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フレッチャーTV突撃リポーター



 シンクレア・アサルトチームの目的は、3552小隊の脱出ルート途中にある通信基地だった。

 戦況悪化以前、敵浸透部隊によって攻撃を受けたその通信基地は機能を喪失した。無くても致命的ではないが、あった方が良い。


 シンクレアの任務はウィードランの“サプライズ”の発見の他に、その基地の機能を復旧し、限りあるリソースを獲得する事だった。


 「で、その通信基地まで後どのくらいなんで?」


 カーライル伍長が周辺のマップデータを空間に投影しながら尋ねる。なんともSFチックだ。


 「ポイントをマークする。……ここだ」

 「……あと三キロも無い」

 「かつての後方は今や前線となった。復旧してもすぐさま破壊されるだろうが、短い時間の中で出来る事は多い。

  ……それと、基地機能を復旧した後ならば残された物資は好きに使って良いと言われている」


 例えば車両とか。


 チャージャーの言葉にクルークは眉を開いた。

 今にも壊れそうなオンボロトラックよりも、機銃と速射砲のついた装甲車両の方が良いに決まっている。



――



 その基地は遠目にも砂埃に塗れているように見えた。

 荒野のど真ん中、鉄条網が付いただけの頼りないフェンスに囲まれた基地。

 大きなパラボラアンテナが見える。


 「戦闘の痕跡があるぞ」


 基地の敷地内に乗り入れると、銃撃戦の跡がそこかしこに見受けられた。

 友軍兵士の死体と、ウィードランの兵器の残骸。


 「……基地には誰も居ないと言う話では?」

 「予定外の事は起こる物だ」

 「然様で。……イオ軍曹、敵影は?」


 肩を竦めるクルークに、コンテナの上のイオは返事を保留した。


 「…………」

 「軍曹? どうかしたか?」


 パッシブスキル、『飢えたジャッカル』は非常に有用だ。最初に取得しておいて正解だった。

 イオは微かな銃声を確かに聞いた。位置から察するに、この通信基地の……多分地下だ。


 「銃声だ。誰かが戦っている」

 「何も聞こえなかったぞ」

 「俺には聞こえる」

 「何処からだ?」


 シンクレアのチームリーダー、チャージャーはイオの言葉を訝しみつつも疑う事はしなかった。

 イオは道中で誰よりも注意深くあり、誰よりも素早く敵を発見した。


 「音の感じからして、地下」

 「向かうぞ、アサルトチーム。

  スペンサーはカーライル伍長達とトラックを守れ。代わりに……少尉、イオ軍曹を借りたい」

 「何ですって?」

 「銃声を聞いたのは彼だけだ。発信源まで案内してもらう」


 ごちゃごちゃ言ってる時間が惜しい。

 チャージャーはクルークを強く説得した。


 「……イオ軍曹、大尉達を案内しろ」

 「了解だ」

 「無理はするな」

 「状況による」


 イオはクルークと拳を打ち付け合い、3552と一旦分かれた。



――



 『戦闘支援を続行します。エージェント・イオ、存分に戦ってください』


 イオにしか見えない青い女神様は空中を一頻り舞うと、イオの視界の隅に納まった。

 薬室内の弾丸を確認し、レイヴンのセーフティを外す。いつでもやれる。


 「この建物か? 地下に動力室があり、隣接するパラボラにエネルギーを供給している」

 「今は止まってるけどな」


 シンクレア・アサルトチームはヘルメットのバイザーを展開して戦闘に備えた。

 背の低い建物の入り口の左右に張り付き、突入の準備を整える。


 彼らはよく訓練されている。スペシャルフォースと言うのも頷ける動きだ。


 「行け」


 チャージャーの静かな命令と共に扉が蹴破られた。

 二名の隊員がそれぞれ斜めに、×のラインを描くように突入し、左右を分担して室内の安全確認を行う。


 この安全確保が完了した後も彼等は警戒を解かず、チャージャーの新たな指示を待った。


 「軍曹、ここで良いんだな?」

 「……ほら、また聞こえたぞ」


 まだシンクレアチームには聞こえないらしい。イオは様々な書類や電子機器が散乱する室内を進み、次の扉へと向かった。


 「こっちだ、シンクレア。付いて来い」


 シンクレアチームの隊員たちは顔を見合わせた。自分達を差し置いて先陣を切ろうとするタフガイがいるとは。


 更に部屋を進み地下への階段が近くなった時、漸くシンクレアチームにもイオの言っている銃声を聞きとる事が出来た。

 大分くぐもった音だ。幾つかのドアを越えて聞こえてくるらしいそれは、とてもじゃないが地上で察知できる音量ではない。


 「凄いな、これを聞き付けたってのか」

 「後にしろ、突入するぞ」


 シンクレアの隊員の一人がイオの地獄耳に驚嘆の声を上げる。

 チャージャーは構わず突入を指示した。戦闘が行われているのは間違いないのだ。


 『敵を確認』

 「GO! GO! GO!」


 通信基地地下施設にはウィードランの部隊が確認出来た。


 奇襲を仕掛けた形になる。シンクレアチームは遭遇した敵五名を瞬く間に射殺し、安全を確保する。


 「敵の臭いは消えていない」

 「先手を打てるか?」

 「気付かれる前に殺す。急げ」

 「……大尉、あの若造大したタマだな」


 イオはチームを放って更に前進した。


 薄暗く、狭い通路を進む。足音を殺し、呼吸の音すら立てぬように。

 ブルー・ゴブレットが可憐な声でイオに伝える。


 『敵、来ます。気付かれていません』


 異常に勘付いたかウィードラン歩兵が通路に出て来た。

 青い肌のトカゲ人間はイオの姿を見付けると狼狽し、大慌てで銃を構える。


 が、トリガーが引かれる事は無かった。イオはそのウィードランの眉間を撃ち抜いていた。


 「コンタクト! 左右の部屋を警戒しろ!」

 『敵と思しき熱源、前方に集中』


 シチュエーションは有利とは言えない。一直線上に伸びた通路の左右に幾つもの部屋がある。

 一つずつ確認している手間は惜しまれる。何せ今も友軍が戦い続けているのだ。


 「俺とイオで前を見る。ブーマーとウェンディゴは後ろを警戒しろ」


 此処に至り、チャージャーはイオをより有効活用する方針に切り替えたようだった。

 互いの死角を補いながら足早に前進する。


 「急げシンクレア。銃声が近い」


 通路の奥、動力室と思しき部屋を確認。


 女の悲鳴……と言うか怒声。勇ましい声が聞こえる。


 「ファァァァァーック! このクソトカゲども! さぁ掛かって来なさいよ!

  弾はまだまだ幾らでもあるわよ!」


 ショットガンか? ポンプアクション時の独特の音。更にはグレネードの炸裂音。

 地下で行うには余りにも危険な戦闘が繰り広げられているらしい。


 イオとチャージャーは顔を見合わせた。


 「随分と勇ましい奴が居たもんだな」

 「……好都合だ。敵を背後から強襲する」


 チャージャーはタイミングを計りながらイオや隊員達に注意を促した。


 「こんな場所でグレネードまで使ってるんだ。交戦中の女は鼓膜をやられているかも知れん。

  呼び掛けは行うが期待するな。敵識別を厳にしろ」


 隊員たちは小さく頷き合う。そしてチャージャーは命令を下した。


 「ムーブ」


 チャージャーを先頭に、チームは最後の部屋へと突入する。


 背中を向けているウィードラン部隊を射殺。撃ち漏らしが居たが、それは今正に交戦していた女のショットガンで頭を吹き飛ばされる。


 「武器を捨てて伏せろ! 従わなければ殺す!」


 ウィードラン相手に言葉って通じるのか?

 イオは思いつつも、こちらに向かって発砲しようとするトカゲ人間を更に射殺。


 『敵の全滅を確認』


 ブルー・ゴブレットの宣言。イオが見る限りでも動く物体は居なくなった。後に残るのは血痕と、肉片と、ガンスモーク。

 チャージャーは銃を構えながら更に前進し、女へと呼び掛ける。


 「敵は制圧した! 銃を降ろせ!」

 「何、アンタら!」

 「耳は聞こえているか?! 銃を! 降ろせ! 手を頭の上に置いて伏せろ!」

 「アンタらは一体なんなの! ガードを降ろして顔を見せなさい!」


 チャージャーの予想通り女は一時的に鼓膜をやられているようだ。

 それにコンバット・ハイって奴だ。戦いの興奮から気が立っている。錯乱していると言っても良い。


 イオが銃口を下げて前に出た。生身の人間の顔を見て、その女は漸く敵ではないと確信できたようだった。


 チャージャーが今度は身振り手振りも加えて再度伝える。


 「……どうやら……人間……ね」

 「銃を、降ろせ。……オーケー?」



――



 「どうも皆様、こんにちは。フレッチャーTVのナタリー・ヴィッカーです」



 マイク片手に凛とした表情で言う赤毛の女。

 フレッチャーTVと言う報道局のリポーターらしい。褐色の肌を持ち、テレビ映えする見事なスタイルのボディをアウトドアジャケットに包んでいる。


 しかしこんな外見でありながら無数のウィードラン相手にたった一人で籠城戦を展開していた女傑でもあった。


 「フレッチャーTV取材班は、カラフ方面軍第260連隊に……」


 今は、どこかに隠れていたらしいナタリーの相棒、ドレース・ウォンと言う太っちょのカメラマンに記録端末を構えさせ、通信基地の現状を撮影している。


 「タフな女だな、アレだけの銃撃戦の後でもう撮影か」


 ナタリーとドレースの二人はシンクレアチームとは別口でこの通信基地に派遣されたリカバリー要員達に付いて来たそうだ。早い話が従軍リポーターである。

 ところが予想外の奇襲を受け戦闘を想定していなかったリカバリーチームは散り散りばらばら。ナタリーとドレースはこの基地に取り残される事になった。


 良くもまぁ生き延びた物である。流石のチャージャーも呆れた様子だった。


 「私達はウィードランの奇襲攻撃を受け、絶体絶命の窮地に立たされました。

  しかしそこに……」

 「止せ。データカードを没収するぞ」

 「あ、良いじゃないですか、少しくらい大目に見て下さいよ」


 顔を撮影されそうになったチャージャーが慌ててヘッドギアのガードを展開する。

 特殊部隊員は顔は勿論その個人情報の全てが機密だ。撮らせる訳には行かない。


 「じゃぁ、ほら、そっちの君! こっち向いて?」


 仕方なくナタリーはイオに狙いを定めたようだった。


 「君は顔を隠さなくていいの?」

 「俺はシンクレアじゃない」

 「じゃぁ所属を教えて」

 「……3552小隊。……臨時だが」


 ナタリーは自前の情報端末を弄り始めた。「カラフ方面軍……3552……」


 「嘘でしょう、少年兵なの?」

 「嘘じゃない。3552小隊長、クルーク・マッギャバン少尉の要請で協力してる」

 「でもなんでこんな所に少年兵部隊が。ここら辺はとっくに激戦区よ」

 「そんな事は分かってる。……彼等は置き去りにされたのさ」


 皮肉気なイオの口調にナタリーも暗い表情になった。


 「……そのクルーク少尉を取材しても良いかしら?」

 「本人に聞け。……丁度良い、彼女だ」


 見れば、我が隊自慢の可憐なお姫様が踵を鳴らしながら歩いてくる所だった。


 「軍曹、無事か」

 「少尉、お客さんだ」

 「…………報道関係の方のようだが、何故こんな所に?」


 イオは経緯を話す。


 「それはまた……苦労されましたね」


 興味無さそうな社交辞令。しかしナタリーはクルークに興味津々だ。


 「苦労しているのは私より、少尉達のように思います。

  3552は少年兵部隊の筈。イオ軍曹は「置き去りにされた」と言っていましたが、詳しい話をお聞きしても良いでしょうか?」

 「ハッ」


 クルークはこれ見よがしに肩を竦め、鼻で笑った。


 「幾らでもお話ししましょう。私達がどのような目に遭ったかを」


 チャージャーが頭を振りながら言う。


 「少尉、発言にはくれぐれも注意しろ」

 「申し訳ありません大尉、私は正直者ですので」


 チャージャーは鼻を鳴らすがそれ以上何か言う事は無かった。



――



 その後、シンクレアチームが通信基地の機能を復旧させている間、カーライル伍長ら戦闘工兵達が車両を見繕っていた。


 「装甲車が使えます。こいつをトラックの護衛に回しましょう」

 「もっと大きな輸送車両があれば文句は無いのですが、見捨てられた通信基地には高望みです」


 ヘックスとノイマンは手早く車両の準備を整えていく。

 カーライルが燃料などを確認しながら呟く。


 「ヘリの一機もありゃ助かるんですがね」

 「伍長、あってもシンクレアに分捕られてお終いですよ」

 「へっ、そうかもな」


 工兵達はチャージャーに対し良い感情を抱いていないようだ。少年兵に銃を向けた事が相当頭に来たらしい。


 「イオ軍曹、間違ってると思いませんか、こんな事」


 何がだ。イオが黙っているとカーライルは続けた。


 「俺の一番上のガキがね、娘なんですが、今アイツらくらいの年頃です。

  娘は本土に居るからまだ安心だ。……でも」


 少年兵達の事か。


 「そうです。他人事じゃないんだ。こんな……ガキどもを置き去りにするような事を許せば、次は俺の娘達がそうなるかも知れない。

  俺達は大人だ。義務があるんだ。シンクレアチームは頭に来ますがまだ納得出来ます。連中は結果的にガキどもを守ってくれている」


 これはちょっとした選択肢だな、とイオは思った。アドベンチャーパートか何かなんだろうか。


 カーライル伍長の好感度を上げておくのも良いだろう。それに言っている事には共感できる。


 「同意見だ、伍長。クルーク少尉や少年兵達を生かして帰すのが俺達の仕事だ」


 ブルー・ゴブレットからもそう指示された事だし。


 「(そうだろ?)」


 イオが胸中で呟くと視界の隅で青い女神様がにこりと笑った。無機質な笑みだったが。


 これでカーライル伍長とブルー・ゴブレットの好感度アップだ。イベント分岐するなら予め教えて貰いたいもんだね。


 カーライル伍長は車両の整備を続けながら言った。


 「……失礼しました、軍曹。気安過ぎました。でも軍曹がそう言ってくれて安心したぜ。

  生きて帰れたら家に招待します。妻の手料理を御馳走しますよ」

 「美味いのか?」

 「結婚する前は有名なレストランのシェフをやってた。吃驚するような料理を出してくれる」

 「……楽しみにしておく」


 話が一段落するのを狙ったかのようなタイミングで、騒がしい声が近付いてくる。


 「危険だよナタリー」

 「分かってる。でもこんなネタを追っかけないでどうするの」

 「……君は昔からそんな感じだったね」

 「その通りよドレース。今回だってスタイルは変えない。

  置き去りにされた少年兵部隊の脱出劇。間違いなく高視聴率を取れる。

  それにアタシ個人の意見としても、彼等をこんな状況に追い遣った方面軍司令部を許しては置けない」

 「口封じとか……されないよね?」

 「やれるもんならやってみろってのよ。ただじゃ死なないわ。絶対に詳細を調べて、軍上層部のちょび髭親父どもをバッシングしてやるんだから」

 「はぁー…………僕もいい加減慣れて来たよ」

 「アタシは何とでもなるけど、アンタは死なないでよドレース。アンタの奥さんに恨まれるのは御免だわ。

  ……あ、いたいた」


 フレッチャーTVの騒がしい二人はイオを見つけて近付いてくる。


 「改めまして軍曹達。私達フレッチャーTV取材班は東部湾港街オクサヌーン・シティまで同行させて貰う事になりました。

  知ってる? フレッチャーTV」

 「いや、知らない」

 「まぁカラフじゃそうかもね。シタルスキア連合軍本拠のある東部大陸では有力大手なのよ。

  この未曽有の事態を取材する為にカラフ大陸まで来たの」


 簡単に言えば、“対岸の火事を見物に来た”、と言う訳だ。


 「……それで、俺達を密着取材すると?」

 「その通りです。邪魔だと感じたら捨てて行って貰って構いません。でも、貴方達の置かれた状況を人々に伝えなければならないと私は思います」


 子供を見捨てて大人だけ逃げるなんて、そんなの納得できない。

 ナタリーの目が燃えていた。


 『カラフ大陸から海を隔てて東部、多くの軍人が『本土』と呼ぶアウダー大陸は、今回のウィードラン大攻勢に関して危機感を抱いていません。遠い世界の他人事のように感じている。それがシタルスキア連合軍の動きの鈍さに現れています。

  現状で世論の後押しを得るのは重要です。サブタスクに「フレッチャーTV取材班の保護」を追加します』

 「(へいへい、女神様の仰る通りに、ってね)」


 ブルー・ゴブレットは彼等に利用価値を見出したらしく、イオに保護するようタスクを追加した。



――



 「残念だがここでお別れだ」



 チャージャー達シンクレア・アサルトチームは基地機能復旧後、別の車両を確保して次の任務に取り掛かる事にしたようだった。


 出会い方は決してよい物ではなかったが、彼等の持つ戦闘力は確かに3552の助けになった。

 クルークは素直に礼を述べた。


 「ここまで護衛して頂いた形になりますね。感謝しています」

 「違うな、俺は貴官らの車両を徴発して任務に利用したのだ。報告書にもそう書いてくれ」


 でないと俺は減給処分を食らうかも知れん。

 チャージャーは表情も変えずに彼なりのジョークを飛ばす。クルークは苦笑した。


 「イオ軍曹、良い腕だった」

 「……そうか」


 突然チャージャーはイオに向かって言う。


 「もし上手く本土に脱出出来たらシンクレアの選抜テストを受けろ。

  お前が我が隊に居れば大分楽が出来そうだ」

 「生き残ってから考える」

 「ふん……。少尉、奴を精々扱き使ってやれ」

 「言われるまでもありません」


 最後の最後まで生意気な奴だ。


 チャージャーはくっくと笑って去って行った。



――



 そして、軍の誇るスペシャルフォースと入れ違いに騒がしい戦場リポーター達が加わる。


 ナタリーとドレース。ドレースの方は兎も角として、ナタリーはその勇敢さと行動力を発揮してイオの後を何処へだってついてくるようになる。


 「バッチリ撮らせて貰いますよ」


 ナタリーはバイザーと一体になった小型カメラを装着していた。画質は粗くなるが、一人称視点の臨場感ある映像が撮れるらしい。


 「軍曹、今回はどんな奴らが居たんですか?!」

 「教えてください!」


 少年兵達は少し前と打って変わって元気を取り戻しているようだった。


 「……子供だけで何も出来る訳ないと、本当は皆思っていたんだ。

  私たちは全員死ぬのだと。

  だがイオ軍曹、貴官やカーライル伍長達が来てくれた御蔭で望みが出て来た。

  今では皆が『生きて帰れるかも知れない』と希望を持っている。これは実に良い兆候だ。

  彼等を安心させてやってくれ」


 クルークはそう言ってイオに少年兵と話す様に命じた。

 イオは引っ張りだこで、二台のトラックのどちらに乗るかで口論をする者まで居た。


 「イオ軍曹って冷凍睡眠に入る前は彼女とか居たんですか?」

 「……バカ、お前、少しは軍曹の気持ちも考えろよ」


 少年兵達の中には年頃の少女も居た。そういった話題が気になるらしく、頻りにイオの事情を知ろうとする。


 答えられる訳がない。イオの記憶なんて無いのだから。困ったように笑う事しかできない。


 だがクルークはそれでも満足そうにしていた。


 「悪くないぞ軍曹、上出来だ」

 「なら良いが。……このまま安全圏に抜けられるか?」

 「無理だろうな。今すぐにでも接敵して可笑しくない。私達は常に全滅の危険に晒されている」


 クルークはほんの少しずつだが、イオに弱みを見せるようになってきた。

 何と言えば良いのか。何かのフラグが立ったのか、イベントの進行度合いの問題か。

 AIが心を開いて来たとでも言えば良いのか。


 「……軍曹、次も頼む。貴官が居らねば我々は生きて帰れないだろう」


 震える瞳で言うクルーク。


 このゲームを作った奴は天才だ。それに人間の情動を描くのも上手い。


 イオは無表情のまま考えた。



――



 ――端末ユーザー、クルーク・マッギャバン

 ――4月14日 AM08:20 記録



 『今日も私は生きている。輸送トラックコンテナ上でこれを残す。


  我々は道中、シタルスキア連合軍スペシャルフォース、シンクレア・アサルトチームと遭遇した。最初は喜んだ物だが……なんと銃を突き付けられた。

  どうやらウィードランの糞どもは友軍に忌々しいウィルスをばら撒いているらしい。人の理性を奪う危険なウィルスだ。

  幸い我々の中に感染者は居なかった。シンクレアの持っていた検査機でそれが分かった。


  事情は知らないが、その後シンクレアと同道する事になった。彼等は自前のヘリを何処かの支援に回し、我々のトラックを徴発すると言った。

  結果的には我々は心強い護衛を得て、彼等は目的地までの足を手に入れた。損をした者は居ない。……多分。


  シンクレアの作戦目的である通信基地に立ち寄った。事前の情報では無人と言う事だったが、敵部隊と遭遇。

  シンクレアと、彼等に協力したイオ軍曹とでこれを全滅させる。

  戦闘データを私も見たが……イオ軍曹はほぼ初対面である筈の彼等の戦術機動を熟知しているように見えた。

  冷凍睡眠に入る前は彼も似た様な事をしていたのかも知れない。彼のデータの抹消部分の多さから見るに、あながち的外れと言う訳でもないだろう。


 通信基地には民間人が二名居た。フレッチャーTVと言う報道機関の人間だ。

 その内の片方、ナタリー・ヴィッカー氏はなんとたった一人でウィードランの制圧部隊と交戦し、あまつさえ生き残ったと言う。なんとも剛毅な話だ。


 彼女らは私や3552への取材を望み、私はそれを受け入れた。彼女らの記録する内容は世間に大いに波紋を呼ぶだろう。

 本来ならば彼女らの安全を確保する必要があるが、我々のような少年兵部隊にそんな余裕は無い。

 彼女らが生きて帰る事を願う。これは本心だ。


 通信基地で、カーライル伍長らが戦闘装甲車両を一台復旧させた。

 輸送トラックの護衛戦力として心強い。敵部隊と遭遇しても嬲り殺しにされずに済む。

 ウィードランどもは人間の生皮を剥ぎ、もだえ苦しむ様を見て楽しむと言うが……どうなのだろうな。

 そんな連中の捕虜になるくらいなら、自分で自分の脳味噌に鉛弾をぶち込んだ方がマシかも知れん。


 ……あぁそうだ、ウィスキーをどうしようか。

 カーバー・ベイを脱出する際、イオ軍曹は敵砲戦兵器トモスを破壊し、その護衛部隊を全滅させた。

 頭がイカれたと思われるかも知れないが、事実だ。脱出時の安全を確保する為に必要な作戦だった。

 私はイオ軍曹の極めて……あー、極めて英雄的な献身と、驚異的戦果に対し、隊の……そう、備品であるウィスキーを与えると約束した。これは隊員達も同意している。

 しかし現状、いつ遭遇戦が発生するかも分からないような状態でイオ軍曹に酔っぱらって貰っては困る。


 何か別の褒賞を考えねばならないな……』


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[一言] アンタは死なないでよドレース。アンタの奥さんに恨まれるのは御免だわ。 ↑ それで1人で戦ってたの!?(ノ´∀`*)
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