まだ、死ねない。アタシは……まだ……まだ……」

 「リーパー、大丈夫だ」


 火傷、銃創、何かの破片による切り傷。

 医師達は命に係わる重症だけを重点的に治療し、後は放置した。仕方のない事だった。

 他に治療を必要とする者がまだまだ幾らでも居る。


 「あ、ぐぅっ」


 リーパーが仰け反る。堪えがたい苦痛の悲鳴にどきりとさせられる。


 「このまま死んだら、誰も、アタシ達が……。

  そんなの……だってそうだろ……。

  無かった事にされる……。誰からも、忘れ去られる、だけ、なんて……」


 リーパーは目を閉じた。彼女の左手が何かを探すように彷徨う。

 思わずイオはその手を取っていた。強い力で握り返される。

 死にぞこないとはとても思えない。


 「イオ、死にたくない。忘れられたくない。

  もう、みんな、だれも、だれもいないんだ。

  アタシが……仇を討たなきゃ……苦しいよ」


 イオの体の奥底が熱くなる。感情の急激なうねり。爆発しそうなそれ。酷く切ない。

 どれ程強がって見せても、それがリーパーの本心なのか。


 忘れ去られるだけ。彼女がかつて言った言葉。

 故郷を化け物の街に変えられた彼女は、どんな気持ちでそれを言ったのか。

 諦念か、それとも。


 「アタシが死んだら……アンタに……もうアンタにしか、頼めない」

 「死なないと言ってるだろう。右腕も何とかなる。戦闘用義手を付けて、鋼鉄のパンチでウィードランの頭蓋骨を叩き割ってやればいい」


 そのジョークが聞こえているのかいないのか。

 リーパーは全身を弛緩させて目を閉じた。


 「サラ……。サラ……ヘイムズ……ユオーロス」

 「……サラ? お前の名か?」

 「覚えていてくれ……。私が死んでも……忘れないでくれ……」

 「忘れないさ」


 サラはそのまま意識を失った。イオは腹の底に何かの熱を滾らせて、その場を去った。



――



 「奴はどうだった?」


 ブーマーは何やらごてごてとしたギブスで半ば拘束されたような状態にされていた。

 医師達としてはついでに喧しい口も塞いでしまいたいようだが、さすがにそれは勘弁して貰っているらしい。


 「……弱っていたが、アレだけ話せるなら問題ないだろう」

 「どうかな。至近距離で爆発と殺傷破片を幾つも食らってる。元気に見えて急にくたばるなんて、良くある事だぜ」

 「何でもない事のように言うんだな。仲間の死を」

 「平気な訳じゃない。……だが、俺達はシンクレアだ」

 「そうだな」


 ブーマーは黙った。薄らと、満足げに笑っていた。


 こういう笑い方をする奴もいるんだな、と思った。

 虚勢で笑う奴。諦念で笑う奴。頭がおかしくなってずっと笑っている奴。

 追い詰められたカラフ方面軍には色んな笑い方をする奴がいるが、ブーマー程堂々としている奴は他に居ないかもしれない。


 「リーパーが死んだら仲間達と一緒にアイツの分までトカゲどもを殺してやるさ。

  イオ、その時はお前も乗るだろ?」

 「ドクターは死なないと……まぁ良い。確かに、そうだな。……それにもしそうなった時は仕事が増える。

  彼女の遺言を果たさなきゃいけない」

 「遺言? ……厄介な内容か?

  止めとけ、他人の事情を背負い込むなんてよ。リーパーだってガキじゃないんだぜ」

 「お前、思ってたより良い奴だな、ブーマー」


 くく、と笑うイオ。ブーマーは何だか居心地悪そうな顔になる。


 「リーパーが名前を教えてくれた」

 「……そうか。一応言っとくが、漏らすなよ。

  以前、シンクレアの隊員が7人殺された。トカゲどもじゃない。休暇中に、人間の手で。

  何考えてるのか分からねぇが、俺達に死んで欲しい奴等も居るらしい」

 「あぁ、約束する」


 ブーマーはジッとイオを見ている。

 そして身体から力を抜くと目を閉じた。さすがに話し疲れたか。ブーマーも一応重傷者だ。


 「まだ教えてなかったな」

 「何の話だ」

 「ガエリストン・オズリー、28歳。

  体脂肪率は9.6%で、ダイエットは不要だ」


 ブーマーが目を閉じたまま握手を求めて来る。


 コルウェでの事、まだ覚えていたのか。イオは苦笑と共に彼の手を握った。


 「何を食ったらそんなにデカくなるんだ?」

 「知りたいか? 後悔するぞ?

  ……ウィードランどもの肉だよ」


 マジか? 思わず顔を顰めるイオ。

 ブーマーは声を上げて笑っていた。



――



 「こっちだ、イオ軍曹」


 ハーティーに連れられてオクサヌーンのメインポートを歩く。

 打ち付ける波。潮と有害なスモッグが混じり合った臭い。そこに集う者達の人いきれ。


 大急ぎで乗船が進められている。兵士達の長蛇の列の横を行けば、疲れ果てたずたぼろの彼等は皆、イオに向かって敬礼を捧げた。


 「この道は正解だったな。見ろ、誰も貴方への感謝を忘れないだろう」

 「……そうかもな」



 ――仲間達の為に



 頭の奥で声が響く。


 ハーティーが訝し気に言った。


 「民間人? まだ残っていたのか?」


 その視線の先には子供を抱いた女が居た。

 服は汚れ、擦り切れ、僅かな手荷物すら無い。たった今逃げ出して来たとでも言うような格好だ。


 滑り込みで最後の便に間に合った手合いか。彼女はイオが傍を通る瞬間、必死な顔で声を上げる。


 「ミスタ・イオ! ありがとうございます! 父を救ってくれて!」


 会釈だけして通り過ぎる。誰の事を言っているのかは知らない。

 だが、救われたと言うならそれで良い。ここまでズタボロになった甲斐がある。



 ――市民達の為に



 あぁ、そうだな。


 「あのレディにとってはハッピーエンドか。……もう直ぐ集積所だ」

 「具体的には?」

 「二分掛からない」


 速足でハーティーは進む。背筋の伸びた堂々とした姿。何とも頼もしい。


 出港準備を終えた船の上から呼び掛けて来る者が居る。

 少佐の階級章を付けた士官だ。


 「ハーティー、どうしてそこにいる!

  アルラ・レディはもう出航するんだぞ!」

 「ミクス、俺は残る事にした!」

 「馬鹿を言うな! 冗談では済まない! カリーナになんて説明するつもりだ?!」

 「ジョークに見えるか?! 俺は本気だ! アイツの事はお前に任せる!

  ……俺も、一つくらい名誉勲章が欲しくなってな!」

 「……クソ、馬鹿め! 生きて戻ったら俺がお前を殺してやる!」


 輸送船、アルラ・レディが動き出す。沖合に待機していた次の船が司令部の計画に従ってメインポートの一角に滑り込む。


 船員達は必死の形相だった。彼等が遅れれば、誰かが死ぬのだ。



 ――踏み止まる者達の為に



 「……じゃぁな、兄弟」

 「良かったのか?」

 「気にしないでくれ。後悔はしていない。

  ……全ての者が問題や事情を抱えてる。誰もが、皆」


 イオはハーティーの背を見詰めた。彼は自分の行動に関して、あれこれ言葉で飾ろうとはしなかった。



 ――戦い続ける者達の為に



 案内された場所は集積所と言うにはこじんまりとしていた。

 しかし集められた兵器の種類は多い。各種装備が所狭しと並べられている。


 「好きに選んでくれ。遠慮はいらない。

  全て、貴方の為に提供された物だ」


 戦闘用アーマー搬送用のスケルトンコンテナまで準備されている。

 内部に固定されているのはサルマティア重装騎兵隊で運用されていた最新鋭のアサルトアーマーだ。


 バイザーには薄らと光が灯り、アイドリング状態にあるのが分かる。


 「使いこなせれば便利だろうが、それ用の訓練を受けてない」

 「ま、ぶっつけ本番は止めといた方が良いだろうな」


 イオは一丁のレイヴンを手に取った。


 「ごちゃごちゃと戦う理由が増えすぎたな」

 「ん?」

 「フリーザーから叩き起こされてここまで、退屈しなかった。後戻り出来ない所まで来ちまった」

 「……そうだろうな。戦いには理由が要る。

  命令と言うだけでこんな仕事はやってられない。

  特に貴方のように戦い続けるには義務感だけでは無理だと俺も思う」



 ――少尉や、子供達の為に

 ――サラや、ガエリストンの為に

 ――約束と、復讐の為に



 軽く頭痛がしている。頭の奥で響く声にうんざりしながらも、それに同意している自分がいる。

 ゲームだとか、遊びじゃないだとか、そんな事はどうでも良かった。

 おかしいのは分かってるのに、今の状況に対する違和感が無い。忌諱感も。

 自分は何か精神操作を受けている。でも離れ難い。


 「俺はロマンチストだ。ひょっとしたら酔っぱらってるだけかも知れない」

 「自己陶酔だと? それだけで戦い続けられる物か?

  ……それに例えそうだったとしても、貴方のして来た事は消えない」


 このゴブレットのいう所の第44観測世界に感じるノスタルジーに似た切なさ。

 そこに住まう人々への奇妙な仲間意識。義務感。

 このクソ鬱陶しいアバターが持っていただろうそれらの感情に押し流されている事に、理性は苛立っている筈なのに。


 でも、俺は彼。彼は俺。すんなりと腑に落ちてしまっている。


 「踏み止まるぞ、ハーティー」

 「準備は出来ているぞ、イオ」


 ラストダンスだ。楽しもうぜ、イオ・200。


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― 新着の感想 ―
[一言] 気高い、という言葉がとにかく浮かんでくるシーンの連続でした。 出張に次ぐ出張のようでお疲れ様です。 でも、不思議とそういうテンションの方が筆が進んだりするのが面白くもあったりしますね。 ユ…
[良い点] かぁっこいいーー
[良い点] PCはいい…… 出張に行って、ささくれた俺の心を癒してくれる。
感想一覧
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